特集 2011年8月8日

おまえも指紋検出してやろうか

秘密はアルミニウムにあり

刑事ドラマなんかで見る、鑑識の人が証拠品に粉を乗せて耳かきみたいなのでポフポフやるシーン。あの粉はなにか専門的な薬品なのかと思っていたら、どうもアルミニウムの粉末なのだそうだ。
25グラムで398円。2個買った
25グラムで398円。2個買った
手芸なんかに使うことがあるようで、東急ハンズでも売っていた。(これは安かったので通販で買った)
紙に包むだけという武骨な包装は「わかってる人向け」な感じで高揚する
紙に包むだけという武骨な包装は「わかってる人向け」な感じで高揚する
とにかく細かい。一瞬、まちがえて固形のブロックを買ってしまったかと思ったテクスチャ
とにかく細かい。一瞬、まちがえて固形のブロックを買ってしまったかと思ったテクスチャ
使いやすいように小瓶に詰めてみた
使いやすいように小瓶に詰めてみた
手がアルミメッキに
手がアルミメッキに
粉末はかなり細かくて、ちょっとの衝撃でもすごく舞い上がる。瓶に移す時なんかモックモクである。

この企画を企画会議で出したときに、「アルミの粉は吸い込むとアルツハイマーになるらしいですよ」とかなんだか眉唾っぽいことを言われたのだ。ほんとかよ、と思いながらも、作業中はついつい息を止めてしまう。

心配になってネットで調べると、アルツハイマーについては賛否あるようでよくわからなかったが、それとは別に「水やアルコールに触れると爆発を起こす」と書いてあった。刑事ドラマでは脇役の鑑識の人たち、実は刑事に負けず劣らず死と隣り合わせの仕事なのかもしれない。

いざ採取

まずは簡単そうなサンプルで試してみよう。プラスチックのフタにべっとりと、自分の指紋をつけてみた。
指をべっとりと押し当てる
指をべっとりと押し当てる
指紋ついたかな
指紋ついたかな
肉眼で見ると、汚れているのはわかるけど、紋の識別ができるほどクッキリとは見えない。
あの危険な粉を使えば、これを浮き彫りにしてくれるのか。
粉を落として筆で塗りつけ
粉を落として筆で塗りつけ
例の耳かきみたいなやつ…がなかったので耳かきを買ってきた。これでよけいな粉末を払う
例の耳かきみたいなやつ…がなかったので耳かきを買ってきた。これでよけいな粉末を払う
くっきり!
くっきり!
化石でも発掘するかのように慎重に要らない粉を落としていくと、アンモナイトのような渦巻きがバッチリ現われた。力強い指紋。鮮明すぎてここに写真を載せるのを躊躇してしまうほどである。

ネットリテラシーの基本「気軽に個人情報を載せないようにしましょう」に指紋は含まれるのだろうか。
テープを貼って
テープを貼って
剥がせば指紋採取完了
剥がせば指紋採取完了
こうして僕の指紋の標本ができた。作業的には5分もかからないが、やると周囲が半径1mの範囲で粉だらけになるので注意しよう。事件現場を粉だらけにしないでスマートに作業するのは、やはり鑑識のプロだけができる技なのだ。

ちなみに指紋が浮き出るしくみは単純で、皮脂にアルミがくっつくから。皮脂を拭き取ってしまうと、この方法では指紋は採取できない。

自然についた指紋を採る

さっきはわざとつけた指紋を採ったけど、こんどはより実践に近く、生活の中で自然についた指紋を採ってみようと思う。
愛用の携帯電話ですが
愛用の携帯電話ですが
かなり指紋が目立つ外装です
かなり指紋が目立つ外装です
粉を乗せて
粉を乗せて
広げていくと
広げていくと
明らかに乗せすぎだ
明らかに乗せすぎだ
アルミ粉末を乗せすぎて、えらくかっこいいことになってしまった。富士通製の携帯が急にMacBook Airみたいだ。
1枚のアルミニウム板から削り出された継ぎ目のない「ユニボディー」を採用(嘘)
1枚のアルミニウム板から削り出された継ぎ目のない「ユニボディー」を採用(嘘)
でも耳かきで掃いていくとだんだん指紋が現われてくる
でも耳かきで掃いていくとだんだん指紋が現われてくる
MacBook Airみたいだった携帯が、マクドナルドのポテトを食べたあとにベタベタ触ったMac Book Airみたいになった。(わかりにくいですがMacとマックがかかっています)

