10日くらい前、月が普段よりもずっと大きく見える夜があった。その日のことだ、僕のヘソからなんの前触れも無くウドンが出てきたのは。
(斎藤 充博)
退屈な時に身体のどこかを触ってしまう、ということはないだろうか。僕の場合はヘソだ。この穴の奥は薄皮一枚で内臓につながっている。自分の身体の末端である指が、自分の身体の中心部分に到達してゆくなんて、ゾクゾクするじゃないか。
僕はそういう危うさを感じながら、いつもヘソを触る。
今日もそんな風に、いつも通りヘソを触っていた。触りはじめて5分も経たないうちだっただろうか。不意に指先に重さを感じた。
指を滑らせて、ヘソの穴を突き抜けてしまったのか。そこでなにがしかの臓器に引っかかってしまったのか。
慌てて指を引っ込める。すると、てのひらに白くて細長い何かがまとわりついてきた。
困ったのはここからだ。ヘソからどんどんとこの白くて細長いものが出てくる。
このヘソから出てきた物、見た目の白さといい、適度な弾力と良い、まるでウドンそっくり。ついザルに入れてしまう訳である。
少量食べてみると、やはり小麦粉に近い味がする。
温かい夜食が一品できました
食べてみると、味もウドンそのもの。急なことで具が何も用意できなかったが、ダシと七味だけでも充分イケた。
これが僕のヘソからウドンが出てきた話の全てである。