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コネタ445
 
「歯医者キャラ」を鑑賞する
こういうやつ

みなさんは歯医者さんが好きだろうか。ぼくは好きじゃない。痛いのはとても苦手だ。

歯科医の親類や友人を持つ人以外で歯医者さんに好意的な感情を持つ人は少ないだろう。一般に歯医者さんに対する心証は良いとはいえない。

一方で「歯科医師過剰問題」という社会問題もある。需要よりはるかに多い歯科医院が、特に都市部を中心に乱立している問題である。

こういった歯科医師にとって厳しいビジネス環境の中、ネガティブなイメージを払拭すると同時に他の歯科医との差別化をはかろうと、いろいろな努力がなされている。そのひとつが歯医者キャラの導入である。たぶん。

歯医者キャラとは歯科医の看板に、名前だけでなくちょっとしたキャラクターを添えるあれだ。

日本の歯医者爛熟期におけるソリューションのひとつ、歯医者キャラ。今回はそのキャラクターを分類し、傾向を見ていこうと思う。

(text by 大山 顕

以下から、フィールド調査の結果見つけた歯医者キャラを、そのモティーフごとに分類してみよう。

 

■歯タイプ

歯医者さんがキャラクターを作るに当たって選んだモチーフが、歯そのもの。さもありなんという、ストレートなデンタルリプレゼンテーションだ。


みな一様に朗らかな表情。「こうやって歯が喜んでいるんだから怖くないよー」ということか

歯タイプのなかでも注目したいのは、歯が自分自身を磨いているケースだ。上の例だと右二つがそれにあたる。冷静に考えると歯が自分自身を磨くさまというのは表現としてはかなり不可解だが、だれも歯医者キャラの前で冷静になったりはしないので問題ないのだろう。

特に一番右のケースにおいて、ニヤリと笑ったその口元にこぼれる歯並びを見て気づかされるのが、歯が擬人化されれば当然そこには「歯の歯」が生まれる、という点だ。歯の歯の歯、の歯、の歯…と歯の無限後退につながりかねないこの事実に、歯をストレートにキャラクター化することの矛盾があらわになる。

ていうか、彼は歯の一部が虫歯に冒されている点が最大の問題だ。歯医者キャラ失格。ニヒルに笑っている場合じゃない。早く歯医者行け。

 

■動物+歯ブラシタイプ

次に歯医者キャラとしてよく見られるのが、動物が歯ブラシを持ったタイプ。歯医者さんは怖くないですよー、というソフトタッチのイメージ戦略に欠かせないのは、やはり動物たち。このタイプは主に小児歯科で見ることができる。


ごらんの通りキャラクターとして採用される動物の種類は驚くほど多様。というか、無節操。

サーベイ前には、おそらく歯をイメージさせる動物がモティーフとしてよく採用されているのだろうと予想したのだが、よく考えてみたらそういう動物とは、ワニだったりサメだったりとソフトタッチにはほど遠い種族ばかり。となれば、動物に求められる機能はいかにソフトであるか、というその点のみで歯との関連性は二の次である。

左二つのペンギンとパンダなどはその典型。ペンギンにいたっては一瞬「ペンギンって歯あったっけ?」と思ったほど歯との関連性は薄い。というか、見てたらこれはほんとにペンギンなのか自信が持てなくなってきた。

パンダの方は歯のむき出し方が「タッチ」に出てきた犬っぽい。

一方、右の二つは歯との関連性を意識した動物タイプの名作。カバのトレードマークの一つは大きく開けた口とそこに生える立派な歯。草食動物のソフトなイメージと歯との両立を果たす希有な例である。ただ、その服装から見るに、このカバが歯科医であるらしいのが気になる点だ。ソフトでもなあ、カバに治療されるのはやだなあ。

 

■純粋動物タイプ

いっぽうこちらは歯ブラシも歯磨き粉も持たず、ソフトな演出だけをねらった動物単体のタイプ。歯との関連性は全く問われないスタンドアロン・アニマルたち。動物選定はお気に召すまま。


