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ちしきの金曜日
 
おしっこがまんして
ピリオドの向こう側へ。

小学校の頃、運動会のリレーでとある必勝法がささやかれたことがある。「おしっこがまん走法」だ。

「おしっこがまん走法」はリレーを走る際、その名の通りぎりぎりまでおしっこをがまんして、その爆発力で実力以上の速さを得ようというものだ。

もうさすがに大人なのでそんな手が有効なわけないことも薄薄わかっているが、今だからこそわかる何か別の発見があるんじゃないかとも思うのだ。

おしっこがまんすると見える世界とは。

安藤 昌教



おしっこがまんして列に並ぶ

突然だが僕は今長蛇の列に並んでいる。しかもおしっこをがまんした状態で、だ。


まったく動かない列。

僕の住む町は自転車置き場が慢性的に不足している。そのため月に一度の定期券の発売日には駐輪場に朝から列ができるのだ。

その列に今、まさに僕もならんでいる。


見事な早朝ですわ。

時間は朝の5時半。定期の発売は6時からなのだが、この時間ですでに30人ほど並んでいようか。あと30分このまま待つのだ。

おしっこをがまんしての30分間、人は何を思うのか。


……。

この日は朝起きて用を足さずに家を出、そのままこの列に並んだのだった。最低気温11度。ちょっと肌寒い朝のことである。


自然とこぶしに力が入る。

列に並ぶとまず係りのおじさんが数取り機片手に人数を数えていく。発行する定期の数に達したところで列を切るのだろう。自転車置き場のキャパシティには限りがあるのだ。これはますます抜けられない。


負けられない戦いが、ここにある。

しかし僕とて大人35歳、朝から公衆の面前でおしっこもらすほど芸術家志向ではない。

当たり前だが、自分の意思を再度確認する。もらすくらいなら、定期をあきらめようと。


無限に思えた30分も、今思えば一瞬の出来事。

事情を知らずに長蛇の列に出くわした女子高生が大声で電話していた

「超並んでる、やばい。入り口におじさんいるからさ、聞いてみるよ、でもやばい、むしろ無理」

無理だしやばいのは僕も同じである。久しぶりに若者と心を通わすことができたと思ってメモしたのだが、今考えると着眼点が違う。

自然つま先立ちになりながらも尻に力を込め、ぐっとこらえる。状況に拍車をかけるため、起き抜けに炭酸水を一気飲みしたのもじわじわと効いてきている。

僕は記事に限らず人生のあらゆる場面において、無理をして失敗することが多々あった。考えてみるとこの企画、一度でも失敗したら記事にできないだろう。冷静になるべきなのだ。守りながら、限界を持ち上げていくべきだったのかもしれない。

過去の自分を振り返ったりしながら、待つこと30分。ついに列が動く。


ゲットしたぜ!

係りのおじさんが6時になる3分前に定期を売り始めてくれたのがうれしかった。普通に暮らしていてこれほど3分をありがたく思うことがあろうか。時は金なりとはよく言ったものだ。

震える膝で定期を受け取り、すぐさま自転車置き場を飛び出した。

行き先はもちろんトイレである。ちなみに駆け込むべき場所のめぼしはあらかじめ付けておいてあった。


自転車置き場から1分圏内のオアシス。

はい間に合いました

おしっこをがまんしたことで定期券を買えたことの達成感は2倍、いやそれ以上である。僕は定期争奪戦だけでなく自分にも勝ったのだ。周りの景色すら輝いて見えた。

次はもう少しフィジカルな面におけるおしっこ効果を試してみよう。

注意)おしっこをがまんするのは体によくないです。無理するのはやめましょう。


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