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工作ウィーク
 
新しいウォーターラインシリーズを作る
展望のないまま素材だけ届いた

プラモデルで有名な、あのタミヤがデイリーポータルZに素材を提供してくれることになり、タミヤ製品を使った工作記事を完成させよと編集部から指令が入った。

しかし滅多に工作をしない僕は、さまざまなジャンル、そして膨大な量の製品が掲載されたカタログを眺めるだけで圧倒され、何をどう使えばいいのか思いつかないまま、提供してもらえる素材を決める締切に追われた揚げ句、苦し紛れに「す、水中モーター!」と叫んでいた。

そして数日後、自宅に水中モーターが届いた。

さて何を作ろう。

萩原雅紀



何を作ったらいいのか

勢いで頼んだはいいものの、何を作るか決めかねていたところ、到着した水中モーターの箱に描かれた戦艦の絵を見ていて思いついた。

そうだ、ウォーターラインシリーズだ。


箱にも書いてある(WL=ウォーターライン)

ウォーターラインシリーズとは、船の喫水線より下を平らにして、あたかも大海原の上に浮いているような姿を再現したプラモデルで、タミヤを中心に日本のいくつかのメーカーから発売されて大ヒットした。僕は作ったことがないけど、子供のころ友人の家の床で海戦ごっこをした記憶がある。

この水中モーターは、ウォーターラインシリーズの下にくっつけて航行させるのにちょうどいい大きさらしい。

水の上に浮かべなくても浮いているような姿を再現しているウォーターラインモデルを、しかしやっぱり水の上に浮かべてしまうというのはなんだかひと回りして本末転倒な気もするけど、僕もウォーターラインモデルを作ってみようと思った。


ウォーターラインモデルを自作

ただ船のプラモデルを組み立てて水中モーター取りつけるだけでは記事にする意味がない。そこで、自分で作るものを設計してパーツを切り出し、組み立てることにした。もちろんプラスチックの鋳造なんて無理なので、パーツはすべて木材だ。


オリジナルWLシリーズ第1弾のパーツたち 「シリーズ」なので第2弾も作ることにした

設計の都合上、最小のパーツは幅5mm、厚さ1mmくらいの大きさになってしまった。切りながら何度も折ってしまったり、せっかく切り出しても行方不明になってしまったりして4時間くらいかかった。

これを組み立てて、オリジナルのウォーターラインシリーズを作ろう。


色を塗って組み立てる

切り出された各パーツに色を塗って組み立てていく。プラモデルを含めてこんな工作は20年ぶりくらいだけど、いざ始めると時間を忘れて没頭してしまうほど楽しい。

その楽しさがクオリティにまったく結びつかないのが工作下手の悲しいところだけど。


深夜にこつこつ色塗り作業 ほぼグレーばかりで地味である
ウォーターラインとなる底板は水色に塗った やや派手なこのパーツは何に使われるのか

絵の具が乾いたところで組み立て開始。完成した姿を早く見たくてうずうずする。さて、どんなウォーターラインモデルが出現するのか!?


まず三角柱のパーツと四角柱のパーツを接着 それをベースの端の真ん中へんに固定
次に薄い台形のパーツにボンドを塗って 最初のパーツの隣に接着
反対から見るとこんな感じ 続いて早くも派手なパーツが登場
台形パーツの隣に横向きに固定 それを台形パーツで挟んで...
ふたたび派手な板と台形パーツを立てる これを繰り返すとこうなる
今度は台形パーツの上に柱を立てて行き 柱の向こう側には橋を渡して
柱を全部立てたらその上にさらに橋を架け 柱の手前にも細い橋を渡したら...完成!

完成!...って、これダムじゃん

ダムができた

そう、完成したのは船ではなく、ダムの模型。立派なローラーゲートを5門備え、そのゲートを巻き上げる機械室を高々と掲げた姿は戦艦にも負けない迫力である。

これのどこが、ウォーターラインモデルなのか。

実は、この模型を見る方向は逆が正解。ダム好きとしては下流から見た堂々とした姿に注目しがちだけど、上流から見たダム堤体こそウォーターラインモデルと言えるのだ。


クレストゲートの下端まで水を湛えている重力式コンクリートダム
これぞダムのウォーターライン!

