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ロマンの木曜日
 
大江戸線で昼食を
デジャヴュ? あるいは恋?

先日月島を歩いていたときのことだ。
看板をみて私は叫んだ(心の中で)。
「は!肉のたかさご!ここにあったのか!」

って、肉のたかさごって、なんだっけ。

田村 美葉



焼き豚とローストビーフの店、肉のたかさご

なんか前にガイドブックで見て、行きたいなーと思ってた店?だっけ?
と記憶を1秒でたどって思い出した。ああ、都営大江戸線のアナウンスだ。

「月島、月島、焼き豚とローストビーフの店、肉のタカサゴへお越しの方はこちらでお降りください」

私は毎日、大江戸線で通勤しているのだが、同じ大江戸ツーキニストの皆さんにおかれては、一瞬であのなじみ深い女性アナウンスの声で再生されたことと思う。それくらい、この種のアナウンスの刷り込み効果はすばらしい。
ちなみに私の思い出のアナウンスは、地元は金沢の北鉄バスで流れる「レルルミエールユワサ前」だ。バス通学していたのは小学校の6年間だけだが、いまだにはっきりと脳内で再生できる。「レルルミエールユワサ」とは結局なんの店だったのだろうか。ってそんな解決のあてのない疑問はおいておいてだ。

このアナウンスを聞いて、実際降りて行ってみようっていう気になったりするものなのかしら。
よし、私がその気になってみようじゃないか。大江戸線を一周して、食い倒れてしまおうじゃないか。
と、思い立ったわけだ。


でもこの日は休みだった

桜なべのみの家

というわけで月島を出発して、外回り(時計逆回り)方向に大江戸線に乗る。
あのアナウンスは、広告が入っている駅のみで降りる直前に流れるようだ。門前仲町、清澄白河と、アナウンス抜きで通過。いざ気にしてみると、気を引き締めて待っているときには肩すかしをくらい、ぼーっとしていると聞き逃す、そんなちょっとした駆け引きをアナウンス女性と繰り広げる。そして森下。

「森下、森下、桜なべのミノヤへお越しの方はこちらでお降りください」

きた、桜なべ!ごはんにありつけそう!
とあわてて降りたものの、さてどうしよう。


とりあえず案内図を見るが、出てないよな。
あ。出てる。

そして出口から交差点に出ると
あ。看板も出てる。

というわけで迷いようがなく着いてしまったのだが

なにこのものすごく立派な店。

桜なべのみの家。昼に20代女子が気軽に入れる門構えではまったくない。今までにランチにひとりで1,000円以上はらったことってあったか。たぶんない。でも絶対この店1,000円じゃすまないだろう。そして外にメニューが全く出てない。こまる。

思わずお店の目の前にして携帯端末でクチコミを確認。うむ、創業明治30年。え、明治。
暖簾は出ているが、昼から桜なべを食べようっていうひと、いるんだろうか。あ、いた。

どうしよう。…と迷っていても仕方が無い。とりあえず入ってみないことには記事になりようがないではないか。

よし。(と、この決意までに、現実時間では1週間経過した)


なにはともあれ店内潜入に成功

席に着くやいなやおしぼりと共に出される卵(50円)。したがって、鍋の注文は必須。
ドキドキのメニューはこちら。よかった。なんとか頼める値段だ。そして鍋以外のメニューもとても魅力的だがそれは次の機会だ。

やってきた。

食べた。

馬肉は火の通り具合が命らしい。もう、急いで食べた。あっというまに食べた。

ひとしきり食べ終わってから、「あ、食レポートってことは、味をお伝えしなければ行けないのでは。なにかしらの宝石箱とかそういう類のことが必要では」と気づいた。ええっと。馬肉であるということをまったく意識させない、「なんかすごいいい肉食べてる」というかんじ。牛肉の赤身のうまい成分をぎゅーっと集めてるかんじ。肉とはおもえないほど甘い。おいしい。


そしてとにかく趣のある店だ。
鯉も泳いじゃおうというものだ。

さすが創業明治30年。お店の方の対応も、ひじょうに丁寧かつ無駄の無い連携プレーで、緊張はしていたがすっかり居心地よくなってしまった。こんなことでもなければ一生知ることはなかったかもしれない。ありがとう大江戸線アナウンス。

 

魚河岸でつくった手作り蒲鉾の佃権

とすっかり気をよくしたばかりではあるが、じつのところ、ほかの駅ではアナウンスはあってもご飯にありつけそうなセンテンスが少なかった。まとめると、このようになる。


森下

桜なべのみの家

本郷三丁目

東洋学園大学、AED医療機器メーカーのフクダ電子

春日

中央大学後楽園キャンパス理工学部

牛込柳町

成城中学高等学校

若松河田

東京女子医大病院、国立国際医療センター

東新宿

チキンラーメンの日清食品、健康診断のフィオーレ健診クリニック

新宿

大きな売り場で豊富な品揃え安さと安心の新宿ヨドバシカメラ本店

代々木

山野美容専門学校

青山一丁目

一番に住む人のこと三井の賃貸レジデントファースト

六本木

六本木ヒルズ、ハリウッド美容専門学校、観光とビジネスの拠点六本木ホテルアイビス

麻布十番

東洋英和女学院

赤羽橋

東京都済生会中央病院、国際医療福祉大学三田病院

築地市場

魚河岸で作った手作り蒲鉾の佃権

月島

焼豚とローストビーフの店肉のたかさご

 


というわけで、外回りで大江戸線に乗っていたはずが、森下の次は、いきなり築地市場だ。そのあたりが本記事のタイトルが「大江戸線一周食い倒れの旅」とならなかった所以である。大江戸線沿線で昼食をとるなら、たまにはアナウンスに従ってみるのもよいのではないか、そのくらいの提案におさまりそうだ。
さて。

「築地市場、築地市場、魚河岸でつくった手作り蒲鉾のツクゴンへお越しの方はこちらでお降りください」


築地場外市場、素敵なグッゲンハイム駐車場の奥に
目立つ看板が見えた。ああ、ここだったのか。

佃権と書いてツクゴン。ここは何度か通り過ぎたことがあったけど、気づいていなかった。
盛況すぎて、なかなか店の全体写真が撮れない。

店頭にはいろんな種類のさつま揚げが並ぶ。

ああ。おいしそう。

食べ歩き用に買ったのは桜しんじょ。完全に桜餅の外見だが
食べると蒲鉾である。意外な味…!

 

肉のたかさご再び


そして再びの肉のたかさごへ。

赤い暖簾に金の文字。ああ、こりゃいい店だな、という感じの店内である。

アナウンスどおり、この店の名物は焼き豚。

そしてローストビーフ。

肉だ。

肉だ肉だ。

フライ類の充実っぷりも嬉しいところだが

おすすめ品と(ガブリ)に惹かれて、あとソーセージ好きのwebマスターの顔が浮かんでフランク串をチョイスすることに。

隅田川DEソーセージ

ああもう。そりゃうまいよね。

いいじゃないか。広告。

「〜にお越しの方はこちらで」といわれて「おおそうか」と降りるシチュエーションは、よほど向こう見ずでファンキーな生き方をしているひとでしかあてはまらない。ふつうは広告だとわかって受け流すことがほとんどだろう。そんな広告だとわかってるところをうっかりクリックしてみるみたいなこの企画、広告を出している店はどこも老舗で有名でしかもしっかり美味しいので、なんだかうがった見方ばかりしている自分を反省した。

素直に生きていきたい。


 
 

 

 
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