それは、「三崎の朝市」への、取材の帰りだった。
赤い車両の京急に乗っていた。東京都内に戻っていくについれ、景色はグレーが多くなり、空気に緊張感が増していく。
徹夜明けでくたびれていた私は、片手に缶チューハイを持って、口にひとさし指で柿ピーを押しこんでいた。もぐもぐ。
途中、多摩川にかかる鉄橋を超えた。そのときに、ある風景が目に入ってきた。
雑草だらけのはずの土手が、一ケ所、固まってハゲていた。
ハゲていた、というよりは、「手入れ」がしてあった。
「………?」
よく目をこらして見ると、ハゲた場所のはじっこに、ヒマワリが並んで、狂ったように咲いていた。
「あれ、ひょとして、『庭』かな……?」
デレク・ジャーマン、という人を思い出した。もうずいぶん前に亡くなった映像作家だ。原子力発電所の裏っかわに住んでいて、そこに『庭』を作っていて……写真集を見たことがあるのだが、ずいぶん変わった庭だった。妙な凄みがあった。
「多摩川にも、デレク・ジャーマンがいるのかな? いや、そんな……」
疲れているせいで、目がおかしくなったのかも、と思った。
(text by 大塚幸代)
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