デイリーポータルZロゴ
このサイトについて

コネタ


コネタ749
 
地図の読解問題を体当たりで解く
本文中D地点の新宿御苑。針葉樹はどこだ。

中学校のころ、地形図の読解問題が苦手だった。

地図をみるのは好きだったけど、残念ながら地図記号がさっぱりわからなかった。

それに距離の計算もよくわかっていなかった。この公園の大きさがこれくらいってことは、目的地まではだいたいその10倍くらいかな、というかんじ。

そんな自分の不勉強を棚にあげ、テスト中はずっとこんなことを考えていた:

この場所に実際に行きたい、そうしたら何だってわかるのに!

あのころの思いを晴らすべく、ものすごく堂々とカンニングをしてきました。

(text by 三土たつお

 

問題: 5万分の1地形図をみて、次の問いに答えなさい。
出典:国土地理院発行の5万分の1地形図(東京西北部)

 

問1

「しんじゅく」駅のA地点から「都庁」のB地点まで、地図上の距離にして約1.6cmある。実際の距離はどれくらいになるか。次のから選べ。

ア.80m  イ.400m  ウ.800m  エ.4000m

(出典:学研ニューコース問題集「中学地理」p.32)

 

A地点(新宿駅西口)。いつもながらの混雑ぶり。
A地点へ行ってみる

というわけで、地図の読解問題を、地図記号をまったくよまず、体当たりで解いていくことにする。

問1は新宿駅から都庁までの距離をこたえる問題だ。

いままでのぼくだったら、縮尺が5万分の1で、地図上の距離が1.6cmだから・・などとくだらないことを考えていたことだろう。

でもそんな日々とはもうおさらばだ。

いってきます。A地点へ。


自転車の距離計をつかおう

新宿駅西口で、自転車の距離計をゼロkmにリセットする。ここからは、B地点の都庁までできるだけまっすぐに進まなければならない。

カンニングにもいろいろ気をつかうのです。


0km にセットします。

いきなり寄り道をしてしまう

ところが出発直後にいきなりペースをみだされてしまった。

駅前になにやら犬があつまっている。看板が立っていたので、里親募集か何かだったのかもしれないが、ともかくかわいい。

おもわず条件反射のようにちかづいてしまう。距離計測への影響が心配だけど、やむをえないところか。


犬があつまってました。
かわいい。ネコと間違えて思わず首の下をなでる。


気を取りなおしてすすむ

首の下をなでてもゴロゴロ言わないな、などと考えているうちに、ふと当初の目的をおもいだした。

こんどこそまっすぐ都庁にむかおう。


駅前からのびる道路を西へすすんでいくと、
都庁がみえてきた(逆光ですみません)。
あっというまにB地点(都庁)に到着。

 

右下の距離計は1.10kmをしめしている
問1の答えはどうか

というわけでB地点の都庁に到着。メーターをみると、1.1kmとなっている。

アからエまでの選択肢のなかで、一番近いのはの800m だ。問1の解答はウにしておこう。

それにしても、仮にこれが正解だとすると、300mもの誤差があることになる。恐るべきは犬の魔力といったところか。

では、つぎの問題にすすもう。



問2

地形図中のCFの地点についての説明として正しいものを、次のから1つ選べ。

ア. Cの「若葉町」の周辺には神社が多い。

イ. Dの「新宿御苑」には、針葉樹が生えている。

ウ. Eの道路の部分は、鉄道と交差し、鉄道の上を通っている。

エ. Fの「国立競技場」からみて、「せいぶしんじゅく」駅は北東の方向にある。


新宿御苑には針葉樹が生えているか?

問2は地図記号の理解をたしかめる問題だ。

たとえばの選択肢は、針葉樹と広葉樹の地図記号の違いをわかっているかどうか、という点を問う内容になっている。そしてぼくは残念ながらその違いをわかっていない。

だから見にいくのだ。実際に。


D地点の新宿御苑にやってきました。
おもに広葉樹が生えているなかで、
入口のちかくに針葉樹っぽい木をはっけん。
ヒマラヤスギ。古賀さんが抱きついていたのはこれだったんですね。

御苑内をみわたすと、ほとんどの木は葉っぱのまるい広葉樹だ。

さがしてみると、たまにヒマラヤスギなどの針葉樹をみつけることができる。とはいえ、このようすだと、たぶん地図上には広葉樹の記号しか書いていないような気がする。

ということで、の内容は×ということにしておこう。


E地点(千駄ヶ谷付近)。たしかに鉄道の上を道路が通ってます。

E地点の道路は鉄道の上を通っているか

の選択肢、Eの地点は、代々木駅をちょっと南にいったところだ。

みてみると、首都高速の下を山手線が通りぬけている。選択肢の内容のいうとおりだ。

の内容は○にしておこう。

ただし、写真右下の道路は鉄道の下を通っているともいえる。念のため、のこりのの選択肢についても、その内容を確認しておこう。

 

「若葉町の周辺には神社が多い」のか?

