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親知らずの抜歯手術レポート〜歯茎の増殖過程を追え!

私事で申し訳ないのだが、先月、親知らずの抜歯手術を受けた。

実は10年ほど前から、歯医者に警告されていた。

「キミの親知らず、前に向かって生えてるから、いつか虫歯になるよ」
「そのままじゃ抜けないから、手術で取り除かなくちゃいけないよ」

そしてちょうど10年が経った先月。歯医者の予言どおり、虫歯になった親知らずに大きな穴が開いて痛みはじめたのだった。

歯医者には絶対行きたくないと思って今までやり過ごしてきたが、いよいよ潮時のようである。ものすごくイヤだったが、イヤよイヤのも好きのうちと自分に言い聞かせ、意を決して治療することにしたのでした。

というわけで今回は、抜歯の模様をレポートしてみたいと思います。

「たかが親知らずを抜いただけで大げさな…」とお呆れの向きもありましょうが、いつかは抜かなきゃならない人が多い親知らず。みなさまの参考になれば幸いです。

(text by ステッグマイヤー名倉

【※ 口腔内のイラストをクリックすると実際の写真が表示されます。ご覧になりたいかたはクリックしてください】

◆治療前の歯

こういうコトになってしまったわけでして

歯医者の予言がどう的中したのかと言うと、左の写真のようなコトになってしまったのだった。

歯が前に向かって生えているうえ、下半分が歯茎に埋もれているものだから、歯垢がたまって大きな虫歯になってしまったという次第。

歯がえぐれて穴状になってるのがお分かりでしょうか。 冷たいものを飲んだりすると脳天までキーンと痛みが響きわたり、そのたびにうずくまってしまう体たらく。

ビールもろくに飲めないようでは生活に支障を来たすので(第一なんのために生きてるのか分からない)、ようやく抜歯を決意したの でした。


手術前夜の晩餐

◆手術前夜

術後数日はロクに食べられなくなると聞いたので、今のうちに硬いモノを食べておこうと思い立つ。

で、食べたのは結局、「ビーフステーキ」と「せんべい」。それも予算の都合で「サイコロステーキ」になってしまい。

おまけに、お米を切らしていたのを忘れていたので、サトウのごはん。

どんどん晩餐から遠ざかっている気がしながらも、サイコロステーキをしみじみ噛みしめる。

手術直前の夕食、どうしようか…

◆いよいよ手術当日

当日の夕食については、あらかじめ歯医者から注意されていたのだった。

「あまり満腹だと、手術中に気分が悪くなって戻しちゃう人がいますから」
「腹七部くらいで食事を済ませてきてください」

腹七部と言われてもよく分からないが、とりあえず王将で「餃子+ライス」を注文する。

めし代はあるけどやってみたい
腹七部(?)の「餃子+ライス」。

素晴らしい問診票

歯医者の門をくぐる

餃子のせいですっかり口がニンニク臭くなってしまったことに気づいたが、時すでに遅し。

ニンニク臭をぷんぷんさせながら歯医者の中に入っていく。

受付に行くと問診票を渡された。その中で、素晴らしいと思ったのは赤線を引いたこの項目。

「困っているところだけを治療したい」

だってほら、歯医者って一度行くと、痛い歯以外にもいろいろ指摘されて、すっかり憂うつになってしまいましょ? その点、この歯医者は心配無用である。「虫歯が他にあっても言ってくれるな」とあらかじめ宣言できるのだ。

迷うことなくチェックを入れる。


診察台。何歳になっても恐怖の存在。

そして恐怖の診察台に…

しばらくすると、受付から名前を呼ばれた。「名倉さーん、診察室にお入りくださーい!」

ああ、このときがとうとうやって来たか……。正直、恐くてたまらないっす!! 途中で恐怖のあまりウンコ漏らしたりしたらどうしよう……。オレ、もう30歳なのに。

そんなぼくを尻目に、ナースが手際よく準備を進めていく。

「はい、上着はそちらに置いて、こちらにお座りくださいね。すぐ先生が来ますから」

こういうときでも、ナースの制服がスカートだとちょっと嬉しいのが心底情けない。畜生、恐くて仕方ないけど 、ちょっと嬉しくなっちまうんだよ!!


