普段、湯船に浸かるときの音は「ざばーん」、だろう。でも今日は「がさがさっ」だ。なぜなら、札束の海だから!
ゴミ袋7袋分の偽札はやや足りない感がありつつも、体を動かすと札束(偽物)が波をなして体を覆った。おおゴージャス。
しばし目を閉じ、これは万札、これは万札……と唱えながら体を動かしまくった。ガサガサッ、ガサガサッ。
人間の大切な部分を忘れ、金の亡者になってしまった、そんな罪悪感。というか、罪悪感よりも先に立っているのは明らかにマヌケ感か。
万札の湯船、ハウマッチ?!
しっかり堪能して風呂から上がると、次なる作業が待っている。金の勘定だ。これもちょっと楽しみだった作業。
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ひいふうみい…… |
7袋あった新聞紙をもう一度ゴミ袋に戻す。ぎゅうぎゅうに詰めると2袋でおさまった。少しずテーブルの上に出し、お札のように10枚を一束にしてゆく。
ここでもまた心の目を起動。ゴミ袋ぎゅううぎゅう2袋分とはいえ、万札だったらどんなに時間がかかっても数えるのは苦ではない。
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祖母も手伝ってくれた |
同居の祖母にも事情を話して協力をあおいだ。「友達との話のたねになるわあ」と、喜んで一緒に数えてくれた。祖母に奇異な話題を提供したとき、デイリーポータルに参加させてもらって本当によかったなと思います。
祖母と無言で(話かけると何枚数えたか分からなくなるから)勘定を続けることしばし。数え始めたときに始まったプロ野球のナイター中継が6回表まで試合を進めた頃、すべての偽札が数え上がった。
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その数は?! |
実に、浴槽には3028枚の新聞紙札が入っていた。3028万円である。マンションとか家とか、そうゆう単位?! 少なくとも私は持ってない金額だ。今後持ち得る自信もない。払えっていわれても到底無理だ。仕方ない、ローンだ。
「さ、さんぜんにじゅうはちまん円だって!!」
驚いて思わず大声を出してしまった。と、普段とっても柔和な祖母が珍しく厳しい表情で「しっ!」と人差し指を口にあてた。
「ご近所に聞こえたらどうするの!」
はっ。確かに泥棒さんが聞いていたら危ない。
「全部新聞紙だけど!」
と慌ててまた大声で付け加えておいた。こうゆうの、なんか本当のお金持ちみたい。泥棒、間違えてうちにこないだろうか。来ても何にもないですよ。
なんだか、最後の最後、思わぬところで金持ち気分を味わえた。が、数え終わってまたゴミ袋に戻った新聞紙札を見て、祖母が言った。
「捨てるの、なんだかもったいないわね」
うん、なんか、もったいない。つかの間の金持ち気分を終え、素になってのぞくのはやはり元来の貧乏性の顔なのだった。
そんなわけで、おとなになって、さんぜんまん えん いじょう、ぼーんと かせげるようになったら こんどは ほんとうの おさつで ゆぶねを いっぱいに したいと おもいます。
おわり。 |