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コネタ


コネタ369
 
ピーナッツのカロリーの謎を追う

ピーナッツの一粒、あれ、二つに割れますよね。割ったとき片方についてくるポッチ。あの部分をとると、大幅にカロリーカットできるという噂があるのをご存じでしょうか。

私は最近聞いたのだが、どうも結構有名な話らしい。あの部分さえとれば、ダイエットに繋がるなんて、そんな両面から美味しい話ないぞ!

伝説の真偽、確かめてきました。

(text by 古賀 及子

私が噂を聞いたのは

私が最初に噂を聞いたのは新宿のショットバー。この店ではお通しとして毎日柿ピーを出しているのだが、マスターがポッチの部分を残して食べていたのだ。

--? どうしてそこ残すんですか? 苦いから?
「いや、ここにカロリーが詰まってるんだよ。今ダイエットしてるから」
--え? ここの部分を食べなければ太らないってことですか?
「知らなかった? おれは子供の頃からそうしてたけど…」

マスターは子供の頃ニキビ持ちで、おばあちゃんにピーナツを食べるときはポッチの部分を取り除くように言われていたそうだ。その部分に脂肪が多いから、らしい。あそこさえ食べなければ、食べ過ぎて鼻血が出ることもないんだという。


「おれは昔からこの部分は食べない」力説するマスター

--そんな話聞いたことないですよー
「でも飲み屋で働きはじめてから、このこと話すと結構みんな知ってるよ。ちょっと見てみな」

そういうと、マスターはおもむろにピーナツに火をつけはじめた。ポッチがない方には火が付かないのだが、ポッチにはすぐ着火するのだ。


ポッチの方には火がつく

「油が多い証拠だよ」
--わー! 本当だー!

というわけで、この話を聞いて以来、私もちまちまあの部分をとってピーナツを食べるようになった。あの部分さえとればカロリーが少ないと分かったからには無敵だ。ハッキリ言って、油断して食べ過ぎている。

しかし、どうなんだろう。いかんせん、飲みの席の話だ。もしかすると、近頃順調に増え続けている私の体重の原因はピーナツの食べ過ぎかもしれない。

これはちゃんと確かめなければ。ピーナツに詳しい人に聞いてみよう! 「ピーナツに詳しい人」。誰なんだそれは。

 

栄養の専門家に聞く

なにしろ栄養に詳しい方に聞いてみようと、東京都栄養士会の食生活相談所に電話してみた。都民の要請に応じて栄養士さんを講師として派遣しているという会で、月に2回無料で電話による栄養相談も受け付けている。


電話中

--……と、まあそうゆうわけでして、あのポッチの部分にカロリーが多く含まれてるというのは本当なのでしょうか。
「うーん。申し訳ないのですが、食品成分表にはちょっとそこまで出てないんですよね。ピーナッツはピーナツとしての栄養しかハッキリとはお答えできないんです」
--あっ、じゃあ個人的にで結構ですので、どう思われますか?
「そうですねえ。そういった噂というか、話は私もよく聞きますが…そもそも研究されてないと思うんですよね」
--そうですか…ありがとうございました。

うう。確かに、あのポッチの部分だけまとめて食用で売っているわけでもなし、栄養士さんが気にするような問題ではないかもしれない。

続いて女子栄養大学の研究施設である食品分析センターさんにも電話で聞いてみた。


電話中

「なるほど、なるほど。面白い話ですね。実は以前ある企業からの依頼でピーナッツの皮について調査したことはあるんです」
--え!

「でも、内部の部位までは調べませんでしたので…。薄皮でしたら、栄養素としてポリフェノールという物質が多く含まれていることは言えるのですが」
--皮の部分はカロリー的にはどうなんでしょうか。
「それが残念ながら、エネルギーに関しては調査していないんですよ。ごめんなさいねえ」
--いえいえ! こちらこそ突然のことで。ありがとうございました。

……この問題、研究とか研究じゃないとか、そんな大げさな問題だったのか。

サクっと解明して、あとはピーナツの食べ歩きレポートでもしようと思っていたのだが、これは難しそうなことになってきた。


せめて食べながら調査をすすめよっと

 

帯、しめなおしてかかります

これは帯を締め直さなければならなそうだ。考えてみれば、専門家の方に対して電話口で「あのポッチの部分」なんて言うのも失礼な話だった。まずはその名称から確かめなくては。改めて調べてみた。

そもそもピーナッツとは、植物としての落花生の種の部分。食品としてはその胚や胚乳部分を食用とする種実類に分類される。

問題のポッチは「幼芽」と「幼根」の部分で、本体は「子葉」という。役割としては、ポッチの部分が葉や茎として育ち、本体はその育成を助ける養分が詰まる場所らしい。


正式名称ようやく判明

で、問題の栄養だが、中学生時代家庭科の時間に使っていた栄養成分表によると、おつまみで出るようなバターピーナッツは100gあたり592kcal。計ってみたところ、一粒約1gだったので、だいたい一粒で6kcalぐらいの計算になる。

さらに栄養は以下の通り。


精選 食品成分表より(数字は四捨五入。その他mg単位でミネラルやビタミンが含まれる)

ええと、何か普段とノリが違ってきましたが、このページはデイリーポータルZです。

グラフを見ると、そのほとんどを脂質、タンパク質、炭水化物で占めている。エネルギーは脂質は1gあたり9kcalで、タンパク質と炭水化物は1gあたり4kcalであるから、例のポッチの部分である「幼芽・幼根」とそれ以外の部分「子葉」のうち、より脂質の多い部分にカロリーも多く含まれることになる。

……しかしだ。万が一ポッチ部分が全部脂質だとしても、重量自体が少ないわけで、カロリー面はそれほど左右しないのではないだろうか。


で、ポッチの部分の重量を確かめてみた

問題のポッチ部分は36個でようやく1g。つまり、一つ約0.03g。もしこの0.03gが全て脂質であたっとしても、そのカロリーは0.25kcalである。

……少なっ!

因みに成人男子が1日に摂るべきカロリーはだいたい2400kcal。あのポッチが9600個必要なのだ。

しかも、ポッチである胚が茎や葉になる部分なら、本体の部分は栄養部分だというのである。つまり、エネルギー=カロリーだ。本体の方がよっぽどハイカロリーなのではないか。

 

そして届く一通のメール

「カロリー半減!」の夢が醒めるなか、一通のメールが届いた。差出人は全国落花生研究会さん。日本の主要落花生企業の有志によって構成されているという研究会である。自分で調べるだけではやはり不安で、メールでこの件を相談させてもらっていたのだ。

栄養成分表から計算すると、ピーナツは一粒約5キロカロリーということですが、そのエネルギーが「幼芽」や「幼根」の部分に集中しているということは有り得るのでしょうか。

私からの突然の質問に丁寧に答えて下さったそのメールにはズバリ、こう書いてあった。

「幼芽」や「幼根」の部分に栄養分(エネルギー)が集中していることは無いと思われます。よく巷で、この部分を食べると鼻血がでるので、取り除いたほうが良いと言われますが迷信です

迷信です。きっぱり。そういったわけで、やはり夢の伝説は嘘のようです。なるほど、私も太るわけだぜ! 今までのちまちました作業、無駄だったのな!

ピーナッツの脂肪はオレイン酸など、太りにくい種類の脂質と言われますが、やはり食べ過ぎは禁物。ご注意の上引き続きお召し上がり下さい。


マスターの店では今日もお通しに柿ピーが出ています

 

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