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ロマンの木曜日
 
東京登れない塔めぐり


やっぱり風格が違う金字塔

東京に限らないが、街中にはあちこちに塔が立っている。

定番の東京タワーや、もうすぐ完成するスカイツリーのように展望台からの眺めを楽しむことができる塔もあるけど、実際のところほとんどは一般人が登ることはできない。そして登れないが故に、注目されていないものが多い。

でも、街中に塔がそびえ立つ景色はやっぱり異様だ。平和な街がそこだけ急にSF映画のワンシーンになる。そんな光景を観るために、いくつかピックアップしてめぐってみた。

萩原 雅紀



やっぱりかっこいい東京タワー

まずは人が登れる代表的な塔を見てみよう、と思って、東京タワーにやってきた。

最寄駅から出た最初の景色でもう目が捉えて離れないこの存在感。今でこそみんなが見慣れて東京のシンボルと言えるけど、建設されたばかりの頃の衝撃たるや、後にこの塔を破壊する怪獣の襲来と同等、といっても大げさではなかったのではないか。


実物を見ても違和感ないけど改めて写真で見るとハメコミ合成か、と思う

真下に立って見上げても、もはや大きさのリアリティーはない。あの展望台に人が大勢いる、ということが理解できない。

それと同時に、タワーを構成している鉄骨1本1本、リベットひとつひとつにすべて力がかかっていて、それらのバランスが保たれていることでタワーが安定して屹立しているのだ、ということを考えて気が遠くなった。ここにある部材、すべてに意味があるのだ。

それは君たちも同じなんですぅ、なんて金八先生が言いそうな言葉である。


鉄骨界、リベット界において人気上位の職場であろう

ところで東京タワーは電波塔である。東京のテレビ局やラジオ局のアンテナが設置されていて、ここから電波が発射されている。テレビが地上デジタル放送に移行すると、東京タワーでは高さが足りなくなり、それで建設されることになったのが東京スカイツリーである。


ボディのあちこちにアンテナがついている
先っぽの形とか今までよく見たことなかった

さて、危うく「東京タワーかっこいい」という記事に落ち着いてしまいそうなところで、いよいよ次から登場するのは登れない塔である。


西の東京タワー

23区から出て、東京の西部、その名も西東京市にも立派な電波塔がある。田無(たなし)にあるから通称「田無タワー」と言われている、正式名称スカイタワー西東京である。

知らない人が聞いたら、東京タワーと東京スカイツリーの名前を組み合わせたようなネーミングの、いかにも後追い商法的なB級塔を想像するかも知れないけど、20年以上前に建てられた、もはや東京西部では由緒すら漂う正統派タワーである。


東京タワーには及ばないけど堂々の高さ195mは高層ビルのない多摩地域なら十分

これだけ立派な塔だけど、上のほうにアンテナがいろいろついているだけで展望スペースのようなものはなく、残念ながら一般人は登ることができない。観光資源の乏しい(失礼)西東京市にとっては目玉にもなりうるスポットだと思うんだけど。

その代わり、この塔にはもうひとつ役割がある。夜になると上部がライトアップされて、なんとその色が翌日の天気予報なのだ。


黄色は曇り!(晴れはなんと紫である)
周辺に高い建物がないので遠くからでもよく見える

東京タワーのように派手ではないけど、この塔もかっこいい。下から見上げる夜景なんてまるで打ち上げ直前のロケットのようだ。

タワーにありがちな角ばった材料ではなく、チューブを組み合わせている構造もいいシルエットだと思う。


あまりにかっこいいのでこの塔の構造だけをじっくりどうぞ

そうそう、電波塔といえば東京には都心にもうひとつ高いやつが立っていたのを忘れてた。


高いけど目立たない国家機密クラスのタワー

なぜ忘れていたかと言えば、都心にあって日本の塔で5指に入るほどの高さなのに、登れないせいか、その役割故か、まったく派手さがなく目立たない塔なのだ。

それは市ヶ谷の防衛省通信塔。


この高さにしてこの目立たなさ!

軍事施設だし、どうせ無理だろうと思ってよく調べないで登れない塔にしてしまったけど、本当は防衛省を見学したら登れたりするのだろうか。いやでも無理ですよね。もし登ってもいいよという防衛省の方いたらご連絡ください。

高さ220mは東京の塔で3番目に高いのに知名度もなく、いや、その前にそもそも名前がない。もしも省内で通称があったりしたらぜひ知りたい。


手前の大学とはまったく関係ありません
あのアンテナは各地の自衛隊基地に向いているのか

遠くから東京を見たときに、東京タワーやスカイツリー(や西東京スカイタワー)は気がついても、この塔は視界に入ったことすら気がつかないだろう。忍者塔だ。

基本的には僕らの生活とは直接関わりがないだろうし、今後もこの塔が本来の活躍をしないことを祈りたい。


企業秘密が詰まった塔

街中に立つ塔は電波塔だけではない。たとえば、府中市内のとある住宅地を歩いていると、いきなりこんな塔に出くわす。


住宅地の先に出現する白い四角柱

このスマートな塔は東芝の工場内にあるエレベーターの研究棟。その高さは135mもあって、この一帯のランドマークと言える。中ではきっと日々最新鋭のエレベーターが動いているんだろうと思うけど、そんな企業秘密満載の場所、登るのはおろか入ることすら叶わないだろう。

