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コネタ


コネタ873
 
フェイスペインティング詐欺
腕にお月さまを描いてくれという硬派か軟派かわからないタイプ

うちのポストの中に、見覚えのある文字が書かれた封筒が入っていました。
ひらいてみると、いつでも頻繁に会えるはずの友人からのもの。
なんだろう?絶縁状かな。

フェイスペインティング
担当土屋 12:00〜14:00

とあるキッズ向けイベントのタイムスケジュールに、私とおぼしき名が明記されています。

なにかの冗談でしょうか。それとも遠回しに、やはり新手の絶縁状ですか。

(text by 土屋 遊

思い当たるフシはあります。
電話確認の結果、そういえば、
子どもイベントのお手伝いをしてくれ
とかなんとか言われたことを思い出しました。
しかし、フェイスペインティングなんて一言も聞いていません。しかも私は絵がヘタクソで有名なので、一発で嫌がらせのなにものでもないと悟りました。
その証拠が、郵便物です。口頭で伝えるにはあまりにもしのびなかったのでしょう。

まあそれでも日頃大変お世話になっている友人です。
しかたないので赤っ恥をかかせに参上しました。

 

会場にビビる画伯

フェイスペインティング会場は、小学校の教室。
三歳児から中学一年生くらいまでの子どもたちがわらわらと並んでいるのを見た時は、めまいを起こして倒れようかと思いました。

 

お子様さまよりお母さまに気合いが感じられる会場

 

同志たちとの出会い

不幸中の幸いだったのが、私一人でやるわけではなく、他にも、まんまと詐欺被害にあわれた方々が数人参加なさっていたということです。
私が教室に入るなり、被害者の会のお一人がかけよってきて、

「本物の漫画家さんですかっ!?」

と声をかけてくださいました。失神して泡でもふこうかと考えました。
マンガ家にまちがえられるというのは、いったいどういうことでしょうか。顔立ちがマンガレベルということでしょうか……複雑な心境ですが、ガキにバカにされないようにとベレー帽のようなものをかぶっていたのが災いしたのかもしれません。
被害者の方は、あまりにも目をキラキラにして、何か私に救いを求めているようでしたが、

「いやーもうぜんっぜん!生まれて一度も絵を描いたことはありません」

とわかりやすいウソをついておきました。こちらもまた複雑なお顔をしていらっしゃいました。


フェイスペインティングは未知の世界

巧みな話術でうまく言いくるめて、女子にはハート型、男子ならヘビを描こうと決めていました。
子どもたちと協議の上、好きな絵を勝手に描けばいいと思っていたのですが、どうやら10種類のサンプルから子どもが選択するという方式。
これが俗にいう模写というものでしょうか。画家に選択の余地ないようです。
途方に暮れました。


カンタンそうに見えるでしょうが

落ち込んでいる間もなく、小学校三年生くらいの女子が私の前にちょこんと座り、生まれて初めての、フェイスペインティングのスタートです。

画材のメインは「顔ペン」というマジック。絵の具数色もおいてあり、小筆と綿ボウ、つまようじも用意されていました。

子どもの肌ってこんなにやわらかいものだったんでしょうか……。
なんというのでしょう、大福に絵を描いているといっても過言ではありません。わかりますか?アナタ、大福に絵を描けますか?
しかも大福ならおとなしく描かれていることもあるでしょう、むしろ大福がペラペラと喋りだしたら超常現象です。

ですが人間ですから動きます。しかも平気で文句をいったりもするわけです。
ようするに、模写をしているそのキャンバスが勝手に動き出すと思っていただければけっこうです。
いくら私が天才画伯といえどもこれではうまくいくはずがありません。


時間に余裕のある方はボクで試してみましょう

 

小姑タイプ

小学生の女の子というのは
「どれにしよっかなー」
などと思わせぶりに散々迷うのですが、私にはそれがひじょうにありがたかったです。
その時間だけでも描かなくてすむ、できることなら終了時間いっぱいまで迷っていてほしいと必死に願掛けしたくらいです。
やはり女子なだけに、少しでも気に入らないと、手鏡とサンプルを見比べながら
「ちょっと色がちがくな〜い?なんか、太さもちーがーうー」
などとやたらうるさいうえに私のちいさな言葉も聞きのがしません。
線がずれた時などに
「あ……」
と声にしようもんなら
「今、『あっ』って言ったでしょ。言ったでしょ」
としつこくてたまりません。
この娘は立派な姑になると確信しました。


小姑視線

 

エスパータイプ

目の前に来たとたん、うつむいて直立のまま固まってしまったかわいらしい女児がいました。3才か4才くらいでしょうか。
はずかしいのか私が嫌なのか、描かれるのがイヤなのかは不明ですが、とにかく微動だにしません。
テレパシーのつもりでしょう、ヨコにいたお母さまが
「○○ちゃんは、ハロウィン(かぼちゃ)がいいわよねー」
となにやら交信しています。
結果、神懸かり的な交信により女の子はハロウィンがいいということに決定し、直立のまま描かせていただきました。今に泣き出すのではないかと緊張しましたがなんとか仕上げました。
あれだけ強固な意志の持ち主なら、どこの世界でもやっていけるでしょう。おかあさまにご指導いただき、エスパーになる、という道もあります。


ちっちゃな女の子に翻弄されっぱなしの画伯

 

男子(ダジャレ)軍団

男の子はだいたい2,3人で登場しますが女子と比べると安心して描くことができます。
ちょっとくらい失敗しても、あまり文句は言いません。
しかし周囲が笑わせようとするので、ペンを持つ私の手もふるえてしまい、ミミズのような線を何本かひきました。まあそれもすべて笑かした子どものせいにすればいいので大変気が楽でした。

途中で一人が
「手に描いて」
と言い出して、それがとても描きやすい。それからあとは
「手に描く?頬に描く?手に描く?手に描く?」
ととにかく手を推奨しました。


「土星はダセー」という低レベルのだじゃれにも大爆笑

カンタンなので毎回「リンゴにしろ」と念を送るのですが、ほとんどの子どもがハロウィン(カボチャとオバケ)を選びました。
一番むずかしくて避けたいモチーフです。
心底うんざりしていたのですが、カボチャばかり描いていると、最終的には目をとじても描けるのではないか?と思うほどの腕前になりました。

やっぱ何事も鍛錬が必要だなあ
とあらためて実感した次第です。

今度、善福寺公園あたりで路上フェイスペインティング(カボチャのみ)をやりますので皆さまふるってご参加ください。


カボチャだけはまかせてください

今回、諸事情により画像が少なくて申しわけありません。

お詫び、というわけではありませんが、日頃から大変お世話になっているうえに、私をフェイスペインティングのプロにまで導いてくださったご依頼者の方をご紹介します。

そういえば会場でお見受けすることはできませんでした。どうしたのでしょう。かくれんぼでもしていたのでしょうか。

私が依頼主です

 

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