げんなり寿司ください
和食 魚八さんは山間の別荘地にある近所の人が訪れるようなご飯やさんだった。木の引き戸と白に黒字の暖簾にやや緊張するも、入ってみると有線と思われる演歌が流れ、客席はオール座敷。目の高さに設置されたテレビからはNHKニュースが流れているという落ち着ける雰囲気。
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げんなり寿司と金目鯛の店
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「すみません、げんなり寿司ください」
「え?」
「あの、げんなり寿司を」
「げんなりのコースですか?」
「いえ、お寿司だけで…」
「げんなりだけね、ハイ分かりました。(厨房に向かって)げんなりひとつ」
お店の人的には「げんなり寿司」はすっかり「げんなり」呼びだ。げんなり、という言葉が完全に副詞としての機能を失っている。何の疑いもなく連発される、げんなり。清々しい。
「はい、げんなり、お待たせしました」
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