無理を言って撮影させてもらったレントゲン写真。

レントゲン撮り

先生が登場すると、まずはレントゲン撮影が行われた。歯が歯茎の内部でどうなってるのかを調べるのだ。

レントゲン写真はすぐに見せてもらえた。

「あのー、このレントゲン写真、デジカメで撮らせてもらってもいいですか?」
「え…。いいけど、どうして??」
「実はホームページに書いてみようと思って」
「あ、ああ…。なるほどね。いいですよ」

先生は明らかに困惑の表情であったが、これについては、記事を書く以外の魂胆もひとつあった。「あまり痛くしたら記事に書いちゃいますよ!」「だから痛くしないでね!」という無言のプレッシャーである。

我ながら嫌な性格だとつくづく思う。


赤く囲った部分が親知らず

手術の段取りを説明してもらう

レントゲン写真を示しながら、先生が手術の段取りを説明してくださった

左の写真の赤く囲った部分が、今回取り出す親知らずである。見事にゴロンと横たわっているのがお分かりいただけるだろう。

で、このままだと手前の奥歯が邪魔して抜けないので、

  1. まず、親知らずの手前部分を輪切りに切断して取り出す。
  2. そうやって手前にスペースを確保したうえで、
  3. 歯茎の奥深くに埋まっている歯根を(砕きながら)引っ張り出す。

という段取りになるんだそうで(下の写真参照)。はァ…なるほどー。


まず、歯の手前部分を切断して取り出す。
次に、奥深くに埋まっている歯根を、砕きながら引っぱり出す。

さすがに手術中は写真を撮れなかったので、この画像にてご容赦ください。

抜歯開始

ここまで説明してもらっておきながら、今さら悪あがきしてしまった。

「ところで、こういう親知らずの虫歯って、抜かずに詰め物をして被せるとかは無理なんですか?」

すると先生、イヤな顔ひとつせず説明してくださった。

「やろうと思えばできます。ただ、あなたの場合、虫歯が奥深くまで進んでるから神経を殺さなきゃならないし、そうなると何回も通院してもらうことになります」
「それに、こういう生えかたをしてる親知らずって、がんばって治療してもまた虫歯になるんですよ」
「周囲の歯まで虫歯にしてしまうこともありますから、今回は抜いたほうがずっとメリットが大きいと判断されます」

