成田騒動
6月25日、8時40分ごろ。
私とニフティ林氏は、成田空港第2ターミナルに立っていた。
t.A.T.u.到着を待つ人々は、まだ50人くらいしかいなかった。報道陣とファンの数は、同じくらいの人数。到着口からは、特別にゲートが作られ、ポールでしきられていた。しきられた道筋はふたつあって、「警備員が立つスペース」と「t.A.T.u.が歩くスペース」のようだった。
「なんだか遠いですねえ」
「撮影できるかなあ」
「しかし、なんとなくゆるい空気ですね、なんでだろう?」
「僕、この空気知ってます。タマちゃんを見に行ったときと同じ匂いがします」
「そうなんですか?」
ファンは報道にインタビューされまくっていた。とくに若い女の子で、片方がショートカットでパンクっぽいファッションをしている二人組が、大人気であった。へたな芸能人よりスポットライトを浴びていた。
もう1人、スカートをはいた少年。彼も取材されていた。
「彼女たちの音楽をきくと、胸から込み上げてくるものがあるんです」
あとでネットを見たら、彼のコメントは、共同通信で全世界に配信されていた。
ファンのほとんどは、10代に見えた。話を聞くとその半数は、ネットのファンサイトで集まった人たちのようだった。
t.A.T.u.が全世界にブレイクしたのは、インターネットの役割が大きいのでは、というのはたまに言われることだけれど、こんなにたくさんネットで集った若者を見ると「実際そうなのかなあ」と思ってしまう。
朝飯を食べていなかったので、オニギリを食いながらt.A.T.u.を待つ。
「オニギリ……大塚さん、あなた場ちがいですよ」
「え、何か変ですか?」
「……まあいいですけどね。しかし、ここにいるファンじゃない大人って、なんか変ですよ」
「わたし、すごいファンですよ!」
「いや、あのー、例えばあそこにいるカメラマン3人組。すっかりくつろいで談笑してる人たち。なんかねえ、俺、男3人いると、シティボーイズのコントみたいだって思っちゃうんですよねえ」
「そんなばかな」
ためしにそっと近づいて、3人の会話をリスニングしてみた。
「すごい騒ぎだなー。俺もCD買っちゃおーかなー」
「あ、俺もってますよ」
「貸してよー」
「いいっすよー」
「あのさあ、あの外人、オッカケかな? コメントとってみない?」
「いいねえ」
「おまえ、英語出来る?」
「いやあ……」
「でもさあ、あれ、アメリカ人じゃないんじゃない?」
「何人かなあ」
「何人だと思う?」
「………ロシア人?」
「おまえ、ロシア語できる?」
「………………『ダー』とか?」
「ダーだけ?」
「ダーじゃなあ」
「んー」
「おまえ、それじゃダメだろ」
確かにシティボーイズのようだった。
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