特集 2011年8月5日

写真集を自分で作ってみたらたいへんだった

かっこいいのができたよ!
かっこいいのができたよ!
じぶんの本なのに、なんども手にとってニヤニヤしちゃう。

やっぱり自分で作ると愛着がでますな!本。

今回は、自分の写真を、自分でレイアウトして、入稿データを作って、発送して、っていうのをひととおりやってみたので、その様子をご覧いただこう。いわゆる「同人誌」ですね。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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例によって工場の写真集ですけどね

とにかく、まずはどんな本ができあがったのかを見ていただきたい!
表紙。溶鉱炉の内部の写真!かっこいい!(自画自賛)
表紙。溶鉱炉の内部の写真!かっこいい!(自画自賛)
扉。表紙の反転で!かっこいい!(自画自賛)
扉。表紙の反転で!かっこいい!(自画自賛)
とにかくかっこいい!(自画自賛)
とにかくかっこいい!(自画自賛)
すごくかっこいい!(自画自賛)
すごくかっこいい!(自画自賛)
うひょー!かっこいい!(自画自賛)
うひょー!かっこいい!(自画自賛)
なんとかっこいい!(自画自賛)
なんとかっこいい!(自画自賛)
いやあ、ほんとにニヤニヤしちゃう。おかげさまで、これまでにぼくは何冊かの写真集を出版しているが、これほどニヤニヤしちゃうのははじめてだ。

これはやっぱり自分で作ったからなんだろうな、と思う。

おかげさまの通常の出版は、著者の他に編集さんがいて、デザイナーさんがいて、内容は相談し合って決めるし、印刷所に入稿するデータも自分では作らない。

でも同人誌はぜんぶ自分で作る。印刷だけだ、自分じゃない人にお願いするのは。

人と共同作業で作るのももちろん楽しいが、たまにはこうやって全部自分でつくるのも楽しい。

でもいろいろたいへんだった。勉強になったよ。
楽しいけど、たいへんだった。デザイナーさんの苦労が偲ばれる。
楽しいけど、たいへんだった。デザイナーさんの苦労が偲ばれる。
で、このニヤニヤ写真集、つくってどうするのか。

同人誌と言えば、そう!いちどコミケに出店してみたかったんだよね!
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コミケへの道

そう、コミケだ。

コミックマーケット。おそらく日本で、いや世界でもっとも有名な同人即売会イベント。作る気のある人たちがあつまって、その成果を自由に売ることができるイベントだ。今思えば、こういう土壌があったからこそ、日本の個人サイトは今のように趣味性の高いものになったのではないだろうか。団地のサイトとか。ガスタンクのサイトとか。

で、このコミケ。8月に行われるいわゆる「夏コミ」と12月に行われる「冬コミ」と、年に2回行われている。

wikipediaによると、紆余曲折と苦難の歴史があるようで複雑すぎてよくわからないが、1970年代から行われているようだ。ぼくが今回参加しようとしてるのは「C80」と銘打たれているので、80回目ということになる。すごい!
昨年の冬コミに見に行った際に、おそるおそる申し込み書を購入した。まずはここからだ!
昨年の冬コミに見に行った際に、おそるおそる申し込み書を購入した。まずはここからだ!
このコミケ。一般的には、なんというか、その、アニメ作品の二次創作だとかで、健全なもののほかに、その、なんというか、18禁的なえっちな同人誌が売られていることで知られているかと思うが、実はそういうものばかりではない。

というか「一般的には」知らないよね、コミケ。

ぼくも親に、コミケに出店するんだよ、って言ったら「なにそれ?」って言われた。そりゃそうだよな、知らないよな、ふつう。結局説明できなかったけど。
その申し込み書、開いたらちょうびっしりいろんなことが書いてあって、さっそく挫折気味。
その申し込み書、開いたらちょうびっしりいろんなことが書いてあって、さっそく挫折気味。
ぼく自身は、なんというか、その、アニメ作品の二次創作と言われるものにはあまり縁がない人生を送ってきたのだが、実は中学生のころに一度行ったことがあるのだ、コミケに。