ここまで言われたら、もう引き下がれない。観念して「じゃあお願いします」と。


抜き終わった歯。ところで動物の歯茎って美味しいらしいですねえ。

手術は無事終了

ちなみに手術中は、麻酔が完全に効いているので、まったく痛みを感じなかった。

麻酔の注射を打つときも全然痛くなかったので感動さえした。「麻酔注射を痛く感じないための塗り麻酔薬」が、あらかじめ歯茎に塗布されるんである。

で、先生が親知らずと格闘すること一時間少々。無事にすべて取り出すことができたのでした。

なーんだ、ちっとも痛くなかったじゃん。よかったー。あんなに恐がって損したよ、まったく。

…なあんて余裕をこきながら、帰り支度をしておったわけですが。


抜歯直後
顔の下半分が麻痺してるので、アゴがだらしなく弛緩する。

抜歯4時間後。激痛にうずくまる。

帰宅してからが修羅場だった

大変なのは帰宅して、麻酔が切れてからだった。歯茎を彫刻刀でグリグリえぐられるような激痛がアゴを襲う。

うぐっ……。

鎮痛剤を飲むと15分くらいで痛みが軽くなるが、それでも周期的にズキズキと歯がうずくのだ。

傷口がどうなってるのか見てみたら、まだ血がダラダラ流れ出ていた。パックリと口を開いた洞窟。ぎんなん入りそう。

こういうコトになろうかと予想して、気を紛らせるためのコメディー映画(ギャラクシークエスト)を借りておいたわけですが。

大笑いするたびに、傷口が開いて激痛が走るのだ。「どうしてこうなっちゃうの〜!?」

ぼくのほうこそ、まるでコメディーじゃねえか。 

鎮痛剤と抗生物質が頼みの綱
コメディー映画を見て痛みを紛らすも、笑うと傷口が傷んで七転八倒。

抜歯翌日

◆抜歯翌日

手術の翌日、歯茎の痛みで目が覚めた。

だが、当日のような鋭い痛みではなく、くぐもった鈍痛に変わっている。鎮痛剤を飲めば、痛みは全く感じない。

口の中をのぞいてみたら、洞窟の内部で血が固まりかけていた。よしよし。

かさぶたとみると剥がしたくなる性癖も、今回ばかりは息をひそめる。


おかゆ屋で夕食。広東粥(ピータン粥)650円。

それでも食事はつらい…

何もしていないときは大丈夫なのだが、飲食するとやはり痛みが押し寄せてくる。

おなかは空いているのに、固形物を食べられないこのつらさ。

あまりの空腹に気分が滅入り、自炊する元気も吹き飛んでしまう。かといって何も食べぬわけにもいかない。

仕方なく、近所の中国粥屋で夕食を済ませる。おかゆのくせに高いのな。

抜歯2日後

◆抜歯2日後

痛みは落ち着いてきたが、新たな問題が出現。

洞窟に食べカスが詰まったまま、一向に出てこないのだ。昨日のおかゆがそのまま穴の中で持ち越されている。

爪楊枝でほじくり出したくなるが、歯医者からは何度も注意されていた。「傷口が開くから、ほじったりしちゃダメですよ!」

頬袋にエサを蓄えたまま一日を過ごす。ハムスターにでもなった気分である。


自作のたまご雑炊。夕食はこれだけ。

さみしい自炊

固形物はまだつらいので、二日目も依然として流動食。

食欲はマンマンで腹ペコなのに、そして身体も健康なのに、食事だけが口を通らない。この切なさがたまりません。

ああ、油ギトギトのトンカツとかエビフライとか喰いまくりたい なァ。唇を切るようなカリカリの衣とか頬張りたいなァ。

憂さ晴らしに缶ビールを3本飲む。ビールは固くないので、いくらでも飲める。

抜歯3日後

◆抜歯3日後

…と悶々としている間にも、食べカスは順調にたまり続けるわけでありまして。

一旦おさまっていた痛みが、またぶり返してきた。あわてて歯医者に行ってみたら、「食べカスが発酵して、その酸が傷口を刺激してるんです」とのこと。

とりあえず、食べカスを吸引してもらう。3日間体温で発酵させたおかゆ、どんなにおいかちょっと嗅いでみたかった。


「ザ・めし屋24」にて、味噌煮込みうどん。

うどんに挑戦

食べカスを吸引してもらったら痛みもなくなったので、うどんに挑戦してみることにした。

おかゆばかりの毎日にホトホト嫌気がさしてきたのだ。

ただ、本格的なうどん屋だと麺にコシがあって難儀しそうなので、ここはあえて安いチェーン系の店をチョイスすることに。

このコシのなさが頼もしい。

抜歯5日後

◆抜歯5日後 

傷口が目に見えて小さくなり始め、鎮痛剤なしでも痛みを感じなくなってきた。

焼肉なんかもほぼ普通に食べられるようになり、せっかく3キロほど痩せた体重が一日にして元通りになってしまいました。

表面も固まってきたので、うがいをすれば食べカスも洗い出される。 嬉しくて思わず、一人でピョンピョン飛び跳ねる。

こんな分かりやすい「小躍り」したのて、何年ぶりだろう。


待ちに待ったギンナン

ぎんなんにも挑戦

実はギンナンが好物なのだが、抜歯後しばらくは恐くて食べられなかった。

ぱっくり口を開いた「洞窟」に、ギンナンがすっぽり入ってしまったら…と想像すると、それだけで気が遠くなってしまい、とても口にできなかったのだ。

でも傷口もすっかり小さくなったので、思い余すことなくギンナンをほお張る。うまいっ! 

日本酒も4合飲んだ。

抜歯3週間後

◆抜歯3週間後 

3週間も経てば、抜歯などなかったかのように食事できるようになる。

傷口はすっかり塞がった。あれだけ深かった「洞窟」も、盛り上がってきた歯肉のおかげでずいぶん埋まり、「落とし穴」くらいの存在感になっている。

歯ブラシも全力でゴシゴシ磨けるようになったので、手前の銀歯の輝きも取り戻せて嬉しい(そんなキレイなもんじゃあないですが)。

ちなみに、完全に歯茎が元通りになるには6ヶ月くらいかかるそうです。


エビフライも小松菜もキムチもバリバリ喰う。

なんでも食べられるぞ! 

もう、どんな固いものだってもOKだ。

なんて嬉しいんだろう。ようしもう、トンカツとかエビフライとか喰いまくってやるぞ!! 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。

…というわけで、今まで食べられなかったフライものや繊維野菜、辛味食品などを一斉に取り揃えてみたつもりだったんでありますが。

こうして見ると、なんとも普通な夕食ですな(でも自分的には、エビフライはちょっとパーティー気分)。


4週間(けっきょくハンバーグに戻る )

そして4週間後、気がつけば夕食はハンバーグに戻っていたのでした。

ほぼ完治した今だからこそ、声を大にしたい。「オレは軟らかいものが好きだ。大好きだァー!!」


 

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