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コネタ488
 
ふしぎなお祭り ジャランポン

埼玉県秩父市の下久那という町に、「ジャランポン」という奇祭があるのを、もしかしたら読者の皆さんはすでにご存じかもしれない。規模としては本当に町内会のお祭りといった程度なのだが、そんな小規模のお祭りが、にわかに注目を浴び始めている。

この「ジャランポン」、参加する者全員が死装束を身にまとい、生きている者を死者に見立ててお葬式をあげるという、なんとも不思議なお祭りであるなのだが、なんでも別 名「葬式祭り」とも云われ、元々は疫病が発生したとき、諏訪明神に人身御供を献じたことが発祥だそうだ。

こうやって設定を並べるだけで充分に少し不思議な感じがするが、実際の現場はどのようなことになっているのだろう。それを確かめるべく、実際に足を運んでみることにした。

(text by 宮崎晋平

ということで、午前11時頃に秩父鉄道「影森」駅に到着。
ジャランポン自体は夜のお祭りだが、下調べのため、今回の会場のひとつのなる下久那の諏訪神社に足を運ぶ。

すると、地元のおじさんたちが境内で焚き火をしながら談笑しているところに出くわした。 甘酒をごちそうになりながらジャランポンの起源を尋ねると、おじさんのひとりが先述の「人身御供説」を教えてくれた。しかし、 横から別のおじさんが「神社の隣にあったお寺に棺桶が置いてあったため、酔っぱらってふざけて入ったりしているうちにいつの間にかお祭りになった」と、大胆な推論&断定調で口を挟む。

頂いた甘酒はアルコールが強く、よくみるとおじさんたちの顔も少しだけ赤らんでいるようだ。

町民の方たちの中では、お祭りはもう始まっているのだろう。ゆるゆると燃える焚き火の炎を後にし、山に登ったりして本番まで時間を潰すことにした。


暖かいのは焚き火か人柄か。

でも甘酒で酔って適当なことをいう人たち。


やがて日は暮れて、いよいよジャランポンの時間が迫ってきた。
会場のひとつである下久那公会堂に行ってみると、ちょうど始まるところらしい。直前まで酒盛りをしていたらしく、地元の方たちはみな赤ら顔で、頭にしろいアレをつけ、楽器を持っている人は唐草模様の布をマントみたいに身にまとっている。

やがて、大僧侶役のおじいさんが入場してくると、前口上を並べ立てた。


楽器を持つ人たちと、大僧侶役のおじいさん。みな、頭に白いアレをつけているのが可笑しい。

「ジャランポンは皆さんが和気あいあいとするものですので、ストーリーもハッキリしていません。これから見て頂ければ分かるとおり、でたらめだと思う人もいるでしょう。まあそれはそれとしてですね、生き仏を弔うという行事でございます」。

この後、生き仏になる人や楽器を持った人の紹介があった後、楽器が高らかに鳴らされ、いよいよジャランポンの始まりだ。

「ジャランポンにおいて、本年の生き仏は姓は**名は**(プライバシー配慮のため伏せ字)と申します。(生き仏に向かって)よく棺桶に入ってくれたな。感謝するゾよ。あなたは悪疫退散居士として、下久那地区の発展と、当地区の皆様とジャランポン祭りにご参集いただいた大勢の皆様の、健康と無病息災、家庭の発展と精力増強、今流行の花粉症にも耐えられるような健康な身体を願い、世の中の景気も良くなるように、諏訪神社の生き仏として、これから諏訪神社の御前にお供えするにあたり……、まあとりあえず一杯呑め

いきなり一杯呑めときたが、 生き仏がお酒をラッパ飲みしているあいだ、思いついたように楽器が鳴らされる。


死んだフリをする人。 死んだフリをする人、棺桶に移される。
死んだフリをする人、促されるままに日本酒を一気飲み。

戒名は「悪霊退散居士」。まるで始まる5分前に思いついたみたいな戒名だ。


そして大僧侶の口上は続くのだが、

「私は性格は明るい方でございます。酒は一滴も呑みませんが、歌を歌うことが大好きです。お葬式ではありますが、ここでおめでたい歌を披露しますので、笑わずに聴いてください」

といって、 いきなり歌い出した。その歌は実際に聴いて頂くとして、コメントは差し控えるとしよう。

<→ 聞いてみる>

歌の後も口上は続く。

「なむはんにゃ〜はら〜みた〜。(生き仏に向かって)あなたのこれからの行く末は、私には分かんねえ。良くなるか悪くなるか私には分かりませんけれども、ぜひとも良くなってもらいたいとおもうところであります。あなたのご家庭の幸せを祈って、引導を渡します」

何かを言っているようで、その実なんにも言ってない口上に、場内は大爆笑だが、ここでの儀式はこれにておしまい。

おまぬけな感じはどうしても否めないが、 この後、100mほどにある諏訪神社に移動し、儀式の続きをするようだ。

楽器をうち鳴らし、「なんま〜いだ〜ぶ〜」と歌いながら、みんなで歩いて移動する。


大僧侶を筆頭に、生き仏も歩いて移動。


諏訪神社に着き、大僧侶が念仏を唱える(ここだけは真面目)。

ふたたび祭られる生き仏の人。


その後、生き仏役の人から挨拶があり、最後はみんなで万歳三唱をして、無事にジャランポンは終了した。

終了後、泥酔して神社で踊っているおじいさんに話しかけられるが、なにを喋っているのかよく分からなかったので、とりあえず握手をしておいた。

踊る陽気なおじいさん。




なんだかみんなふざけてるようにみえるが、そんな推測もあながち間違ってはいないのかもしれない。
そんな風に思えてくる程、笑みの絶えないお祭りだった。
このお祭りが何十年も前から脈々と受け継がれてきたというのは、なんだかちょっとうらやましい。


とてもおもしろいお祭りなので、来年は読者の方も足を運んでみてはいかがだろうか。


おわり


 

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