デイリーポータルZロゴ
このサイトについて

コネタ


コネタ403
 
人面魚に会いたい!
ハイクラスな鯉は食いしん坊じゃない

人面魚を見たと友人に自慢されたので、くやしまぎれに
「そんなのいっぱいいるよ」
と口走ってしまった。
こともあろうか相手は、人の魂が乗りうつっているのだからそんなにたくさんいるはずがないという。
それどころか人面魚は『未確認生物』だと言い張ってきかないのだ。ばかじゃないだろうか。

「いっぱいいる」
「いない」
「いっぱいいる」
「いない」
「だって私、何回も見たことあるもん!」
「じゃあ証拠みせろよ!証拠っ!」
「わかったよ!見せれりゃあいいんでしょ、見せりゃあ!」

実際に私は、人面魚を目撃したことがある。
しかし名所めぐりをしても、この寒空だ。人面魚どころか鯉さえ私の目の前に姿を現してくれるとは限らない。

そんな折りもおり、『ニシキ鯉の品評会』があるというので一目散に行ってまいりました。

人面魚に会いたい!とゆうよりむしろ、なにがなんでも会わなければならない。
私の思いは鯉に通じますかどうか……。

(text by 土屋 遊

鯉が4〜8匹入るミニプールで展示・上からぶら下がっているのは空気チューブ
いろいろな賞のいろいろな受賞者たち・お子さまから各国の愛好家まで
表彰式の締めは万歳三唱。眠りこけていたおじさんも一気に立ち上がる

全日本総合錦鯉品評会にビビる

向かった先は東京流通センター。第39回、全日本総合錦鯉品評会の会場だ。
これだけ漢字の多い品評会なら鯉もたくさんいるはずだ。まず人面魚に出会えることはまちがいないだろう。

目的が目的だけに、気楽な気分で向かったのだが、ずいぶんとものものしい雰囲気。

「ううーん、これはどうにも美味そうな色つやだ」

などと言うジョーダンはだんじて言える空気ではないことをすぐに悟る。

ちょうど表彰式が始まるところだった。
人面魚よりもまず人混みに足が向いてしまう。この空間なら人面魚よりもめずらしい魚面人にあえるかもしれない。

取材陣の多さに少々ビビりつつも、天下のNHKのとなりを陣取ることにまんまと成功した。
鯉の名産地、新潟には主催事務局もある。開催も危ぶまれたが今年は復興支援大会ということでマスコミの注目度も高いようだ。
農林水産大臣、新潟県知事、そして中越地震で多大な被害に遭われた山古志村の村長さんも出席なさっている。
もしかして、これは人面魚どころの話ではないような気がしてきた。

ひととおり挨拶が終わり、表彰式にうつる。
農林水産大臣賞、桜賞、国魚賞、種別日本一賞……。
30分、1時間、1時間半……。
ものすごい数の各賞が用意されていた。なかなか総合優勝までいかないようだが、これなら人面賞があるかもしれないと思いつつもそんなはずもなく、およそ2時間後に総合優勝が発表された。

総合優勝した鯉をありがたく鑑賞する。う〜ん。
あーびっくりしたあ
クリオネ風動きを見せる『丹頂』おもわず拝みたくなる日の丸デザイン
神々しい光を放つ『浅黄』

セレブな鯉たちにジェラシー

会場をウロウロしながらお話をうかがっていると、鯉の所有者が飼育をしているとは限らないということを知る。
養鯉場やニシキ鯉センターで育てることが多いらしい。季節ごとに場を移すばあいもあり、茨城、長野、新潟……私よりずっと旅なれているようだ。

「仕上げ」という言葉もよく耳にした。野池飼育で仕上げるのは高等技術なんだそうだ。
一番おどろいたのは、整形をする鯉がいるということ。よりよい見栄えにするために模様を削るそうだが、見る人から見ればわかるらしく、こういった鯉たちが品評会で評価されることはまずないらしい。

「入れ墨とかいれるんですか?」

と聞くと、笑われただけで返答はなかった。
それにしても、鯉が美容整形しているなんて庶民のみなさんは知っているのだろうか。まるでセレブだ。

鯉といえば、エサを求めて口をパクパクするあの行動こそが鯉だと思っていたのだが、会場では一匹もそんなまぬけなマネをするものはいなかった。セレブなら指をさしだしてもまるっきり相手にしないのは当然だ。
よほど高級なお食事をなさっているのだろう。すくなくともウチの犬よりかは、はるかにいいもん食ってるはず。

さて。ここまで手塩にかけられ大切にされているニシキ鯉、一番気になるのはそのお値段だろう。 方々で聞いてまわったが、誰もハッキリとは答えてくれなかった。なにか規約でもあるのだろうか。
唯一、

「まあこれくらいのもいるよね」

と人差し指を一本立ててくれたおじさんがいた。

「100万ですか?」
「ははは、育てるのにそれくらいは軽くかかってるよ」

と一笑され、こちらも力なく笑顔を返す。
ははははは……。はははははははー!

