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特集


ロマンの木曜日
 
タクシー運転手の行きつけに連れてってもらう

綺麗な海が見たいの

日が暮れてしまう前に、タクシーの運転手さんがお勧めする綺麗な海に行きたい。
皇居前のトイレにやって来た運転手さんに声をかけた。

「綺麗な海が見たいんですが」
「海……」
「どこかありませんか?お勧めスポット的な所」
「じゃあ、あそこだ、レインボーブリッジとゆりかもめと一般道が並走している所。あそこから見る海は綺麗ですよ」


レインボーブリッジ方面に行きます

運転手の山崎さん(63才)はタクシーに乗ってまだ2年。
普段は東京駅近辺を流している。

「東京駅で仕事していると、色々なお客さんが来ますよ」
「例えばどんな人です?」
「あれは忘れもしない、去年の11月30日。深夜0時過ぎ、東京駅で待機していたら若い女性が窓を叩くんです」
おっ、霊的な展開か?それともお色気系か?
「最初は道が分らないのかと思いましてね、窓を開けて『どうしましたあ』、なんて軽く声をかけたんですけど、どうも顔色が悪くて、顔から血の気が引いちゃってて……」
霊的な方向だな。


そろそろビューポイントですよ

「で、どうしたんです」
「ええ。どうしました?って聞いたら、これから新潟まで連れてってくれって言うんです」
「えっ? 新潟ですか?」
「ええ、行っていいものか迷いましたけど、相当切羽詰まった様子だったので行く事にしました」
「それで、それで?」

「あっ、ここからの景色です!」


慌ててピンボケ

「あっ、過ぎちゃいました……」
「ここ、車停められないから…。でもこの道ぐるっと回ってるので、また見えますよ」
「そうですか、じゃあその時教えて下さい」
「ええ、凄く綺麗ですから」

「それで、どうしました? その人? 関越トンネルに入った瞬間、消えたとか?」
「いやいや、消えはしなかったですけど、とにかく気の毒なくらいメーターが上がっていくんですよ」
「新潟ですもんね」
「ええ。それで、時間が経つにつれて、段々その人が落ち着いてきたので、何で新潟なのか聞いたんですよ。そうしたら…」


あっ、ここですけど

「何だか視界が狭くて良く見えなかったですね、海」
「すみません、お知らせするのが遅かったようです」
「仕方ないです。それよりも、その人は何で新潟なんですか?新潟に誰かを残したまま死んじゃって、どうしても最後の挨拶がしたかった、とか?」
「いや、そんなんじゃなくて、出張だったようです」
「出張?」

その人は朝一から新潟での大事な商談を控えたOLさんで、新幹線の最終に乗り遅れてしまい、仕方なくタクシーで、という事だったらしい。霊でも何でもなかった。

ちなみに新潟までの所要時間は6時間で、料金は13万6000円也。

「あまりにも可哀想だったので、コンビニでお弁当とお茶を買ってあげましたよ。それくらいサービスさせてくれ、って気持ちでしたから」

そりゃあ、お弁当くらい奮発しますよねー、13万円ですもん。
まあ、それのお陰で僕は海を見逃しましたけど。


「せっかくなので、お台場まで行きましょうか」
「そうしてください」


お台場でも充分綺麗だったよ


今回の取材、ずっとタクシーに乗ってればいいから楽だろうなあ、と思っていたけど実際はそうでもなかった。とにかくこちらから積極的に運転手さんに話しかけないといけない訳で、それはもう、歩き回る事以上に心労っていうんでしょうか、普段使わない筋肉を使った後みたいな根深い疲れが残りました。

まあ、それ以上にタクシー運転手さんたちの貴重な情報に触れる事が出来て満足ですけどね。
運転手の皆さん、ご協力ありがとうございました。


 

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