いよいよ牛を見に
すでにいくつかの闘牛スポットを周ってその裾野の広さを実感しつつあるたわけだが、このへんでそろそろ本物の牛が見たくないか。ということで闘う牛の飼われている牛舎を見に行くことにした。実は内田さんも牛舎の場所までははっきりと知らないらしい。牛は一般的な農家で普通に飼われていることが多いのだ。
「だけどだいたいの目星はついてるのよね。」さすが、そうこなくっちゃ。
両側をサトウキビ畑に囲まれた細い道を走っていくと、なにやらコンテナらしき建物が集まった場所があった。明らかに住居ではなさそうに見える。
「このあたり、怪しいわね」
内田さんの牛センサーがぴこぴこいってる。空もおあつらえ向きのドラマチックな曇天だった。
「あ、これ、見て。」内田さんが何かを見つけた。
「これ牛の練習場よ、近くにいるはずだわ。」
真ん中にタイヤの組まれた練習場らしき場所があった。確かに闘牛の練習以外には使い道がなさそうだ。
練習場らしき場所の隣の建物におじゃましてみると、内田さんの読み通り中では闘牛と思われる牛が飼われていた。
ちょうどおじさんがエサとなるサトウキビの若芽をリヤカーで運び入れているところだった。近くで見てもいいよ、との許可を頂いたので牛舎の中へ入ってみることに。牛舎の中はとてもきれいに掃除されている様子だった。
「この牛、闘牛ですか。」
「この牛はまだケンカさせるには早いなあ。来年かその次かな。」おじさんが言うには闘牛で闘うには7〜9歳くらいがピークとされているらしい。
内田さんは若い牛の将来を見極めるかのような鋭い視線で何枚もシャッターを切っていた。
試合を控えた牛もいた
隣の建物にもやはり牛が飼われていた。こちらの牛はなんと次回の大会で戦う予定なのだとか。リング名は湾もも虎(わんももこ)。かなりかっとんだネーミングだが、闘牛界ではさほど驚かない。
それにしても牛は穏やかな表情をしていた。僕は一度会場で見たあの目の血走って手の付けられないくらいに興奮した牛しか知らなかったので、こんなやさしい目で迎えられると逆に戸惑ってしまう。もも虎はうまそうにサトウキビの若芽を食んでいた。
「試合前にはエサをあげないとか、明かりを消して暗闇に置くとかって聞いたんですけど。」内田さんが牛主さんに聞く。
「そうだね、1週間前くらいから食事を減らして体を絞っていくね。だけど暗闇に置くってのは昔のやり方だろうな。今はそんなことしない。」
牛主さんによると、試合前に角を磨かれると牛は戦いが近いことを悟るのだという。この取材の時点で春の闘牛大会まであと1週間、もも虎もこれから戦闘モードに入っていくのだ。