●まずは式典に参加して気持ちを高める
都内某大学の卒業式に潜入するため東西線の早稲田駅を降りると、駅前は卒業袴に身を包んだ女子学生たちで賑わっていた。
メガホンで式典が行われている場所を案内している人がいたので
「式はどこでやってますか?」
と聞いてみる。
「学生さんですか?」
おっ!いきなり学生と見込まれた。さい先のいい滑り出しだが
「あ、えっと、付き添いのものです」
と答えてしまう。
学生だ!と言い切る勇気がまだない。
こんな事では混じれない。僕は学生だ、僕は学生だ。自己暗示にかけながらキャンパスに向かう。
式典が行われる記念会堂は既に満席だったので同時中継をしている講堂に行く。
講堂内は保護者の方々の姿が目立ち、卒業生の姿はパラパラ。いきなり卒業生たちの中に混ざるのはキツイ、と思っていたのでちょうどいい。
13時キッカリに式は始まり、その様子が中央の大型モニターに写し出される。
会場内は厳かな雰囲気だが、こちらの講堂内では既に寝ている学生がいる。
各学部の代表者の名前が呼ばれ、1人ずつ壇上にあがり卒業証書を受け取っている。
その中に羽織袴でスキンヘッドな男子学生がいて、顔をパンっパンっと2度叩いて気合いを入れている模様がモニターにアップで写し出され、講堂内に笑いが起こった。
この人が学生なんだったら僕でもいける。
卒業証書授与式で確かな手応えを感じ自信を深める。
授与式が終わると偉い人の話しが始まった。
最初の偉い人の話は、ノーベル賞の田中さんとエンロン社の内部告発をした女性とイラク侵攻の話題を例に上げながら個人と組織のあり方について語っている。
卒業生の気持ちになって偉い人の話に耳を傾ける。
「組織や制度を最優先する時代ではなくなっているのです」
うん、そうだそうだ。
「まず自分の個性を理解すること」
なるほどなるほど。
「そして、利他的な心を……」
15分経過したあたりから目蓋が重くなってくる。
せっかくいい話をしてくれているのだ。僕たち卒業生が寝てはいけない。
とりあえず携帯を取り出しゲームに興じる。
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