ときどきものすごくあたりまえのことが書いてある注意書きがある。
そんなことまで呼びかけなければならないのか、という事情も見えるのだが、あたりまえすぎて不条理なのだ。
そんなあたりまえ系注意書きの貼り紙を見かけるたびに撮っていたのだが、たまってきたのでまとめて披露したい。(林 雄司)
ここはトイレではない
大手町の地下道にあった注意書きである。日本の中枢とも言える場所だが注意書きはあたりまえだった。
しかも親切にトイレの場所まで教えている。これが貼ってあったのはここである。
地下道にある金属のドア近く。ひと目につきにくい場所である。人類はもともとこういうところをトイレとして使い始めたのかもしれないが、別にここで文化の発生を知る必要はない。
ここはトイレではないというあたりまえすぎるメッセージがインパクトがある。そして書き手の怒りを感じる。たいてい怒っている人は冷静に話し始めるものである。
2009年の年末企画でも取り上げた植え込み(新宿駅から歩いて行ける廃線跡)にも『ここはトイレではない』注意書きがあった。
この植え込みは京王線が路面電車だったころの駅の跡なのだが、もしかしたらここにかつての駅のトイレがあったのかもしれない。そんな要らんロマンを働かしたところで注意書きの不条理さは消えない。
かつて新宿のコインロッカーで「大便禁止」という注意書きを見たことがあるが、大便が許可されている場所のほうが圧倒的に少ない。トイレしかないのだ。そんなことを注意しはじめたらあらゆるところに禁止と書かなければならないのではないか不安になる。
そしてトイレはトイレでこんなこと書いてあるのだ。
トイレでないところには小便・大便禁止と書いてあるし、トイレに行ったら行ったでこんどは寝るなと書いてある。あたりまえラビリンスである。そして傍点がちょっと村上春樹っぽい。
壁を押すな
トイレはそんなところで致す輩がいるのだろうという想像がつくが、どうしてそうなったのか分からないものもある。
なぜここに押すなと書いてあるのかが分からない。駅の壁を押したことがない。
ゲームで言うひみつの扉だろうか。押すなということは押すと何かあるのか。武器屋の入り口か。分からなさすぎてパノラマで撮ってしまった。
左の階段から下りてきた人が勢いあまってここを蹴ったり押したりするのだろうか。そんなソニックザヘッジホッグみたいな人が利用しているのか、三田駅は。
しかし三田駅はこんなあたりまえ注意書きを出していた過去があるのでほんとに勢いがある利用客が多いのかもしれない。
条件付きあたりまえ
次のあたりまえはやや特殊なパターン。特殊なあたりまえである。
ゴミをあさるのはかまわないが、と譲歩したところでゴミは持って帰ってはいけない。あたりまえである。許されたのはあさるところまでだ。それまたあたりまえの範囲内の許可である。かき混ぜるだけだもん。
だんだんなにがあたりまえか分からなくなってきたが、JR九州の車両にはやたらと「運転手に話しかけない」と書いてあった。九州の人は知らない人でも気さくに話しかけるので(九州というか僕の父親だけかもしれないけど)、この注意書きが登場したのかもしれない。
右の貼り紙は駅員が手で拾っているのがあたりまえだと思ったのだ。
駅に常備しているマジックハンドで取るのかと思ったら手で取ってる。あたりまえな感じである。
しかしものを拾おうとしている駅員がUFOに連れ去られているようにも見える。そのときに「駅員は連れ去らないでください」と書いてあるとあたりまえでいい。
まじめの末の不条理
あたりまえのことを力強く言われると面白い。ここはトイレではない、僕はイチローではない。品川区はフィンランドではない。そんな不条理が笑いを狙ったわけではなく、まじめに考えて公共の場に登場しているのが愛おしい。
これからもあたりまえを探す旅を続けたい。かっこつけて書いてみたがものすごくあたりまえの文章になった。あたりまえの奥は深い。