想像したよりもウォーターラインが成立してて嬉しい。

見る方向を限定してしまう時点でウォーターラインモデルとしては破綻してる気がしなくもないけど、今回ダムの模型を作ったことには理由があるのだ。

以前の記事でも書いたように、ダムはこんなにかっこいいのにフィギュアやプラモデルといったホビーが存在しない。でも今回の記事はタミヤ関係の方も多少見てくれると思うので、モデル素材としてのダムの素晴らしさをアピールしたかったのだ。

タミヤの皆さん、見てますかー!ダムかっこいいでしょー!ぜひプラモデル作ってくださーい!

モデル化の際はラインナップなどぜひご相談ください。あ、あとウォーターラインではなく全身でお願いします!

ちなみに5門のクレストゲートを備えたこのダムの模型、モデルは静岡県の天竜川にそびえ立つ、日本のダム建設史に残るマイルストーン、佐久間ダムである。


日本で初めて高さ150mを超えた記念すべき堤体
模型はこの部分をアップにしたものだ
本当はこちら側はウォーターラインはなく150mくらいの絶壁である

実物より黒っぽいのは、途中で白い絵の具が尽きてしまったからにほかならない。


水中モーターを使わなきゃ

さて、工作に夢中ですっかり忘れていたけど、本来の目的である船のウォーターラインモデルと同じように、よりリアリティを出すために水に浮かべてみよう。果たして意味あるのか分からないけど。

というわけで風呂に水を貯め、ウォーターラインモデルのダムを浮かべた。


ダム湖っぽくしようと思い入浴剤を入れたらまさかの暖色系 模型の下に浮き代わりの発泡スチロールを貼って水中モーターを装着!

うん、まあ、予想通りの馴染まなさではある
自分で作ったとは言え僕の脳はこの状況を理解できるほど柔らかくない

せっかく水中モーターを取りつけたので、回して走らせてみた。

...何だろうこれは。

すいーっと滑るように水面を動き回る、重力式コンクリートダム。重力式コンクリートダムなのに水面を走る。

もはやウォーターラインどうこう関係ない、何だかよく分からないけど新しくて何の役にも立たないものを作ってしまった。

そういえば誰も覚えていないと思うけど、ウォーターライン「シリーズ」ということで、もうひとつのモデルも作っていた。こちらはロックフィルダム。


重力式よりもさらに地味な外観 こちらが上流側=ウォーターライン面
自然越流式洪水吐の造型にはこだわった ちなみにモデルは南相木ダムである

もちろんこちらも風呂、いやダム湖に浮かべてみた。


あーこれは水が青かったらそれなりに見えたかも
でもこのくらい離れると何が何だか

気持ちよさそうに泳ぐロックフィルダム。

重力式の佐久間ダムと同じく、すいすい泳ぐ南相木ダム。本物のロックフィルダムは土と岩でできている。そう考えるとアメンボのように水面をくるくる動き回る姿は悪い夢のようだ。

もはやどうして水に浮かべたのか分からなくなったけど、タミヤの皆さんに(たぶん)ダムの良さをアピールできたから良しとしよう。

よろしくお願いします

ダムのプラモデルを商品化してもらう、という夢を叶えるために精一杯アピールしてみたけど、果たして届いただろうか。

もし製品化されたら、ダム好きの皆さんはきっと買って作ると思うけど、そのときには頭の片隅でいいので、風呂で泳いでいたダムのことを思い出してあげてほしい。きっと、彼らの活躍があったからこその製品だから。

こんなのが出るのを待ってます。

完成した作品は新橋にあるタミヤプラモデルファクトリーにて、5月23日〜29日の期間展示される予定です。実物を見たい方はぜひ!

タミヤプラモデルファクトリー新橋店


 
 

 

 
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