空前絶後のおもしろいギャグだと思って言ってみたら、華麗にスルーされたり、ようやく入手した、気になるあの子にアドレスにメールを出したら、メーラーデーモン閣下がおわせられる始末。
とにかくこの世間で人と付き合うのは思い通りにならないことばかり・・・。
ああ、もうウンザリ!
そんなあなたにお奨めしたいのが、こちらの商品。
(text by 藤原 浩一)
箱男とは
箱男とは、安部公房の書いた小説「箱男」に出てくる、ダンボールを頭からすっぽり被った男のことです。箱男はダンボールを被ることにより、社会への帰属を捨て去り、匿名の市民として生まれ変わることになるのです。
ドラえもんでいうところの「石ころ帽子」。箱男になることによって、何人にも侵されざる聖なる領域を身の回りに確保することが出来るのです。
これでもう、冷たい他人に傷つけられることもありませんし、人と心が通わないことを実感して孤独に苛まれることもありません!
と、書いてありました、小説には。この間読んだんで、確かそういうことだったと思います。
箱男の被るダンボール箱の仕様は、小説に全て書いてあります。簡単に言うと、体がすっぽり被る大きさのダンボールに、目の部分だけ穴を開け、そこにビニールで幕を張るというものですが、その通りに作ると間違いなくデカ過ぎるので体にフィットする程度の大きさに変更してやってみます。
さあ、今こそアイデンティティを捨てろ!
箱男の見せる表情
ところで、小説「箱男」には以下のような大変興味深い記述があります。
このビニールの隙間は、箱男にとって、いわば眼の表情にも匹敵するものだ。(中略)ちょっとした加減で、はっきり意思表示することだって出来るのだ。
はっきりした意思表示なんて、箱被ってなくてもできませんよ、僕。
では、箱男の見せる多彩な表情をご覧に入れたいと思います。
はい。
完璧ですね。
どんとこい箱男
実験のためにとりあえず新宿へ。スタート地点を交番の前に設定してしまったため、かぶった瞬間に、早速警官に質問されました。
「何やってんの?」←半笑い 「あ、いや、実験をですね、インターネットに掲載しようと思いまして」←まじめ 「あ、そう。」←半笑い
こんなアクシデントに見舞われましたが、きっとそういうこともあるんでしょう。運が悪かった。
実際、新宿駅の西口からふらふら歩き出してみると、こちらの思惑通りに誰一人として僕を見ようするものはいません。
何人か僕の近くに来ると、走って過ぎ去る女性もいましたが、一体何なんですかね。
はじめのうちは、遠慮する気持ちが大部分で、申し訳なさそうに歩いてたりしたんですが、誰も干渉してこないので、だんだん「誰にも俺の姿が見えていないんじゃないか」と思うようになってきたんじゃ!
と、思いこまないとやってけませんでした。
都会の放任主義感は、心に乾いた風を吹かします。思えば最初に職務質問をしてきた警官がとても懐かしい…。だって箱被ってるんだよ、おれ…。
結論は出た。もう帰ろ。みんなのいるところに帰ろ。
かぶりものでモテない。
「もう誰とも干渉したりされたりしたくない」と思い立って、箱男になった。世間から相手にされないように、逃げ出したものの、そこには何もなかった。
箱男になって逃げ出すよりも、人と付き合うことに対して、もう少し試行錯誤を繰り返してみようかな、と思う。
とは言いつつ結局のところ、捨てたのは社会性でも、アイデンティティでもなく、僕の中に残っていたほんの些細なプライドだということに気がついたところで、報告を終わります。