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ちしきの金曜日
 
穴に手を入れる


穴。

穴があれば中が気になるものである。

しかし、だからといってむやみに手を突っ込むと危険が潜んでいる場合もあるので注意が必要だ。

安藤 昌教



都会に潜む穴

なんだか隠喩のような書き出しになってしまったが今回はそういう話ではない。現実的な「穴」である。

われわれが暮らす日常にも穴はいろいろと存在している。たとえば下の写真、どこに穴があるかおわかりか。


穴。  

コンクリの外壁から水を逃がす穴である。

穴。 

穴に手を突っ込んでみよう

穴があったら入りたいというが、べつに恥ずかしいことがなくても、穴を見つけたら中が気になるのは生き物の習性ではないかと思う。

今回は企画遂行のためという名目で勇気を振り絞り、次々と穴に手をいれていきたい。


イン。  

気分を重視するため、企画遂行中は中を確かめずに手を入れることをルールとする。

まずは上記コンクリート壁に点在する水抜きの穴。握り拳がちょうど収まるくらいの直径の穴である。これに手を入れる。

・・・。

手を入れた瞬間じめっとした冷たさを感じた。おそるおそる指を伸ばしてみる。

「さわさわ」っと何か毛みたいなものに触れた気がした。

・・・限界である。

恐怖にさいなまれながら手を引き抜いた。脇の下にへんな汗をかいている。中にあるのは何か。あのさわさわした毛は?動物?虫?スティーブンキングの小説だったら人食いピエロがでてくるシチュエーションだ。

※穴には中に何が潜んでいるのかわかりません。むやみに手を突っ込まない方がいいです。


正解は葉っぱでした。 

あらためて中を覗いてみると、枯れた葉っぱが入っていた。

しかしあのさわさわした毛みたいな感触はぜったい葉っぱのそれじゃないはず。手を抜いてカメラを構えた時点ですでに中身はすり替えられているのだ。

感覚を研ぎ澄ますことで感じられるものがあるのだろうか。穴は人の好奇心を刺激し、同時に恐怖を増幅させる。

穴いろいろ

よく見ると街にはいろいろな穴があいている。大きな穴、小さな穴、四角い穴、丸い穴。


公園入り口に人の手にジャストサイズに作られた穴を発見。  
ほらぴったり。あまりぴったりだと(もし抜けなくなったら)という別の恐怖も発生する。

足元にも穴はある。  
すこし小さいが入れるには十分。中では風を感じた。  

もちろん全ての穴に手をいれていいわけではない。社会的に、あるいは心情的にやすやすと手を入れられない穴もある。

中にあるものがわかっているので比較的危険は少ないが、社会的に問題がある場合があるので注意すべき穴もある。
縦穴には水がたまっていたりもする。

人が作った穴には一つ一つに意味があるはずだ。たまには手を入れてその穴の必要性について考える時間を作ってみてもいいんじゃないか。

自然の中の穴

では自然の穴となるとどうか。自然の穴といっても鍾乳洞みたいなやつではなく、やはり手だけ入るレベルの大きさがいい。


広い場所にやってきた。

今の時期、芝生の広場などにこんもりとした土の盛り上がりを見つけることがある。

これ「モグラ塚」と呼ばれるもので、その名の通りモグラが地下のトンネルを掘る時に出た土である。すなわちこの下には穴があるということだ。


土が湿っているのはまだ新しい証拠。

この穴にも手を突っ込んでいきたい。

※モグラに噛まれる可能性があります。むやみに手を突っ込まない方がいいです。


盛り上がった土をどかすとふかふかの部分が現れる。
これを慎重に掘ると穴が。

底の見えない穴

モグラが掘った穴は暗く底が見えなかった。その暗さには人工物にはない、なにか有機的な、密度の濃い闇の存在を感じる。


直径5センチ程度の穴だが、その先は無限の彼方へ繋がっているかのようだった。

おそるおそる指を2本突っ込んでみる。


イン。

・・・。

何にも触れない。ただ冷たく湿った空気を感じるだけだ。

しかしすぐ近くにモグラの息づかいがあるような気がする。いまへたに指を動かしたら噛まれるんじゃないか。実はモグラが捕らえようとしたミミズの目の前に手を入れてしまったんじゃないか。

指を突っ込んでいる間、常に不安ばかりが指先にはりつく。


ひいいい。

ちなみに突っ込んだ指の感触を表現すると、それは厚めの文庫本に指を入れた時の感触に似ていた。冷たく、そして深い。

今手元に本がある人は指を入れながら読んでください。そうです、その感覚です。


この感触がモグラ穴と同じ。

イタリアに真実の口という穴に手を突っ込む観光地があるだろう。うそをつくと手が抜けなくなるというあれだ。

そんなことないとわかっていても、穴に手を入れるという行為にはある程度の覚悟が必要となるのだ。中に何があるのか、手を入れてみないとわからない怖さ。真実の口が脈々と人々に手をつっこませ続けている所以である。

さて、モグラの穴から指を出すと、僕の指はなくなっていた。なんてことはなく、ただ土がついていただけだった。

さらに入れる

いちど冷静になって周囲を見渡すと、モグラ塚はいたるところにあった。たぶんこのあたりの地下にはモグラの掘ったトンネルが縦横無尽に張り巡らされているのだろう。


点在するモグラ塚。

これだけの穴を見ているともう一つくらい手を突っ込んでみてもいいのでは、という気持ちになってくる。

さっきあんなに怖かったことをもう忘れちゃっているのだ。人間の穴欲には限りがない。


土をどけたモグラ塚。やはり直径5センチ程度の穴があいていた。
斜め横に向かって、長めの木の棒がなんの抵抗もなく入る。これは深いぞ。

イン。

さっきの穴と同じように、今回も突っ込んだ指は何にも触れることなく冷たい地下の空気を感じるだけだった。

ではさらなる奥、そこには何があるのか。


マッチ、ディーパー!

なんか触った!

穴の前に人は無力

モグラ穴の中で何かに触ったような感触があってすぐに手を引っ込めた。こちらからではなく、あちらから触れてきたような感触だったのだ。それが何だったのか、恐怖が生んだ錯覚か、それとも地下に住む何かか。今となっては不明である。

なにしろ穴は人のイマジネーションをかき立てる。

僕たちはこれからも穴に振り回されて生きていくのだろう。

しばらく遠くからモグラ穴を眺めていたんですが、何も出てこなかったです。

 
 

 

 
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