最大クラス(90部)の『落ち葉しぐれ』を前に語りだすお二人
幼魚の部の『紅白』金魚くらいの大きさ

 

そんなことより人面魚だった。

泳ぐ宝石といえども、私たちは、鯉といえば『人面魚』か『鯉のあらい(刺身)』くらいしか頭に浮かばないド素人中のド素人。
そんなわけで鑑賞はといえば

「わーデカい!」
「フンもでかい!」
「こりゃ高そう!(金色だから!)」

これくらいしか評価のしようがないのである。

いや評価ではなくて人面魚だ。でもセレブに人面魚なんているのかなあ。だんだん不安になってきた。


いました!セレブですが人面魚です!ですよね?

 

運搬にかかせないビニール袋もきっと高級品
さすがセレブ。ゴージャスな完全個室にて空輸されます

デジカメのバッテリーが切れたところで、ちょうど終了時間。ひたすらセレブ人面魚に運命を感じます。

搬出の方々が鯉を両手で抱き上げて、ビニール袋に入れているのを目撃。
最高級のセレブな鯉とはいえ、やはりピチピチと元気良く跳ねて暴れるので、水しぶきが飛び散る。
年がいもなくキャーキャー言っていると、オッサンがふざけて私たちにセレブ様を投げるマネをした。

「一千万!」

思わず頭に浮かんだのはこの言葉だった。

もしここで落としでもしたら、大変だ。他人の鯉とはいえ、一瞬ドキリとした。
「これか」と思った。
鯉を大事にする気持ちが、ちょっとだけわかったような気がしたが、多分違う。ぜんぜん違う。

色々なプールをまわりながら、セレブな水しぶきを楽しんでいる時に、私はある人物に出会うことになった。

 

あら?

あれ?

よく見ると人間ではなくて鯉。まさしく人面魚だ。しかもセレブの。
さきほどの運命の人面魚はほんの序章だったようだが、いやしかしコーフンする私にバッテリーの切れたデジカメは冷たい。
そんなわけで、ケイタイのカメラで撮った人面魚です。手を合わせてご覧いただくと幸運がまいこむことでしょう。(たぶん)

写りがわるくてスイマセン。でもこのほうがなぜか『人面魚を目撃!』にふさわしい気がします。しません。

よいニシキ鯉の見きわめ方・6箇条

200匹近くのハイレベルな鯉を鑑賞して、その整った容姿にすっかりハマッてしまった。
サシ・キワ、そして鱗や形状など、よい鯉の見きわめ方はむずかしいものだが、小学生にもわかるようにまとめてみた。

・白は限りなく白いこと
・黒は墨のように黒いこと
・赤はあくまでも赤いこと
・痩せすぎず、太りすぎない
・指をちらつかせてもむやみに寄ってこない
・セレブ

なーんだカンタンじゃん
と思ったアナタ、ニシキ鯉は奥が深い。
よい人面魚は見きわめることはできても、よいニシキ鯉を見きわめることはド素人にとっては不可能だ。少なくとも私はそう学びました。

オマケ画像

アイドルはフンをしませんが、セレブならフンはします。
品評会ですからもちろんすぐに撤収されます。もしかしたら人面魚を探すよりむずかしかったかもしれないセレブフン。
お宝画像です。

う〜ん、さすが奥が深い

ちなみにUMAかぶれの友人は、見せつけた写真にひたすら感心していました。それでも

「すごいUMA(未確認生物)を発見したなあ」

と、あくまでもUMA説をつらぬいています。
友人といえども元亭主なんですが、手のほどこしようがありません。
そもそもこの目でガッツリ確認した時点で、すでに未確認とは言えないと思います。


 

▲トップに戻る コネタバックナンバーへ
 
 


個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.