差別や偏見はいけないことだが、エスカレーターへの深い愛に対して、エレベーターにはおどろくほど興味関心の薄いわたしである。
なぜだろう。と言われても困ってしまうが、さらに困ってしまうことには、エレベーターの中で、チューブのエレベーターだけは、わりと好きなのだ。
これはいったいどういうことだろう。気持ちを整理しておきたい。
(田村 美葉)
地方へ行くと思い出す、チューブエレベーターの魅力
チューブエレベーターとは、主に展望を目的としてガラスの筒状に作られているエレベーター塔のことだ。例によってわたしが勝手にそう呼んでいる。
はじめに「チューブエレベーター、いいよね」と思ったのは大阪だった。
なんだか知らないけど、地方の人はチューブエレベーターが好きだ。ちなみに、カーブしているエスカレーター、スパイラルエスカレーターがあるのも、ほとんどが西日本。派手なのが好きなのか。曲がってるのが好きなのか。なんなのか。わからない。わからないけどわたしの好みのツボと同じなので困ってしまう。
そしてだんだんチューブの虜に
このチューブエレベーター、エレベーター好きのひとであれば、エレベーター本体であるところの、カゴ部分の形などをやはり気にするのだろうと思うのだけど、わたしのメインの鑑賞ポイントはあくまで筒全体としての形状だ。そこらへんがエレベーターファンとエスカレーターファンの相容れないところかもしれない。エレベーターファンのひとって、押しボタンとかなんか細かいとこ好きだよな。
このあたりになってくるともはや、「地方デパートっぽい派手さが好き」とか「丸いチューブの形がかわいい」とかいう好きな理由はどこかへ消えて、チューブエレベーターらしきものを見つけること自体が喜びになってしまう。「ふふふ、おまえがチューブエレベーターだということはこのわたしだけが知っているのだ」みたいな気持ちの悪いフェティッシュが芽生えるのだ。
誰がみてもかっこいい、チューブエレベーター御三家ここに選出
「雑居ビルにチューブ」のあたりで、「おお!」と固く拳を握りしめたあなたとは、ぜひお友だちになりたいところだが、それはさておき、もっとポピュラーにかっこよく、ふつうに観光地としてオススメできる、チューブエレベーター御三家を最後にご紹介して終わりにしよう。
どうやら帆船をイメージしているらしい、この不思議な建物は、いわゆる珍建築好きの皆さんにも大人気の名古屋港ポートタワー。ある雑誌をめくっていて眼が釘付けになり、さっそくはるばる観に行った。チューブエレベーターめあてで。 行って損なし、とここに太鼓判を押しておこう。
これがあるのは羽田空港第2ターミナルビル。スケスケである。もはやチューブの体を成しているのは骨組のみ。でも間違いなくチューブ。このエレベーターをみるたびに私は、「ああ私たち、あのころ思い描いていた未来に生きてるんだわ」と実感する。ちょっと大げさに書きすぎたが、そのくらい未来っぽいということだ。
なんだか写真が昭和風になっているのは、興奮しすぎてISO感度がマックスになっているのに気がつかなかったせいであって、撮影は2010年。
21世紀に今なお残る栄華のころの建築だ。この福岡天神イムズ、さらにこの横に、あの素晴らしいスパイラルエスカレーターが鎮座ましましているのであって、もしもわたしが福岡に生まれていたら東京に出てくる必要はなかったんじゃないかと思うくらいなのであるが、福岡出身だという友人をつかまえては天神イムズのすばらしさについて同意を求めるに、多くの場合 「え? あのいけてないビルのどこが??」 というような反応が返ってくるのであるからして、なんだか人生って、思うようにはいかないものなのだな。
なぜ好きか。それはわからない。だが楽しい。
結局、チューブエレベーターのなにがいったい私の関心をそそるのか、よくわからないままになってしまった。集めれば集めるほど、「なぜ好きなのか」はわからなくなる、というかどうでもよくなる場合が多い。なんか楽しくなってきちゃうから。 と、このようにして私の手元には「よくわからないが集めているコレクション」がたまっていくのであるが、当サイトでまだ紹介していないものは、本当にいったいなんで集めているのかさっぱりわからない選りすぐりばかりなので、紹介の機会があるのかないのかは楽しみにしておいてほしい。