現在はビッグサイトで行われているコミケだが、そのとき行ったのは晴海だった。当時仲良くしていた女の子に連れて行かれたのだ。今思えば、彼女は今で言う「腐女子」だったのだな!当時はなにも気がつかなかったけど!そういえば「キャプ翼」とか「聖闘士星矢」とかの話をよくしていた気がする。そういう時代だった。再放送でミンキーモモをやっていた。あとダーティーペア。あれはぼくも好きだった。
よくわからないまま、とりあえず申し込み書と参加料振り込みを行う。
よくわからないまま、とりあえず申し込み書と参加料振り込みを行う。
なぜ出展しようと思ったのかというと、そのほろ苦い晴海の思い出から二十有余年、ここ最近2、3年のあいだ、ちょくちょく客として見に行くようになって「これはおもしろいなあ」と思ったからだ。

デイリーにかつて記事として書いた高速道路フォントを再現しようとしている赤塚さんが定期的に出店しているのをはじめ(今回も出展するようだ)、知り合いがよく参加している。それらを見に行っているうちに、自分もやってみたいなあ!と思ったのだ。

そう、このように、二次創作ではない、オリジナルな趣味性の高い作品も多く出品されているのだ。

とにかく作り始めなきゃ!

これも知らなかったのだが、コミケって、参加できるかどうかは抽選で決まるのね。

まあ、そりゃそうか。のべつまくなしに受け入れてたんじゃたいへんなことになるよな。参加者絞らなきゃね。

と思ったが、抽選の末でもたいへんなことになってて、今回の当選した参加サークルは35000だそうだ!すごい!

なので、申し込みしてから当否の通知までは時間がある。いったいどういう基準で決めるのかしら。しかしとにかく、当選の知らせがあってから準備していたのでは遅い。見切り発車で作り始めなくては!
工場の写真ならたくさんあるぜ!
工場の写真ならたくさんあるぜ!"kojo"っていうハードディスクにたんまりと!

とりあえず、工場だな

で、なにを出店しようか、と考えてとりあえず工場の写真集でも、ということになった。

これまで「工場萌え」とその続編「工場萌えF」を出版したぼくだが、いずれも石井哲さんとの共著で、ぼくの写真単独で本を出したことはない。ここらでいっちょだしといてもいいんじゃないだろうか。工場の写真ならたくさんあるし!
さて、どれにするか!
さて、どれにするか!
これまでデイリーでもたびたび記事にしてきたように、日本中ほうぼうに出向いて工場をうっとりながめてきたぼく【→四日市に行った『ドボ年会をやってみた』や、北九州の工場に遠征した『北九州はエルドラドだった!』】だ。工場の写真はたくさんある。
これまでのたゆまぬ工場鑑賞っぷりで素材はたくさんある!(『ドボ年会をやってみた』より、どうかと思うファッションセンスで工場に挑む人)
これまでのたゆまぬ工場鑑賞っぷりで素材はたくさんある!(『ドボ年会をやってみた』より、どうかと思うファッションセンスで工場に挑む人)
というか、たくさんあってどれにしようか選ぶのに難儀した。どれも珠玉の工場たち。ふたりとも好き!どっちも選べないよう!って少女マンガの主人公のような心境になった。そんなマンガ実際には読んだことないけど。
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気合い入れて撮りすぎた

