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フェティッシュの火曜日
 
イチゴフレーバーの虫がいる
イチゴっていうよりイチゴ味のお菓子でしたが。

沖縄の川にはなんとイチゴの香りがする虫がいるらしいと聞いた。
本当にイチゴなんだろうか。なんでイチゴなんだろうか。そういうのがカワイイとか思ってるんだろうか。
ぜひ見てみたい。というか嗅いでみたい。
タモ網を片手に渓流探検に出かけることにした。

平坂 寛



イチゴの香りを確認しておく

出かける前にイチゴを買ってきた。
実はそもそも日頃そんなにイチゴを食べる機会が無いのでイチゴの香りがはっきりと思い出せなかったのだ。


九州名産とよのかいちご。種まで赤く染まって実においしそう。

ところで話は逸れるが、どうして他の果物は実の中に種が入っているのにイチゴだけは実の表面に種が付いているのかご存じだろうか。

僕自身昔から不思議に思っていたのだが、知人から聞いた話によると、なんとあの種に見えるつぶつぶはそれ自体が果実であり、種子はさらにその内側に入っているのだという。では今まで果実だと思って食べていた甘くておいしいあの部分は一体何だったのかというと、あれは花托という花を支える部分が変化したものなのだそうだ。この話を聞いて身近な食べ物にも面白い秘密が隠れているものだなあと実感させられた。

話は戻ってイチゴの香りを確認。


嗅ぐ。イチゴとむさい男のツーショットである。目をそむけたいほど不気味な画になってしまったが了承いただきたい。

あー、こりゃいい匂いだ。だけどイチゴってこんな匂いだったっけ。

甘酸っぱい良い香りである。
しかし思ったよりずっと香りが強い。イチゴってこんなにも香り高い果物だっただろうか。もう少し青臭い感じだったと記憶していたのだが。
ひょっとすると最近のイチゴは品種改良で味だけでなく香りも甘さが強調されていたりするのかもしれない。

捕獲

さて、イチゴの香りも覚えたところで目的の虫を探しに行く。
生息地は沖縄の山中の川である。


激流を越え

滝をやり過ごし

穏やかな淵や淀みを狙う。

ターゲットの虫はアメンボのように水面に浮かんでいるとのことだったので、そんな虫が暮らしやすそうな流れや波のない場所を探る。


発見。

いらっしゃった。この虫である。案外簡単に見つかるものだ。
しかしこの虫、ゼンマイ仕掛けのミニカーのようにめまぐるしく水の上をちょろちょろと縦横無尽に走り回るため、カメラに収めるのがものすごく難しい。上の写真は20分以上粘り続けてようやく撮れた奇跡の一枚だ。

カメラを構えている間中早く捕まえてにおいを嗅ぎたくてウズウズしていた。これでもうためらう理由はない。早速捕まえて存分に堪能してやろう。


捕まえた。なんかかっこいい。

前脚だけでガシャンガシャン歩く。やはりメカっぽくてかっこいい。

割と簡単に捕獲に成功したのだが、これがもう香りがどうこう以前にやたらかっこいい。
捕まえるまでは「うわ…、なんかゴキブリみたい…。」と思っていたのだが、間近で観察するとまるでSFに登場する乗り物かロボットのよう。男なら誰でも持っている少年のハートを刺激する造形をしているのだ。


裏側。よりメカっぽい。前脚以外は短く、オールのように平たい。これが水面での機動力の秘密か。

目が4つ!?

 

さらに見ていくと体の随所のギミックが凝っている。流線形の体は水の抵抗を受けずに泳ぎまわるのに適しているだろうし短いオール状の脚は水面で素早く小回りを利かせるのに役立っているのだろう。

特筆すべきは4つの目である。正確には2つの目を仕切りで上下に隔てているのだが、これにより水面を走りながら水中と水上を同時に見ることができるようである。この虫は水面という2Dの世界に生きているが常に3Dを意識して暮らしているのだ。

 

本当にイチゴフレーバー

虫の見た目についてのマニアックな話はもういいだろう。
そう、問題は香りだ。
いよいよ捕らえた虫を鼻に近づける。


スメリングタイム。

!!

びっくりしてしまった。とてもわざとらしい表情だが、本当にこんな顔になる。

イチゴだ。すごくイチゴなのだ。むちゃくちゃいい匂い。
「すごくイチゴ」という表現がどういうことかというと、先んじて確認した生のイチゴよりもイチゴらしい香りがするのだ。イチゴよりイチゴ味。

似顔絵師が被写体の個性的な顔のパーツをことさらに強調して描写するように、イチゴの香りを構成する成分に含まれる「イチゴらしさ」をすごく大げさに表現したような香りなのだ。まあ、わかりやすく言うと「イチゴ味のお菓子」みたいな匂いである。

さらに驚くべきは匂いの強さである。一匹だけでもぷうんと強く香った。やたらいい匂いのカメムシ。といった感じのインパクトだ。
これがたくさん集まったらどうなってしまうのか。


集めてみました。

目につく限り一つの網で掬いまくってやった。といっても4匹だけだけれど。しかしこれだけいれば相当楽しいことになるはずだ。はやる気持ちは抑えずに、レッツ・スメル!


あははは、イチゴだぁーー!!

もう笑ってしまうくらい強烈なイチゴ臭だ。薄暗い川辺が一気にメルヘンな空間になる。イチゴ味のポッキーを鼻に突っ込まれたかと思った。さすがにそれは嘘だが、それくらいパンチの利いた香りなのだ。今何か食べ物を口にすればことごとくイチゴ風味に味付けされてしまうだろう。

ちなみに同行の友人は「イチゴにマンゴーかバナナを混ぜたみたいな匂い」と評していた。あー。言われてみればそんな気もしなくもないな。とにかくフルーティーな香りであることは間違い。

イチゴの香りはおなら!?

この虫の正体は「オキナワオオミズスマシ」という昆虫で、日本本土の池や水たまりでちょろちょろしているミズスマシの親戚である。サイズは二回り以上大きいが。本土のミズスマシもひょっとするといい匂いがするのかもしれない。機会があればぜひ試してみたいと思う。

ところでこの匂いの正体についてだが、これはおそらくカメムシやスカンクが敵に襲われたときに発射する「おなら」と同類のもだと僕は考えている。きっと人間にとっては心地良い香りでもこの虫を食べようとする生き物にとってはすごく嫌な匂いなのだろう。信じられないが。

一体どんな素敵な餌を食べればこんな匂いのおならが出せるのかと思い図鑑を開いたところ、餌は蚊などのただの昆虫だと書いてあった。わけわかんねえ…。

いろいろなお菓子を試してみたところ、ハイチュウのイチゴ味が一番虫の匂いに近かったです。

 
 

 

 
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