粉を綺麗にしているのにどんどん汚くなっていくのは、直感と逆でおもしろい。
テープに転写したのがこちら
テープに転写したのがこちら
やっぱりくっきり
やっぱりくっきり
粉を乗せすぎたのと、指紋が多すぎて混ざっちゃってるので、さっきほどは鮮明にならなかった。それでも充分くっきりした指紋が採れたと思う。

おばちゃんの指紋をゲットせよ

自分でつけた指紋はけっこううまく採れた。
本格捜査への最終ステップとして、次は他人の指紋を採取してみたい。そして僕は近所のコンビニに向かった。
指紋がつかないように手袋で購入
指紋がつかないように手袋で購入
これが証拠品だ
これが証拠品だ
左右の写真で商品が変わっているが気にしないでほしい。ピーチよりグレープのほうが美味しそうだっただけだ。

問題はこの2枚の写真のあいだにあった出来事であって、つまりレジ精算。このパッケージにはレジのおばちゃんの指紋がついているはずなのだ。
さっそく指紋採取開始
さっそく指紋採取開始
こ、これは…
こ、これは…
レジのおばちゃんの指紋
レジのおばちゃんの指紋
すごい。これまででいちばん鮮明な指紋が採れた。レジのおばちゃんは、ほんとに一瞬、バーコードを読むために商品をつかんだだけだったのだが、こんなにクッキリとした指紋が検出された。パッケージのビニール素材がよかったのかもしれない。

あと、この行為、一歩間違えば変態である。
おばちゃん、いつもありがとう…
おばちゃん、いつもありがとう…

本格捜査開始

さあ練習はここまでだ。いよいよ実践編。本格捜査を開始する。
実は編集部には、未解決のまま手がかりがなく、放置されている事件があるのだ。

その未解決事件とは、これだ。
共有スペースにペットボトル長期放置事件
共有スペースにペットボトル長期放置事件
ここは編集部のメンバーが作業机として使うためのスペースなのだが、1ヵ月ほど前からここに2本の飲みかけペットボトルが放置されている。
みんなの共有スペースになんてことを!前々からいつか犯人を突き止めてやろうと思っていたのだ。
検出作業ももう慣れたものです
検出作業ももう慣れたものです
今回は指紋が古いため、指紋の状態もよくない。捜査はやや難航することが予想される。
写真中央、たしかに指紋っぽい輪郭はあるが、うずまきのディテールまでは見えてこなかった
写真中央、たしかに指紋っぽい輪郭はあるが、うずまきのディテールまでは見えてこなかった
うーん
うーん
若干心もとない証拠ではあるが、とりあえず近くにいる人の指紋を採取し、照合してみることにした。
容疑者は編集部の工藤さん(たまたま席にいたので)。スタンプ台で指紋を採取
容疑者は編集部の工藤さん(たまたま席にいたので)。スタンプ台で指紋を採取
うむむ…
うむむ…
わからん。指紋の見分け方のポイントがわからないし、それ以前に古い指紋はやっぱりぼやけていてなんだかよくわからないのだ。

しかしあいにく他の編集部員は出かけており、ほかの容疑者がいない。証拠不十分は重々承知のうえだが、ここは「疑わしきは罰せよ」のルールでいくしかない!

工藤さん、謝ってください。
事情もよくわかんないままに謝らされる工藤さん(同僚としてはかなり親切な部類)
事情もよくわかんないままに謝らされる工藤さん(同僚としてはかなり親切な部類)
こうして事件は一件落着を迎えた…かと思われたが、その時たまたまウェブマスターの林さんが出先から帰ってきた。
「ごめん、そのペットボトル、おれ。」
「ごめん、そのペットボトル、おれ。」
先月、撮影中に飲んだものをそこに置いておいたのだそうである。「いつか片付けなきゃなーと思ってた」とのことだ。
えん罪事件発生。ごめん、工藤さん!

