ちょっとしたレストランやバーなどに、まるごと骨付きの生ハムが珍しい形の台に乗せられておいてあるのを見たことはないだろうか。 そこからスライスしてお皿に盛りつけるのだ。 ふつう、生ハムというと薄切りのがちょこんとお皿にのっているものだから、もしあの骨付きのかたまりが家になんてあったら、ほぼ無尽蔵に生ハムを食べ続けられるんじゃないだろうか。 夢のようである。 憧れるなあ。 欲しいなあ。 買おうかな。 買っちゃった。
(工藤 考浩)
あのハムが欲しいの
僕が最初にあの骨付き生ハムのかたまりを知ったのは、だいぶ前に見た何かのテレビ番組だ。 たしかクイズ番組だったと思うのだが、スペインからの出題で、生ハムに関する問題だった。 天井から吊された豚の足がずらりと並んだ製造工場をミステリーハンターが(そう、あの番組だったと思う)歩いているのを見て、大変驚いた。 あのペラペラの生ハムがこんな形だったとは。
その後しばらくして、ちょっとおしゃれなバーに行ったときに(ごくごく希にだがそういうところに行くこともある)、あのテレビで見た生ハムのかたまりがカウンターの向こうに置いてあるのを見つけた。 生ハムのかたまりは高級そうな専用台に乗せられて、バーテンダーがスライスしていた。 うむ、あれが欲しい。
だが、高い
バーで見かけた翌日にいろいろと調べたところ、あの足つき生ハムのかたまりは一般的に「原木」とよばれるらしいこと、スペイン産でハモン・セラーノやハモン・イベリコという名前で、そして専用台は「ハモネロ」という名称だということ、さらに、それぞれがみんなたいへんに高価だということがわかった。 デパートで見かけた生ハムを切るためのあの専用台は7万円くらいしていた。 むひー。 こりゃ無理だ。
個人消費の冷え込み
ここでがらっと話題は変わって先の震災の話だ。 全国的に自粛ムードが広がって、個人消費が大幅に冷え込んでいるらしい。 このままでは経済が疲弊してしまうので、みんなちょっとした贅沢をしてみようよ、というような話をテレビで経済の専門家がしていた。 なるほど。 僕にできる贅沢はなんだろうか。 そうだ、いつか憧れたけどあきらめていた、あの生ハムがほしいな。
買えそうなのを発見
手頃な生ハムの原木がないかインターネットで検索したところ、日光市の会社が、生ハムカット用の専用台とナイフのセットを24,000円で販売しているのを発見した(→この商品)。 2万4千円か。 予想していたよりも安いことは安いが、生ハムに出費する金額としては非常に高価だ。 けれども、捻出できないこともない値段だ。 うーむ。 経済の活性化のためだ、ここはひとつ、冒険してみようか…。
注文しちゃった
10日間くらい悩んだ末、結局注文してしまった。 このセットを販売している会社は基本的に通信販売なのだが、店頭での受け取りもできるということなので、せっかくだから会社に引き取りに行くことにした。 購入前日に電話でその旨伝えたのだが、2万4千円のハムを買ってしまった興奮から、その晩は本当に眠れなかった。
10kgのハムを携えて帰宅
日光市まで生ハムの原木を受け取りに行き、生ハムの保存方法(常温で半年以上保存可能だそうだ)、カッティング方法などのレクチャーを受けた。 前日の電話で「かなり大きくて重い」という話を聞いていたので、キャリーカートを用意していたのだが、本当にでかい。 代金2万4千円を支払い(もちろん自費である)、巨大なハムをころころと引きながら、生ハムへの期待を胸に家路についた。