初めて会う人と、会話の取っ掛かりとして出身地の話をすることがある。たいてい、こんな感じだ。
「高瀬さんは、どこ出身ですか?」 「秋田です」 「ああ、秋田っていうと、…なまはげ?」
いつも「そうですね、なまはげが有名ですね」とこたえるものの、実はなまはげに会ったことがことがない。「会いたくても会えない存在、それがなまはげ」と思っていたのだが…。
このゴールデンウィーク、帰省したついでに、なまはげに会ってきました。
(高瀬 克子)
そもそも、なまはげとは
なまはげ、と言っても「?」な方のために、ごくごく簡単に説明させていただきますと、
「秋田県男鹿半島全域で大晦日の夜、藁蓑をまとった恐ろしい形相の鬼(=なまはげ)が山から下りてきて、出刃包丁を片手に「泣ぐ子はいねぇがー」などと大声を出しながら家々を練り歩く民俗行事」
…ということでご理解いただけただろうか。その由来は諸説あり、かなりミステリアスなことになっている。ただ、この鬼というのは「神の化身」ということで認識は共通しているようだ。
えー、すみませんが興味のある方は、各自調べてみてください。
街のなまはげ
そんな神秘的なハズのなまはげだが、みやげ物売り場には大量発生している。
旅行に来た人が、これらのお土産を買って帰ったとしたら「秋田=なまはげ」というイメージが定着してしまうのも無理はない。
さらには、携帯ストラップにも登場しまくっていた。
お次はケーキだ
デパ地下のケーキ売場をウロウロした。普段ケーキを買う習慣がないので、たまにショーケースの中を見るとギョッとする。
だが、これらは所詮、キャラクター化されたカジュアルななまはげでしかない。本物は本来、大晦日の夜にしか会えない存在であり、神の化身なのだ。
…ならば本場へ行こうではないか。なまはげの本場、男鹿半島へ。
というわけで、5年ほど前に出来た「なまはげ館」なるものに行ってみることにした。ここでは、年中なまはげに会うことが出来るという。これは行かねばなるまいて。
ついに本場へ
男鹿半島に近づくにつれ、徐々に「空き缶ポイ捨て禁止!」や「スト ップ! ザ・密航者」などの標識の絵に、なまはげの絵が使われるこ とが多くなってきた。確実に本場に近付いているようで、嬉しくなっ てくる。
秋田市内から車で1時間ほど走ったろうか。無事、なまはげ館に到着。
館内は、スクリーンで「なまはげの一夜」と題されたミニフィルムが上映されていたり、なまはげの歴史が書かれたパネルが展示されていたりと、なかなか興味深い。
なかでも圧巻だったのは、地域ごとに違うというなまはげがズラリと並べられたコーナーだった。その数は60にも及ぶらしく、顔がすべて異なっている。まさか、これほど種類があったとは…。
般若のような顔こそが本物のなまはげかと思っていたが、まさかこれほどまでにバリエーションが豊富だったとは。
怠け者や、言うことを聞かない子どもを戒めるために里へ下りてくるというなまはげは、やはり相当怖い存在でなければいけないのかもしれない。
「だとしたら十分です。なんでも言うこと聞きますから許してください」…部外者ではあるが、ついそんな気持ちにさせられた。
実演まで見せてくれました
なまはげ館の隣にあるのが、古い民家を利用した「男鹿真山伝承館」。 ここではなんと、大晦日の夜の様子を再現してくれるという。
「ウォー! ウォー!」という声が聞こえたと思ったら、ドシンドシンとやたら大きな音を立てながら、なまはげが入ってきた。ちなみに大きい音には意味があって、悪霊を退散させる効果があるらしい。
家の主人がお酌をしながら「いやー、なまはげ様のお陰で今年も米が豊作で…。家の者も元気で…」など、感謝の言葉を繰り返している。あ、そういえば、なまはげは神様だった。なるほど、年に一度、リアルに現れる神様か。コワイ神様。つくづく不思議な風習である。
それにしても、扉をバシーン!と開け閉めされるたびに、体がビクッと反応してしまう。いやー、これは幼児期に体験したら、ちょっとしたトラウマが残りそうな迫力だ。子どもが泣く光景などを見てみたかったのだが、客が全員大人なせいか、みんなの顔が半笑いだったのが唯一の心残りだった。
なまはげに会ったのは初めてだったが、ものすごく面白かった。奇習といってもいい「なまはげ」だが、最近「なまはげの中に入る人材」が不足しているらしい。うーむ。もったいない話だ。
ちなみに私が見た「なまはげ実演」ですが、意識的にかなりライトな方言が使われていたので、全国の方が理解できると思います。
というわけで、秋田に行くことがあったら、男鹿でなまはげに会うのも楽しいですよ。魚もウマイですし。