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特集


ひらめきの月曜日
 
まちぶせる


前日昼間に撮影した入山口
総勢9名。かなり説明しづらい状況。
暗い山道を家族一丸となって登る
登頂。日の出を前に広がる夜景
あと5分で日の出!

日の出を待ち伏せる

実家(埼玉県の奥の方)から歩いてすぐのところに山がある。20分もあれば登頂できる小さな山だが、頂上からはとなり町が一望できる。正月には近所の人たちがこぞって初日の出を拝むために登る日の出スポットだ。

私がこの特集を書くのに山に登るというと、早朝にもかかわらず、ゴールデンウィークで家に集まっていた家族親族がわらわらついてきてくれた。なんと総勢9名。内訳は母、妹(23歳)、妹(19歳)、弟(16歳)、弟(14歳)、叔母、従兄弟(24歳男子、20歳女子)。明らかに待ち伏せというミッションを実行する人数ではない。

しかも母や叔母がついてくるのはまだ分かるが反抗期まっただ中のはずの弟二人まで。そんなにみんな日の出が見たいのだろうか。

「夜が明ける前は視界が悪いから、日の出を見るなら早めに出なくちゃダメだ。」

弟(16歳)のアドバイスである。高校に上がってからめっきり怖くなって近づけなかったのだが、日の出見物をきっかけに久々のコミュニケーション。家族崩壊の予防には日の出が効く。大発見だ。

入山すると、9名がドラクエみたいに一列になって登っていく。

「マムシとか出るんじゃないの」
母の一言で、 マムシ含め、森の動物たちに私たち人間の存在を知らせるために大きな足音を立てながら進むことにした。バキバキっ、バキバキっ。

さらに、漫才好きの妹達が前日テレビで見た漫才のネタを馬鹿でかい声で再現。「いい加減にせいっ、どうも、ありがとうございましたー」これで何も近づいては来まい。

あとはもう、眠いのか、気まずいのか、疲れたのか、なんとなく全員無口に。入山から25分ほどで登頂した。

「おー夜景、いいねー」
「あー、腹減ったー」
「アメ持ってきたわよ」
「なんだよアメかよー」
「帰ったら朝ご飯クレープ焼こう」
「ホットケーキも焼いてよ」
「やべー、マジねみー、寝そう」
「東どっちよ?」
「ほらほら、あそこ、私の高校」
「…………ピッ、ピッ(携帯メール送信中)」

なんだ、みんな日の出を見に来たんじゃないのか? この特集記事の命運がかかっているにもかかわらずてんで一つにならない家族の心。

今日は日の出を待ち伏せにわざわざ早朝から山に登ったのだ。目的を忘れてはいけない。仕方がないので私一人でじっと日の出を待ち伏せることにした。

日の出まで、あと5分というところで、あたりが大分白くなってきた。もうすぐ山の向こうから赤い日が見える!


日の出時刻! あれ?
妹にいたってはエアロビをはじめた
また一列で下山

待ち伏せ失敗

あれ? 日の出の時刻はすぎた。が、東から日らしき丸い形が昇ってくる気配がない。どうやら雲で日が隠れてしまったらしい。天気予報は晴れだったのに。朝日に……逃げられた……!

「やべー、今ちょっと寝ちった」
「何か食べてからくればよかったよ」
「帰ったら昨日の残りのカレー食べよう」
「あれ、カレーじゃなくってビーフシチューなのよ」
「明日仕事休み?」
「あ、スウェットのスソほつれてる」
「今日、昼から野球見に行ってもいい?」
「あー汗乾いてきて寒いー」

待ち伏せ体勢に入っていた私はぼう然であるが、家族らは日の出が見られないことをまるで気にしていない様子。いよいよ何でついてきたのか分からない。

結局5時まで待ったが、日の出を拝むことはできなかった。ミッション失敗である。私が刑事だったら大変な失態だ。やはり待ち伏せなどというドラマみたいなマネを素人がすると痛い目にあうということなのかもしれない。あと、刑事なら現場に家族を連れてこないと思う。

現場:実家近所の裏山
対象:朝
どきどき度
わくわく度

ハラハラ度

 



どうってことないことも、待ち伏せるとドキドキハラハラすることが分かった。郵便の回収も、新聞の配達も、おおまかな時間は分かっているのにもかかわらず、いざ待つとなるといつ来るかと落ち着かなくなる。そしていざ来ても、行ってしまうまでのあっけなさと言ったら。

後半思わぬことでミッションを攪乱した家族達は、家に帰るとご飯を食べたり、野球に行ったり、寝たり、ゲームをしたり、山頂と変わらないそぶりで生活を続けていた。一体、なんだったんだろう。登山は何か人を無闇に駆り立てる力があるのかもしれない。


 

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