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コネタ


ウイルスの恐怖展 連動企画
 
さすまた道入門

人は、「さすまた」についてどれだけ知っているだろうか。

あの大阪・池田小の事件の教訓から、不意の不審者侵入に対しての防衛という目的で、各地の学校に常備されるようになった、さすまた。

江戸時代の捕獲用具が起源である、「刺す」とかいて「股」と書く、さすまた。

概容はだいたい知ってはいるが、実際には見たことも持ったこともない。ましてや使い方など。

というわけで、さすまたの講習を受けに行ってきました。

乙幡 啓子

とはいうものの、なかなか講習会をやっているところがわからない。Webを検索したら、藤沢市で以前、学校に警察署の方が出向き講習会を行った、という記事を発見できた。というわけで、藤沢北警察署にご協力を取り付け、出かけて行って講習を受けることとなった。

「犯人役と、屈強な警察官を数名用意しておきますんで!」と、生活安全課の阿久津さんに電話口で言われる。どうしよう、こちらの取材陣は、私一人。その中に入って、平常心で写真など撮れるだろうか。


応接間でいきなり、カバーつきで。

「じゃ、道場に行きましょう!」
到着早々、出ました、道場。警察の、畳の部屋で、さすまたを。緊張は頂点に。

長さ調節でいっぱいに伸ばしたところを持たせていただいた。かなり長いし、重さもある。どのくらいの重さかというと、重量は1.55kgとのことなので、2kgのお米を細長くして握っている感じでしょうか。よけいにわかりにくくなったが、いずれにしても、ちょっと振り回すのには力がいる。


これが警察備品のさすまた。これは「膝引っ掛け部」付きのタイプ。長い!

「けっこう重いですね!」
「あまり軽いと、犯人にあしらわれてしまうので、ある程度の重みは必要なんです」
なるほど、確かに。ボウリングの球のようなものだろうか。

では、講習を受ける。師範は、管内でなぎなたの師範もされている泉水孝子警部補だ。

「まず、利き手を前にして持ちます。」
「滑らないよう、ゴムの滑り止めのついた手袋をはめたほうがいいでしょう。」


犯人役。ホイルを巻いた、偽のナイフを持って。
この位置からはわかりにくくなってしまってますが、持つ手の位置に注目。

「(右上の写真)このように持つと、犯人のナイフが自分の手に届いてしまうので、なるべく端を握るようにします。」

実際、講習会では、熱中して振り回すうち、どんどん犯人のふところに飛び込んでいってしまう人もよくいるそうだ。けっこう重くて大変だが、なるべく端っこをつかむようにしよう。


これくらい離れられればOK。

 

「でも師範、1本だけで犯人を遠ざけることができるものなのでしょうか?」
「やはり1本ですとね、犯人が左右に動けばあおられてしまいますんで、なるべく壁に押し付けて、部屋の隅に追い込まないと。そのときも2〜3本、またはそれ以上で取り押さえられれば安全です。」

では実際に追い込んでもらった。以下は、走って追い込んでいくさまを後から追いかけて撮影したものである。



「このように、凶器を持ったほうの腕と首を挟むと、動きを取れなくすることができます。」そして・・・



ズダダダダーッと壁際へ追い詰める。



コーナーで、確保!

 

(ここでご親切にも、さすまたが撮影時に見えにくいだろうと配慮いただき、オレンジ色の服を着た署員の方に犯人役がバトンタッチされた。)


「こうやって足を引っ掛けるのも有効です。」
「首に引っ掛けるのもいいでしょう。」
「膝の少し上を押さえるようにするとよいです。」
少しくらい暴れても身動きできない、という場面。
ころばして、確保!

本気で刃向かって来られたら、そりゃ万全とはいえないかもしれない。だが、上のように倒れるまで行ってしまえば、あとは大勢でワッと押さえるなり、対策はとれそうである。
「あとは学校の備品、例えばボールとか机とかぶつけるなりすればいいわけですよ。」そうだ、学校には、投げるものはいっぱいある。黒板消しも。あさがおの鉢も。


私も体験。このリモート感覚が、安心感を起こさせる。

一見、あの形状は何か見る人を安心させるものがある。私は当初、「犯人から離れつつ押さえられるあんな道具があれば、無敵じゃないか?」と感じ、それでなんとなく「さすまたさえあれば誰が侵入してきてもサッと取り押さえればOK!」と思っていた。

だが、違うのだ。さすまたは、どうにも犯人を抑えられなくなったときの、最終手段なのだ。
「 不審者が来て、ワッと大勢で出て行って力で取り押さえようとすると、かえって犯人を興奮させ、あらぬ行動に走らせてしまうことにもなりかねないんです。」

よって、さすまたの登場は最悪の場合にして、何人かで構えて裏で待機はしておき、まずは興奮させないよう、時間をかせぐのがよいという。

以前、学校に、「おいしい野菜を食べさせたい」というおじさんが、鎌を持って入ってきたことがあった。先生がなんとか穏やかに応対して、やがて自然に外に出して、それで到着した警察官に身柄を渡した、ということがあったそうだ。

先生もえらいが、いきなり鎌を持ってやってくるのもどうかと思う。
とにかく、守られるべき者らの安全はもちろん第一だが、守るべき先生達の安全も考えつつ、臨機応変に対応できれば、言うことはないのだ。


現在は、市の保育園から小学校まで、1校に5本ずつ全て行き渡っている。それらは、先生方には手に取りやすく、しかし子供たちからは見えないようなところに保管するよう、指導されているという。

講習もだいぶ行ったが、やはり突発時に上記のような有効な対策が取れるよう、けっして軽くはないさすまたを冷静に扱えるよう、頻繁な訓練が必要である。以上、現場からでした。

ご協力いただいた、神奈川県警ならびに藤沢北警察署の生活安全課の皆さん、どうもありがとうございました。

編集部から

へー、さすまたってすごいですね。と普通に感心して読んだ今回の連携企画。リモートで悪漢をとらえる感覚がウイルス対策ソフトに似ています。自分の安全を守りつつ、被害を受けないように。

さすまたチックなウイルス対策はウイルスの恐怖展をぜひご覧下さい。今月いっぱいまでですよ。


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