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土曜ワイド工場
 
超かわいいカタツムリを探して
普通のカタツムリもかわいいですが…

僕は数年前まで沖縄に住んでいたのだが、その当時森の中でとんでもなく可愛らしいカタツムリを目にしたことがある。 ふとあの可愛らしさをもう一度味わいたくなり、僕は沖縄へと飛んだ。

平坂 寛



思い出のカタツムリ

僕はかわいい生き物が好きだ。一口にかわいい生き物と言ってもいろいろあるが、その中でもカタツムリは温暖多湿な日本に暮らす人々にとって最も身近な存在の一つだろう。

丸く、小さく、柔らかい。その上動作は緩慢。どこまでも低刺激。これを癒し系と呼ばずして何を癒し系と呼ぶのか。

ひたすら無表情で何を考えているのかわからないところも良い。表情豊かな赤ん坊や犬、猫のかわいさが人間的なものだとすれば、カタツムリのそれはマスコットキャラクター的なものであると言えるのではないか。決して「撫でまわしたい!抱きしめたい!」とは思わないものの、ただぼんやり眺めているとなんだか癒されるような気がしてくる。カタツムリはそんなかわいらしさを持っているのだ。

僕は雨の日に植え込みの葉っぱの上にあの姿を見かけると、少し優しい気持ちになれる。

日常のしがらみから解放され、涅槃の境地に辿り着ける。というほどのことはさすがにないが。


どこにでもいる癒し系生物。それがカタツムリ。

先日も家の近所で彼らを見つけてほっこりしていたところ、唐突に数年前の記憶がよみがえってきた。

とある夏の日、友人たちと沖縄の森を探検している際にやたら人目を引く、それはもうかわいらしいカタツムリに出会った時のことだ。

あの時はいい歳をした男たちが蒸し暑い沖縄の森の中で一斉に色めき立ち、女子高生のように「カワイイ!カワイイ!」と連呼していたのを覚えている。濃厚な空間だった。

あの暑い夏の日の興奮をもう一度味わいたい。そのためにはもう一度沖縄の森に行くしかない。

思い立ったが吉日。気がつくと僕は沖縄行きのチケットを手にしていた。

 

いざ沖縄へ

沖縄といえば、まず何といっても熱帯魚の舞う紺碧の海と琉球王朝時代の色合いを強く残す独自の文化が見どころだ。

しかし今回の僕の目的はあくまでカタツムリだ。でんでんむしだ。そんな華やかな観光スポットには目もくれず一目散に森を目指す。


沖縄島北部に広がる森林地帯、通称「やんばる」。
山道をひたすら進む。

やんばるの森の中に潜りこみ、数年前の記憶を頼りに目当てのカタツムリがいそうなポイントを探っていく。この日は晴天だったが、明け方に小雨が降っていたので森の中は湿度が高く、カタツムリ探しにはまあ悪くない日和である。しかし、やぶ蚊がとても多く、長袖を着てこなかったことを激しく後悔する。

 

カタツムリ探し開始


真剣です。

茂みの中や木の洞など、カタツムリが好みそうな薄暗く湿った場所をくまなくチェックしていく。

正直、数年前の記憶はかなり曖昧なので、ほとんど勘だけが頼りの探索になってしまっている。

だがしかし、手探りで探し始めた割にはあっさりと、さっそくカタツムリを発見!


うーん…。

カタツムリには違いないが、これはごく普通の、何の変哲もないカタツムリだ。今回のターゲットである思い出のカタツムリではない。
だがこれはこれでかわいい。

さらに歩みを進めていると、足元に大きなカタツムリが転がっているのを発見。


これまた普通なカタツムリ。我こそがTHE カタツムリと言わんばかりのカタツムリっぷりだ。

と、思いきや中からなんとヤドカリが!

天然記念物に指定されている陸で暮らすヤドカリ、オカヤドカリだ。山の中にサザエやホラ貝なんかが転がっているわけがないのでこうやってカタツムリの殻を背負っているのだろう。

沖縄ならではの出会い。
これはこれでかわいい。

この日の僕は、沖縄で最もカタツムリに対して熱く執念を燃やしている男はおそらく自分に違いないと自負していた。しかし、このヤドカリは衣食住の衣と住をカタツムリに頼り切っているのだ。彼のほうがよほど強くカタツムリへの執着を胸に秘めているのは明白である。僕の負けだ。あっぱれある。

 

変わったカタツムリたちとの出会い

探索を開始して小一時間、ついに普通じゃないカタツムリを茂みの中で発見!!