「これも入れたいな…あ、これも!」ってきゃっきゃうふふ、の楽しい工場選びのひとときだが、撮影に気合い入れすぎてて、いちいち写真のレタッチがたいへんだった。
掲載候補にエントリーしたこのすばらしい常圧蒸留塔。なにがたいへんって…
掲載候補にエントリーしたこのすばらしい常圧蒸留塔。なにがたいへんって…
ファイルサイズが1G超!無駄にハイクオリティ!
ファイルサイズが1G超!無駄にハイクオリティ!
いわゆる2億2千万画素です。
いわゆる2億2千万画素です。
だいたい、画面に全体表示させた状態で、この倍率!
だいたい、画面に全体表示させた状態で、この倍率!
100%等倍表示にしたらこんな!配管のメンテナンスでもするつもりか。
100%等倍表示にしたらこんな!配管のメンテナンスでもするつもりか。
なにをするにも時間がかかる!
なにをするにも時間がかかる!
うきー!あと何分かかるの!
うきー!あと何分かかるの!
いやほんと、ばかなんじゃないかと思った、自分。ぼくのマシンはまあまあそこそこのスペックだと思うのだが、何をするにも時間がかかる。重すぎる。
保存するだけでも数分かかる。
保存するだけでも数分かかる。
心理的にはこういう感じ。果てしない。
心理的にはこういう感じ。果てしない。
待っているあいだに手近にあるマンガとか読み始めると危険!
待っているあいだに手近にあるマンガとか読み始めると危険!
じっと画面を見つめて待っているのは精神衛生上はなはだよくないので、おちつけ自分、と手近にある本をとって読み始めたりするのだが、ついそっち夢中になってしまったりして、気がつけば夜中の2時とか。

もう!危険!でかいファイルサイズ危険!エスパー魔美危険!

時間だけじゃなくてお金と場所を圧迫する

でかいファイルと優柔不断の組み合わせは、時間だけでなく財政も圧迫する。
レタッチしたら、とりあえず「別名で保存」
レタッチしたら、とりあえず「別名で保存」
似たようなファイルがどんどんハードディスクを圧迫する。
似たようなファイルがどんどんハードディスクを圧迫する。
で、この体たらく。HDD屋さんか。
で、この体たらく。HDD屋さんか。
もとのバージョンもいちおうとっておかなきゃな、なんて「別名で保存」をくりかえしていると、あっというまにハードディスクがいっぱいになる。

しょうがないので、今回の同人誌制作のためにハードディスクを1台新調した。

もう何台目の外付けハードディスクだか。こうやって、でかい工場画像ファイルは財政と貴重なスペースを圧迫していくのだ。
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当選した!

そんな財政とスペース圧迫との戦いに明け暮れていたある日、コミケから当選の通知が来た!やっほう!
こういう通行票がとどいた。
こういう通行票がとどいた。
こりゃますます気合い入れて作らなきゃ!というか、印刷所に入稿してから刷り上がるまで1週間はかかる。こりゃいそがなきゃ!
はじめて使うソフト。どきどき。
はじめて使うソフト。どきどき。
どうにか写真選定も終わり、いよいよ印刷所に送る本の体裁をしたレイアウトデータを作らなければならない。

ここで問題なのは、使ったことのないソフトをぶっつけ本番で使用しなければならないということだ。

名前だけは聞いていた、エディトリアル・ソフト、INDESIGN。そうか、いままでデザイナーさんはこういう作業をやっていたのね…とか感心している場合ではない!いきなり使えるのか?
なんと試用期間が1ヶ月あるので、その間に完成させることができれば…!
なんと試用期間が1ヶ月あるので、その間に完成させることができれば…!
正式に購入せずとも、1ヶ月間の試用期間の間に完成させることができればタダだ!というか、それ以前に1ヶ月で仕上げられなければコミケに間に合わない!

写真集でまだよかった…

思えば、エディトリアルソフトを使うのは、十数年間、大学で論文を書くときに使った「PageMaker」以来。なつかしい。もうないのよね、ページメーカー。あのときの論文もそういえば「工場のコンバージョン提案」だったなあ…

などと感傷に浸っている場合ではない。使い方わかるかしら?
四苦八苦ながら、まあ写真配置していくだけなので、なんとかなった!
四苦八苦ながら、まあ写真配置していくだけなので、なんとかなった!
こうやって見開きでページをレイアウトしていく。だいじょうぶかな…
こうやって見開きでページをレイアウトしていく。だいじょうぶかな…
写真集で本当によかった。これが複雑にテキストが配置されているようなものだったら、使いこなすのに時間がかかって、とうてい間に合っていない。

