高宮さんも帽子がはじまりだった
少し慣れてきて会話ができるようになってきた。
「あ、高宮さんのあみもののきっかけってなんだったんですか」
「むかしレゲエにはまってて、ラスタ帽が欲しかったんですけどいいのがなくて」
「自分で作っちゃったという?」
「僕もけっこう頭が、ほら…」
「あ、ほんとだ。」
頭の大きな人がみな編みものができるとしたら面白いと思う。切ないけど。
だんだん袋状になってきた。やや歪んではいるのが気になる。そのことを高宮さんに言うと、
「大丈夫です。わたを入れればなんとかなりますから」
「『わたを入れる』ってことわざっぽいですね」
「『いままでいろいろあったけど、わた入れてさ』って感じで。」
「『わた入れて終わりに』ってオトナ語っぽいですよ」
わたを入れればなんとかなる。おたまの場合は、わたは多めにぎゅうぎゅう詰めると形が整います。
男と「かわいい」の壁
胴体部分は編み目を増やす必要もなく、わりと単純作業で会話もできる。
「これも聞こうと思ってたんですが、『かわいい』を作れるようになったのっていつ頃ですか」
「ここ数年ですね。女性に『その髪型いいね』って言えるようになったのといっしょかな」
「そのタイミングはなんとなくわかります。僕も最近です。『かわいい』って言えるようになったのは」
「ティーンエイジャーのころはないですよね」
「男だと『かっこいい』ありきですもんね」
「男の『かわいい』はたしなみかも」
「たしなみ!」
「会議で『その企画かっわいいねー』って言うのはどうかなって思ってます」
「褒められてるのかけなされてるのかよくわかんないですね。」
|