この工場にはエレベーター棟がもうひとつ立っている。


なぜだか強烈に「日曜日の夕方」を感じさせる塔

こっちは味があっていい!中腹にはサザエさんを一社提供していたころの企業ロゴが誇らしげに掲げられ、最上部の管制塔のような形の部分も迫力がある。

向こうが大卒のインテリ刑事なら、こっちは叩き上げのベテラン刑事。我ながら意味の分からなすぎるたとえだ。

でもどちらにも共通しているのは、登ってみたい、というところだ。


山上にそびえ立つ用途不明の塔

この近くにはもうひとつ気になっている塔があった。

よみうりランドの遊園地がある山の上に、用途が不明の塔が立っているのだ。昼間はそれほど目立たないけど、夜になるとぼんやりライトアップされて多摩地域を見下ろしている。この機会に正体を暴いてやろうと電車で向かった。



あの塔だ
ここから歩いて向かう

塔が立っているのはよみうりランドの敷地内らしいのだけど、この日は遊園地が休園日で、駅と山上の遊園地を結ぶゴンドラが運休のため、歩いて向かうことにした。そしたらその道がものすごい上り階段。

登れない塔を見るのに、これだけの階段を登っていくというこの不条理さよ。



ここにあったのか巨人の道
巨人への道は厳しそうだ

ちくしょー涼しい顔しやがって
遠くに東芝のエレベーター棟が見えた

250段以上ある階段をようやく登ると、目の前に目的の塔が立っていた。


階段以外に何もない塔

この塔は不思議だった。目的が分からないのだ。外側に携帯電話のものらしきアンテナはあるけど、それにしては大掛かりだ。階段が上まで続いているけど、上には何もなさそう。

塔の周りを見ると、入口があるものの封鎖されていた。廃止されたアトラクションだろうか、と思ったけど、まわりはジャイアンツの練習グラウンドと駐車場があるくらいで、遊園地の敷地とは少し離れていた。

しかし、家に帰ってから調べると、この塔はまったく予想もしないものの跡形だった。



かなり立派な入口があるが封鎖
すぐ隣は巨人の練習球場

なんとあの塔は、昔ここにスキージャンプ台があって、その滑走地点まで登るためのものだったらしい。ヘタな嘘みたいだけど本当の話だ。

こんな東京と神奈川の境あたりにスキージャンプ台なんてまったく信じられないけど、検索したら画像も出てきた。このあたりに住みはじめてからずっと不思議な存在だと思っていた塔は、想像していたよりはるかに不思議な存在だった。


道路の真ん中から突き出た最新の塔

よみうりランドの塔は既に役目を終えていたけど、逆に完成したばかりの最新塔が新宿の近くにある。

それはなんと道路の真ん中から空高く突き出ているのだ。


幹線道路の上下線の間に建てられたタワー

これも異様な光景だ。現代版モノリスか、それともオベリスクか。

近くまでやってくると、さらに先にも同じ大きさの塔がもう1本、立っていた。


もう本当にへたくそなCG合成のように見える

これが何であるかのヒントは、少し戻った先にある。地面に道路が斜めに突き刺さっているのだ。いや、高速道路が高架から一気に地下まで潜っているのだ。


高架から地下に駆け下りる道路

この道路の下には高速道路のトンネルがある。つまりあの2本の塔はオベリスクではなくて、地下のトンネルの換気塔である。排気ガスで地上付近に影響を出さないように、高い煙突を立てて上空で換気しているらしい。

しかし、道路の真ん中から白い煙突が林立している光景は、暫定処置ではなく今後もずっと続く景色だと考えると、やっぱり異様である。


オリンピックの夢の跡、公園に佇む管制塔

今回観てまわった登れない塔は電波塔、エレベーター塔、換気塔などだけど、もうひとつ、公園などのモニュメント、という存在もある。モニュメントは登れない。というかそもそも人が入るようにはできていないのがほとんどだ。

そこで、心当たりのある公園のモニュメントを観に行った。すると、モニュメントだと思っていた塔は実は人が入ることができる管制塔だった。


単なるモニュメントだと思っていたら違った

国立競技場や代々木体育館などとともに、東京オリンピックの会場のひとつだった駒沢公園。生まれる前なのでもちろん知らないけど、ここで競技が行われていたというのは聞いたことがある。

そして、オリンピック開催を記念して立てられたこの塔は、調べてみるとテレビの映像を飛ばしたり、周辺の交通を管制したりしていたらしい。電波塔と管制塔の融合形!

確かによく見ると階段がついていて、上まで登れるようになっているけど、塔のまわりは池で、橋を架けないとたどりつけそうもない。まるでドラクエのラスボスがいる場所だ。



入口があったけど橋を架けないと行けない
確かに階段が上まで続いている

交通を管制していた部屋があるなら見てみたい。今さら機密も秘密もないだろうし、ほかの登れない塔に比べたら敷居は低いのではないだろうか。

けど、どうやったら池を渡れるんだろう。やっぱりまだレベルが低いのか。仕方がないので、しばらくの間は人脈づくりをして経験値を貯めようと思っている。

登れる塔は一握り

塔とかタワーというと展望台がセットになっている気がするけど、実は誰でも登れるものは一握りだ。仕方ないから下から眺めて歩いてみたらおもしろかった。登るだけが塔の楽しみじゃない、ということに気づいた取材だった。

でも、ナントカと煙は高い方へ...なんて言うように、高所恐怖症でもなければ、高いものを見つけると登ってみたくなるのは皆さん同じだろう。だからやっぱり、今回観てまわった塔もいつかは登ってみたいと思っている。

意識して探したら塔ってたくさんあるのね

 
 

 

 
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