ただ、それでも難しい点がいくつかあった。まずは噂に聞いていた「塗り足し」だ。
縁なしの状態でページいっぱいいっぱいに写真を載せるには、紙のサイズより外側に3mmほどはみ出させてデータを作らなくてはならない。
縁なしの状態でページいっぱいいっぱいに写真を載せるには、紙のサイズより外側に3mmほどはみ出させてデータを作らなくてはならない。
いわゆる「裁ち落し」と呼ばれる、ページいっぱいに写真を印刷するためには、印刷される範囲と裁断される範囲にズレが生じるのを見越して、外側および内側にそれぞれ3mmずつ余裕を持たせなくてはならないのだ。

と、これだけきけば単純そうだけど、これ、元写真データの解像度などをそろえるのを何十枚もやると、地味にたいへんなのだ。

あとは、見開きの写真の調整。
こんなふうに見開きで一枚の写真の場合は、ページとページのあいだに調整が必要。
こんなふうに見開きで一枚の写真の場合は、ページとページのあいだに調整が必要。
開くところは完全には開ききらないので、びみょうに画像をダブらせる必要がある。このさじ加減がわからなかった。
開くところは完全には開ききらないので、びみょうに画像をダブらせる必要がある。このさじ加減がわからなかった。
調べても、この見開きで写真がまたがる際のダブらせ具合が見当がつかなかった。ええい!ままよ!と3mmほど重ねることにした。どきどきだ。

こういう地味な配慮でできているのねえ、本って。

タイトルと表紙考えてなかった!

エスパー魔美との誘惑と戦いながら、なんとか本文ページを仕上げたのは逆算した入稿締め切りの2日前。ふー。

あっ!表紙忘れてた!
あわてて作った表紙と裏表紙のレイアウト。タイトルは前作「工場萌えF」にならい「工場萌えO(オー)」にした。もちろん「大山」の「O」だ。
あわてて作った表紙と裏表紙のレイアウト。タイトルは前作「工場萌えF」にならい「工場萌えO(オー)」にした。もちろん「大山」の「O」だ。
やぶれかぶれで付けたタイトル。あせって著者名とか入れるの忘れたので、表紙は墨痕鮮やか「O」だけだ。まあ、かっこいいからいいんじゃないか。ふつうの本だったらこうはできないし。同人誌ならでは、ってことで。

全ページはこんな感じ

そんなこんなでできあがった入稿データ。全ページはこんなぐあいだ!
これが表紙。以下本文(画像クリックで大きなものをご覧いただけます)
これが表紙。以下本文(画像クリックで大きなものをご覧いただけます)
これが扉。なんとここにも著者名入れ忘れた!まあいいか。
これが扉。なんとここにも著者名入れ忘れた!まあいいか。
奥付。さすがにここには名前入れた。
奥付。さすがにここには名前入れた。
そして裏表紙。
そして裏表紙。

やってきた!

で、1週間後の先日、印刷所からやってきた!
ダンボールでどん!
ダンボールでどん!
で、すぐさまコミケ宛てに送ります!
で、すぐさまコミケ宛てに送ります!
郵便局の人、よろしくお願いします!
郵便局の人、よろしくお願いします!
当日、受け取るためにはこの控えが必須とのこと。忘れないようにしなきゃ!
当日、受け取るためにはこの控えが必須とのこと。忘れないようにしなきゃ!

2011年8月14日 ビッグサイト東W47aで待ってます!

考えてみたら、世の中の「著者」と呼ばれている人のほとんどはどうやって印刷所にデータが入稿されているか知らないんじゃないだろうか。ささやかだけど、ひととおり自分でやってみて非常に勉強になった。

結局 "INDESIGN" は購入したので、また「冬コミ」にむけて作ってみようかな!当選すれば、だけど!
にやにやしちゃう!
にやにやしちゃう!
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