こういうやつ
避暑地のレストランなどに入ると、用意されたメニューのおしゃれ加減に照れることがある。
「海神ポセイドンからの贈りもの」とか、「きまぐれシェフのとっておきサラダ〜天使のソースを添えて〜」とかのやつ。たまにありますよね。
こういうのを頼むときに、照れながら「えーと・・このサラダを」などとはしょって注文するのをもうやめにしたい。正式名称で堂々とオーダーできるようになりたいのだ。
(text by 三土たつお)
渋谷のスープ屋さんがおしゃれらしい
知人の情報によると、渋谷にあるスープ専門店「すうぷ屋」のメニューがどれもおしゃれなことで有名らしい。
さっそく行ってみました。
入ってみると用意されたメニューは確かにどれもおしゃれだった。
「おすまし貴婦人のこっそり夜食」というスープや、「満月の森の不思議なパラソル」という名のスパゲティなど。まるで絵本の題名のようだ。
訪れたのは夜の9時ごろ。店の中は、仕事帰りのOLやカップルたちでにぎわっていた。
どれを選んでもおしゃれメニューしかないこのお店、果たして彼らはどんなふうに注文しているのだろう。耳をそばだてて聞いてみた。
奥の席に座っているカップルがちょうど注文をしているところだった。
男性が落ち着いた声で、「このスープと・・。あと、これを。」と(たぶん)言っている。女性のほうも、店員が「○○のスープですね」と復唱しているのにうなずくだけだ。
それに対して、右隣にいた40歳くらいの女性二人組の方は、ごく普通に「灰かぶり娘のとっておきっていうスープを下さい」と注文していた。
男性は照れる傾向が、女性は気にしない傾向があるのかもしれない。
メニューをひとしきり眺めて、「浮気なマリアと律儀なヨハネ」というミネストローネを注文することにした。
しばらく先客のようすを観察していたことで店の雰囲気に慣れたのか、もはや照れる感じはほとんどない。
女性の店員の方にも「この、浮気なマリアと律儀なヨハネというスープを下さい」とふつうに言うことができた。
やってきたのがこちら
5分ほどして、さきほどの店員の方が出来上がったスープを運んできた。
あつあつでとてもおいしそう。
ただし気になるのは、出来あがった料理を店員の方が「こちら、ミネストローネですー。」と言いながらごく普通のテンションで持ってきたことだ。
がびーん。せっかく正式名称で頼んだのに。気をはって頼んだのに。
というわけで、むしろ店員の方のほうが照れているんじゃないかという疑惑が新たに生まれたのでした。
料理名の由来となる絵本があるそうです
お会計の時にレジの方に訊いてみた。
このお店のメニューがおしゃれ風なのは、お店ぜんたいにストーリー性を持たせようという意図かららしい。そのために実際に作られた絵本を、お店のサイトから読むことができるようになっている。
たとえば「おすまし貴婦人のこっそり夜食」は、女王さまから特別にお城に招待された貴婦人、というお話がもとになっているとのこと。ユニークな発想をされるお店の方々に敬服いたします。