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ちしきの金曜日
 
自分をさかのぼる誕生日

10年前、ぼくはここにいた

10年前の1996年、ぼくは大学3年生だった。

専門はコンピュータで、朝まで端末室でプログラムを作ったりして遊び、眠くなるとそのまま椅子を並べて寝る、というようなことを繰り返していた。

端末室にはそういう連中ばかりが集まっていたので、しまいには、高さの違う椅子をどう並べるとより深い眠りが得られるか、といった知識が全員で共有されたりもした(注:端末室は泊まるための部屋ではありません。みなさんは泊まらないようにしましょう!)。

 

夏休みのある日、必死の形相で走ってきた大学の職員に、あなたが三土さんですね、といって腕をつかまれたことがあった。

一ヶ月ちかくも大学に泊り込んで下宿先に帰らなかったために、心配した両親が大学に捜索願いをだしたためらしい。

それ以来、ぼくが学校に泊まる頻度はあまり変わらなかったものの、両親にはちょくちょく電話をするようになった。

 

そしてそのころ住んでいた下宿先

その頃住んでいたのがここ。

六畳一間で家賃は四万円。駅からはすこし遠いけれど、なんといっても家賃が安いので、気に入って長いこと住んでいた。

ところが夏のなかごろに出入口のカギを2回つづけてなくしてしまったことがあって、さすがに大家さんにも言いづらくて、しばらくずっと大学に泊りこんでいた。

 

そのことを友人にいうと、「おれがカギを開けてやる」と言う。

それはもちろんなんの解決にもなっていないのだけど、そんなことができるものなら見てみたいという思いもあり、深夜、彼を含む友人5,6人をつれて自宅へもどった。あとで思い返すと全員が酔っ払っていたのがすでに悪い予兆だったんだと思う。

彼らの作業が終わるのを外で待っていると、とつぜん「パリン」という澄んだ音が深夜のまちに響き、つづいて彼らのにぎやかな声が聞こえてきた。

慌てて戻ってみると、扉は確かに開いていたものの、そこにはめられていたはずのすりガラスは見当たらず、そして床の上にはきらきらと粉のようなものが輝いていた。

ぼくは観念して大家さんにすべてを話し、半ば呆れられ半ば怒られて、なんとか許していただくことができたのだった(注:みなさんは扉はカギで開けましょう!)。




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