こうして真犯人が判明するも相手が上司なので僕もあまり強くは言えず、今も作業机には麦茶のペットボトルがそのまま置かれているのである…。

自販機のボタンしらべ

自分には捜査の才能がないことがわかったので、刑事ごっこはやめてちょっとした実験をしてみたいと思う。オフィスにある自販機のボタンしらべだ。
素直に考えれば、売れ筋のものほどボタンが指紋だらけだと思われる。試してみよう。
職場にある自販機
職場にある自販機
この自販機には毎日午前中に業者の人がきていて、補充のついでにボタン部分も拭いているのを見たことがある。調査は夕方行ったので、午前中~夕方のあいだに売れた量がポイントだ。

今回は、よく売れてそうなペプシNEX、そして売れ筋は夜の残業時間帯と思われる(つまり昼はあまり売れていなそうな)リポビタンDの2つを比較してみることにした。
ボタンにアルミ粉を塗布
ボタンにアルミ粉を塗布
耳かきで余分な粉を落とし
耳かきで余分な粉を落とし
ひとつだけ削り残したスクラッチカードのようである
ひとつだけ削り残したスクラッチカードのようである
テープを貼って
テープを貼って
はがす
はがす
ほんとは人通りの多い駅の自販機とかでやりたかったのだが、意外に道具も多いし粉も散るしで大がかりな作業なので、会社の自販機で我慢した。こうして写真を見るとつくづくいい判断であったと思う。どう見ても何かよからぬ細工をしているようにしか見えない。

さて結果は。
リポビタンDの指紋
リポビタンDの指紋
こっちはペプシNEX
こっちはペプシNEX
うーん、あんまり変わらない。どっちも指紋がついてないのだ。
自販機のボタンが指紋のつきにくい材質なのだろうか。

あきらめて道具を片付けていたその時、たまたま同じフロアの人が飲み物を買っていった。
カモや!
カモや!
すばやく採取
すばやく採取
みごとに指紋を検出
みごとに指紋を検出
これもあんまりはっきりは出てないのだけど、中央下の方、あとは右上の方にもなんとなくうずまき見えてるのがわかるでしょうか。

でも新鮮な指紋のわりには全貌がはっきり見えてるわけではないし、どうも自販機の指紋採りは難度が高いようだ。「触るだけじゃなくて強く押すから指紋が擦れて消えてしまうのでは」とは写真を撮ってくれた編集部・橋田さんの談。

ちなみに指紋の検出後は粉末を拭き取る必要があるため、指紋も消えてしまう。つまり指紋検出のチャンスはいちどだけ。
一回で必ず成果をだすことが要求されるのが指紋検出の世界であり、今回のような失敗は許されない。けっこうシビアなのである。

指紋以外もいけるのでは

最後にちょっとした遊びを考えてみた。皮脂を検出しているのであればなにも指紋に限ったことではないだろう。たとえばこんなこともできるのでは。
クリアファイルをよく拭いて
クリアファイルをよく拭いて
手を密着
手を密着
大きく広げてポフポフすると
大きく広げてポフポフすると
手形の完成
手形の完成
けっこう綺麗にとれてる。奥行きこそないものの、浅草の手形みたいである。

さらに、もうひとつの指紋検出応用編として、こんなのはどうだろうか。
自宅郵便受けにて。「…あれ、これはなんだ?」
自宅郵便受けにて。「…あれ、これはなんだ?」
「裏面に何も書いてないぞ、なんなんだ」
「裏面に何も書いてないぞ、なんなんだ」
「指紋検出で差出人を調べてやろう」
「指紋検出で差出人を調べてやろう」
「あっ」
「あっ」
暑中見舞い
暑中見舞い
あぶり出しに代わる次世代のおもしろハガキとして指紋文字を考えた。

が、うまく行かなかったので写真は合成である。
指についた皮脂などごく少量なので、文字を書いてるうちに消えてしまうのだ。あとは郵便屋さんや受け取った相手が読む前に指紋をベタベタつけてしまうという難点もある。

将来的な進化の過程で、人間が皮脂を万年筆のごとく絶え間なく供給できる能力を獲得すれば、実用化できるかもしれない。

10gでいい

指紋検出は楽しい。見えないものが見えるようになって、五感のほかに新しい知覚を獲得したような気になるのだ。
ただ、50g買ったアルミ粉末が、いま手元に大量に余っている。この記事を読んで自分もやってみたくなった人がいたら、これだけはお伝えしておきたい。

10gで充分だ。
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