「ドラ焼きにキュウリをいれて町おこし」…こう書くと冗談か、それとも何かの比喩のように見えるかもしれない。あまりに現実離れした取り合わせだと思う。
しかし実際に、埼玉県の本庄市ではドラ焼きにキュウリを入れて、名物にしているらしいのだ。それはいったいどんなものなのか。さっそく確かめに行ってきた。
(斎藤 充博)
4種類の「どらQ」
本庄では、キュウリ入りドラ焼きのことを「どらQ」と呼んでいるらしい。下調べしたところによると、市内で4つのお菓子屋さんが「どらQ」を出していて、それぞれに味が違うそうだ。
「どらQ」だけでも充分キャッチーなのに、それが4種類も!これは全部食べなくてはいけないだろう 。まずは駅に近いところからスタートだ。
断面がすごい
1軒目のどらQを購入。さて、どんな物かと二つに割って中身を見てみた。
すごい。これほどまでにキュウリが前面に押し出されているとは考えてはいなかった。
そもそもこれは「本庄のキュウリ」をプロモーションするために作られているのだ。だからたくさん入っているのは正解なのかもしれない。
いや、でも、なぜどら焼きに入れなくてはいけないのか。あんに見え隠れするキュウリを凝視しながら考え込んでしまう。…が考えていても仕方がない。意を決して食べてみた。 …おお。断面のルックスそのまんまの味がする。生地とマーガリンとキュウリと白あんの味だ。
こんなに視覚と味覚が直結した世界、そうはないと思う。ちなみに、視覚(画像)はインターネットを通じてデータとして送れるので、いまPCのディスプレイでこの記事を読んでいる人にもダイレクトにどらQの味は伝わっているのではないか。
意外にもサイバーな展開になってきた。どら焼きとキュウリという組み合わせ、何が起こるかわからない。
キュウリの入った生地
のっけから衝撃を受けたが、どらQ食べ比べはまだまだこれから。
2軒目のどらQはまたちょっと変わっていた。具としてではなくて、生地にキュウリが練り込んであるのだ。
なお、左の写真は店舗の中に飾られていたポスター。お店の子供(小学生)が授業中に描いたものだそうだ。
キュウリが細かく刻んであるが、やっぱりどら焼きの中でキュウリの食感と風味は目立つ。他の和菓子で例えると「いちご大福」が適当だろうか。味としてはミスマッチなんだが、それ自体が一つのジャンルの味になる…というか。なんというか。どう言ったらいいのか。
僕はいちご大福が大好きだ。そしてどらQは、一つのジャンルの味になっていると思う。…そんなことを考えながら自分撮りをしていたら、突風が吹いてカメラが三脚ごと吹き飛んだ。
カメラが勢い良く吹っ飛んで、1回コンクリート上でバウンドしたように見えた。大丈夫か。
無事みたいだ。この食べ比べ、本当にいろいろと大変なことが多い。しかしまだ半分が終わったところだ。がんばって続けていこう。
味噌あんどらQ
3軒目のどらQ。キュウリを炒めて味噌あんで和えてあった。
駅のベンチで試食をしていたら、タクシーの運転手さんがこちらをじっと見て来た。どうやら遠目からでも「あの人、どらQを食べてる」というのがわかるらしい。
タク「兄ちゃん、それ喰ってるのか?」 斎藤「ええ…これ、面白そうなんで食べにきたんですよー」
タク「ここでは4種類のどらQを作っててな、おれはそれを全部食べた」 斎藤「あ、そうなんですか、どうでしたか?」(地元の人が全種制覇してるのすごいな)
タク「兄ちゃんな…それがなんだかわかるか?」 斎藤「へ?」(会話がかみあわない?)
タク「わかる?」 斎藤「はあ…名物にしてるってことですよね…」
何を言いたいのかが、わかるような…わかんないような。なんともアヤフヤで、おとぎ話のような交流だった。こういう出会いをすると「僕は今遠くに来ているんだな」と実感できる。
青梅あんとメロンあん
最後、4軒目のどらQはまたすごい工夫がしてあった。「青梅あん」と「メロンあん」の二つの味のあんこが選べる。
「キュウリ」+「どら焼き」だけでも衝撃的なのに、そこに「青梅」とか「メロン」とかが付いてくると情報量が多過ぎてパンクしそうになる。
結局「メロンあん」のどらQをオーダー。「キュウリにハチミツを塗るとメロンの味がする」という話からの連想で、なんとなくキュウリとの親和性があるんじゃないのかな、という気がした。
よし、これで最後か。と食べはじめた瞬間、またものすごい突風が吹き荒れた。
風とどらQ
本庄は行政分的には埼玉県だが、地理的にはほとんど群馬県になる。こんな風に上州名物のからっ風が吹くことも良くあるらしい。またタクシーの運転手さんに話しかけられて、そんな話を聴きました。
今回食べたどらQはものすごいインパクトのある食べ物だったので、僕の心の中にもものすごい強風が吹いています。現実と心象風景の区別が曖昧です。