うわぁでかい。

大きすぎる。あまりの大きさに思わず百円玉を横に並べて撮影してしまった。写真からもその迫力がお分かりいただけると思う。

シルエットも尖っていて攻撃的だ。殻からのぞく目もどこか邪悪な雰囲気をまとっている。これはかわいくない。

このカタツムリはアフリカマイマイといってその名の通りアフリカから持ち込まれた外来種らしい。元々は食用目的で飼育されていたのだが、現在では沖縄のあちらこちらで野生化してしまい、農作物を食い荒らす害虫として嫌われているそうだ。これもまた沖縄ならではの出会いだ。

その後もカタツムリ探しは続く。
やたら細長いものやサザエのようなフタつきの殻を持ったものといったちょっと変わったカタツムリも見つけることができた。しかし目的である思い出のカタツムリにはなかなか出会えない。


キセルガイの仲間。細長い殻を持つカタツムリ。
オキナワヤマタニシ。陸にすむタニシの仲間で、田んぼのタニシと同じく殻の口にフタがある。

以前から気になっていたのだが、沖縄にはカタツムリがやたら多い。暖かくて雨の多い気候のせいだろうか。それとも殻の材料になるカルシウムを多く含む石灰質の地質のためだろうか。詳しいことはわからないが、とにかくいろいろなカタツムリがたくさんいるのである。

 

発見!

ちょっと疲れたので蚊のいない林道に出て休憩。


ふと道路わきに座りこもうとすると…。

いた。

こいつだ。間違いない。
数年の時を経ても忘れるはずのないこのインパクト。他のカタツムリとは一線を画す青緑というトロピカルなカラーリング。翡翠のようでとてもきれいだ。

もうこの色合いだけでも日本一かわいいカタツムリの称号を与えてもいいと思う。

しかし、この生き物の魅力は体色のみにあらず。
では一体何が私の心を捕らえて離さなかったのか?
その愛くるしさを写真で見ていただきたい。


!!

かわいい!

つぶらな!瞳が!超かわいい!!

かわいさのあまり思わず手に取ってしまった。

そう、このカタツムリはその色合いもさることながら「顔」がものすごくかわいいのだ。
童謡「かたつむり」にも「♪ツノ出せ ヤリ出せ 目玉出せ」とあるように、普通のカタツムリの目玉はツノのような柄の先についている。
一方このカタツムリの目玉は「ツノ」の根元に位置しており、その独特の面立ちを形作っているのだ。


普通のカタツムリの目玉。

目玉の位置がかわいさの秘訣か。

このカタツムリの名前は「アオミオカタニシ」。
先述のオキナワヤマタニシと同じく陸上に住むタニシの仲間らしい。目がツノの根元についているのもタニシの仲間の特徴なのだそうだ。


ちなみにこちらは近所の田んぼにいた、ごく普通のタニシ。やはりツノの根元に小さな目玉がある。タニシってこんな顔だったんだなあ。

タニシの仲間なのでちゃんとフタもある。

やはり何度見ても素晴らしくかわいらしい。色合いと造形もさることながら、指先ほどと控えめなサイズや歩みの遅さも魅力に拍車をかけている。奇跡のバランスである。おそらく改良の余地が無いほど完成されたかわいさではないだろうか。

もしも彼の体の大きさが握りこぶしほどもあったら…。あまりかわいいとは思えないに違いない。もしもゴキブリ並みにスピーディーだったら…。もはや恐怖の対象である。山道で不意に出会うことがあっても極力目を背けるだろう。

考えれば考えるほど、この生物の設計には余計な手を加える必要がないことが解る。今のままの君でいい。

再会の感動から我に返り、改めて周囲を探すと…


赤ちゃんだ!

大変かわいい。

人間でも動物でも子供はかわいいものだが、その法則はカタツムリにも当てはまるらしい。色合いも鮮やかな黄緑色でいかにも繊細な感じがする。


つぶらな瞳もよりいっそう純粋なものに見える。

最後に親子(?)で記念撮影をしてお別れ。悲願達成!

数年ぶりに再会した彼らはやはりとてもかわいらしかった

いかがだったでしょうか?
今回取り上げたアオミオカタニシ。カタツムリが好きな人もそうでない人も、こればっかりはかわいいと感じてしまうのではないでしょうか。

その後、沖縄在住の友人に話を聞いたところ、このカタツムリはわざわざやんばるまで足を伸ばさなくても、市街地の公園などでも見ることができるとのことでした。

もしもこの記事を読んで彼らに会いたくなった方がいらっしゃれば、ぜひ沖縄へ足を運んでみてください。木の葉の上をのらりくらりと動いている姿は写真で見るよりもずっとかわいらしいですよ。

ほほえましい気持ちになりました。

 
 

 

 
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