色紙だった。
「デンゼル・ワシントン。クリムゾンタイドみてね」とある。
こ、これは……、あのハリウッドスター、デンゼル・ワシントンのサインではないか!
僕は慌ててトイレを出て、カウンターの中でグラスを磨いていたマスターに詰め寄る。
「あ、あの、ト、トイレの、サインは?」
「ああ、デンゼルさんの事?」
「ええ、何で、こんな…」
こんな所に、と言いかけてやめる。
「いやあ、いいんだよ。何でこんな所にって思うでしょ。そりゃあ当然だ」
何でも、デンゼル・ワシントンはオフになるとこの喫茶・玻璃愛奴にやって来て、ドライカレーを食べていくという。
「まあ、この商店街を歩いてみなよ、驚くから」
マスターは意味深な笑みを浮かべ、これ以上は取り合わないとでも言わんばかりに、僕に背を向けてしまった。
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