の選択肢のC地点にやってきた。

あたりを自転車でまわってみると、あちこちにお寺がみつかる。なるほど、神社とお寺の地図記号のひっかけですね。


神社もあるけど圧倒的にお寺が多い。こちらは真宗大谷派「眞英寺」。
日蓮宗「日宗寺」。
日宗寺のネコ。いくぶん警戒ぎみ。
真言宗「顕性寺」。

というわけでの内容は×にしておこう。のこりのの内容は体当たりで確かめるまでもなく×だ。

ここまでの内容をまとめると、問2の解答はウということになる。

 

この日は須賀神社のお祭りでした。
そもそもどうしてお寺が多いのか?

とはいえ、あらためてC地点のあたりの地図の卍記号の数をみてもわかるとおり、また実際に行ってみてもわかるのだけど、このあたりには本当にお寺が多い。

まるでお寺の団地のようだ。なぜだろう?

当日のお祭りにあつまっていた町内会の方や見物客の方ならその理由をご存知かもしれない。お話をうかがってみよう。

「私のかわりにこのポメラニアンを撮ってください」

地元の方にきいてみる

お祭りの見物にいらしていたご婦人の方にたずねてみた。残念ながら、理由についてはご存知ないとのこと。それに、いままで疑問に思ったこともあまりないとおっしゃっていた。

たしかに、そんなことをいちいち詮索したりしませんよね。

このほか、町内会の方など数人の方におうかがいしたけれど、やはりご存知の方はいらっしゃらないようだった。

 

専門家にきいてみよう

ウェブ上を検索してみると、このあたりは坂が多いので、江戸時代に、坂の尾根筋にそって神社やお寺を配置することで、のぼってくる敵の侵入にそなえていたのだ・・といった説も紹介されていた。

本当だろうか。

いろいろ考えたところ、四谷のあたりに歴史博物館があるのを思いだした。やはり専門家の方に教えてもらうことにしよう。


歴史の専門家にお話をうかがいました

新宿区立新宿歴史博物館におじゃまして、事情を説明したところ、研究員の北見さんという方が後日お会いしてくださることになった。

あらためて出直し、北見さんにお話をうかがう。お忙しいなか、素人のぼくにも分かりやすく丁寧に教えてくださった。

―お寺が集まっている件ですが、敵の侵入を・・といった話は本当なんでしょうか。
「たしかにそういうことをおっしゃる方もいますが、文書で証拠が残っているわけではないんです。いわゆる俗説になりますね。」

―なるほど、では何ともいえないわけですね。
「ええ。もしかすると本当にそういう理由だったのかもしれませんが、何にしろ都市計画がそういう意図で行われたという証拠がない以上、正しいとも、間違っているともいえないのが本当のところです。」

―より一般的に考えられる理由はありますでしょうか。
「城下町の周縁に寺町(寺院の密集地)が広がるのは、全国的にも多いんです。金沢の寺町は観光地になっていますよね。江戸城下でも、若葉町に限らず、早稲田や牛込などにも寺町が広がっています。」

「寺町が周縁に広がる理由は、それこそ証拠がないのでなんともいえませんが、お寺には墓地があり、亡くなった方を葬る場所でもありますから、やはり俗世間とは隔絶されている。そこでそれらを、町なかよりは、周縁部にまとめてもってくるということもあったのかもしれません。」

分かりやすい説は印象に残りやすいけれど、かならずしも証拠を伴わないことがある、ということなのかもしれない。

お忙しいところ、ほんとうにありがとうございました。

すごく手間のかかるカンニングでした

さて、では答案の答えあわせをしてみよう。

正答集によると、問1の答えはウ、問2の答えもウらしい。上のほうに書いた解答と一致している。素晴らしい!

これはもう、新しいカンニング法の提案といえるかもしれない。

手にもったカンニングペーパーを覗くようなせこいマネはもうやめよう。むしろ教室を抜け出して、アウトドアに活路を求めるのだ。

ただし試験時間内にまた戻ってこないといけませんので、そのあたりご注意ください。

(冒頭の地図は国土地理院発行の地形図をもとに新たに加工したものです。また、もともとの問題では地図内も含め、若葉町が若松町と記載されていましたが、本文中では若葉町に改めました。)


 

▲トップに戻る コネタバックナンバーへ
 
 


個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.