歯ブラシから解き放たれ、無節操に磨きがかかる。

ざっと見ただけでもゾウ、ブタ、ワニ。ブタにいたっては前回レポートした『「共食いキャラクター」を鑑賞する』の中にトンカツ屋のキャラクターとしてご紹介しても良さそうな作品。トンカツと歯医者をつなぐ鍵はブタにあり。そんな鍵は、いりません。

そんななかでワニの取り上げ方には一工夫見られる。ワニの口内を掃除する小鳥の存在は広く知られているが、その両者の営みを歯医者のキャラクターとして採用するとはなかなか心憎い。一見強面のワニさんだが、意外とキャラクター化しやすいアニマルであることを発見。実際、ちょっとおしゃれな歯医者さんではワニをモティーフとしたものが多いことが今回判明した。歯医者キャラ鑑賞家としては今後のワニの動向に注目したい。

ただ、一言言わせていただくとすれば、一生のうち何度でも歯が生え替わるワニにとって歯医者にどれほどの意味があるのか。

 

■海洋生物タイプ


なんとなくいけ好かないが、いざとなったらこういう歯医者に行っちゃうんだろうな、と思う。

海洋生物といっても、ごらんの通りいわゆる魚類をモティーフとしたものは皆無で、そのほとんどが海のほ乳類である。

おそらくこの癒し系海洋生物を選択する動機は「さわやかさ」「清潔感」の演出にあるのだろう。これらの動物の持つさわやかイメージを獲得できるだけでなく、おのずとカラーリングもさわやかなマリンブルー。おトク感が高い。

都心駅前に立地するガラスブロックを多用したようなおしゃれ歯医者によく見られるキャラクターである。名前は「○○歯科」ではなく「○○デンタルクリニック」。

 

■リンゴと歯医者の密接な関係

厳密には「キャラクター」ではないのだが、歯医者のマークとしてリンゴをモティーフとしたケースを非常によく見かけた。


もしかして歯の形とリンゴの形をかけているのか。だったらかじっちゃだめだ。

初めのうちは、かつて流行った歯磨き粉のCMに「リンゴをかむと歯茎から血が出ませんか」というものがあり、そこから歯とリンゴの想起関係が定着したためかと思っていた。しかしいくつもリンゴマークを見ているうちにはたと気がついた。これはもしかして歯の形とリンゴの形をかけているのでは。ぼく自身としては大発見だったのだがこれは常識でしょうか。

 

■そのほか

そのほか思い思いの歯医者キャラクターたちを見ていただきたい。


一番右のものは、よく見ると「ビルディング」の略が「blg」となっている。「blog」に見えてしょうがない。

一番左の太陽をモティーフにしたケース。暖かみの演出と印象に残りやすいデザインである点は認めるが、太陽にこれ見よがしに歯はないだろう。最初にご紹介した「歯タイプ」で歯に歯があることの是非を問うたが、この太陽のケースの前にはそんな問いも無意味である。

右から二番目のものはデザインテイストといい、カラーリングといい古き良き時代の図案風味が感じられて個人的にはとても好きだ。「ばんざい」とばかりに歯の治療がすんで喜ぶ人をイメージしつつ、全体が歯の形にも見えるという謎かけキャラクターだ。こういう歯医者キャラは大事にしていきたいと思う。通院はしないけどね。

一番右が今回の問題作。清楚な感じの女性が伏し目がちに歯ブラシを持つさまが味わいのある線で情感豊かに描かれている。

しかし、よく見ると歯ブラシの先には鮮血。アンニュイに見えたその表情は進行した歯槽膿漏にがっくりきたさまを描いているのだったか。こうなる前に治療に来なさい、という歯科医師の強いメッセージが感じられる。

■歯医者キャラの効果

これらのキャラクターが歯医者のイメージ向上と相互の差別化に対してどのような影響を及ぼしているのかについては今後の研究が待たれるところだ。

ぼく個人でいえば、現在変な方向に生えた親知らずに悩まされているが、今回数十件の歯医者をめぐったが中に入ろうとは思わなかった。ぎりぎりまで粘っていずれ名倉氏のようになってしまうのだろうなと思う。

ようするに、言っちゃあなんだが、キャラクターの効果なんてそんなところである。


 

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