東京の西部に広がる住宅地、多摩ニュータウンの入口に、なんだかかっこいい形の橋が架かっている。しかもその橋は、多摩の丘陵を登る長い坂道の上を跨いでいるので、きっと眺めもいいはずだ。
前から気になっていたので、天気のいい日に行ってきた。
(萩原 雅紀)
橋の名前はくじら橋
広大な多摩ニュータウンの東の端、稲城市。多摩川沿いの平地から、丘陵地を切り開いて造られたニュータウンへ続く長い上り坂の途中に、その橋は架かっている。
白いコンクリートに包まれた、ゆるやかに3次元のカーブを描くその姿は独特で、一度見たら忘れられないインパクトを持っている。
この美しい橋の名前はくじら橋。滑らかな曲線を描く橋の裏側のフォルムを見ると、イメージにぴったりの名前だと思う。
実際に橋の真下に立つと、頭の上を巨大な鯨が跳び越えていくようで圧倒される。こういうシーン映画か何かでなかったっけ。
無数にリベットを打ち込まれた鉄骨むき出しの橋もかっこいいけど、ツルンとしたコンクリートの質感を生かしたこういう橋もかっこいい。
かっこいいだけでなく技術的にも優れた橋のようで、「PC単径間固定式門形ラーメン橋」という形式では国内最大らしい。そして「橋梁界のアカデミー賞」とも言われる(勝手に書いた)土木学会田中賞の作品賞も受賞している。
初めて観たときから、この橋には何か持っているようなオーラを感じていたけど、それは本物だったのだ。
くじらの背中に乗ってみる
初めにも書いたけど、この橋は長い上り坂の上に、その坂を跨ぐように架かっているので、橋の上から坂の下の方を見たらきっと遠くまで見渡せるはずだ、と思っていた。
さっそく橋の上に行ってみよう。
橋の上の歩道は、中央の頂点に向かってなだらかに登っている。そのてっぺんに立って都心の方を向いてみた。
おおお、これは予想以上にすごくいい眺め。思わず世界の中心に立ったかのような錯覚を覚えるほど。よく目をこらすと、池袋のサンシャイン60や新宿の高層ビル群まで見えている。ここから見ると自分の生活圏がすべて視界に収まってしまう。
そして、上の右側の写真の右端に注目していただきたい。遠くに霞むひときわ高い建物が見えるだろう。
これ、建設中の東京スカイツリーだ!
これは驚いた。直線距離で30kmも先にあるタワーが見える。スカイツリーすごい。そしてくじら橋もすごい。
スカイツリーが開業して展望台に登ったら、何よりも真っ先にくじら橋を探してみたい。双眼鏡にお金も払うよ。
ここ、昼間でもこんなにいい景色が見られるので、夜景はもっと美しいのではないか。そう思って夜まで待つことにしたけど、まだ時間もあるので辺りを少し歩きまわってみよう。
ニュータウンらしい景色がいい
ところで、くじら橋から見下ろしたときの、真下の道路の様子が気にならなかっただろうか。
くじら橋の下を走るこの道路、南多摩尾根幹線道路という名前で(通称「オネカン」)、計画では片側2車線の高速道路のような形で多摩ニュータウンの南側を突き抜ける予定だった。真ん中の細長い空き地がその道路の予定地で、いま車が通っている両脇の道は側道となるはずだったもの。しかし、側道ができた時点でいろいろな理由から凍結されてしまった。
真ん中の道路予定地はその後、モノレールが通るとか新交通システムが通るとか噂もあったけど、今のところ雑草が刈られるくらいで何も動きはない。
個人的には、よく使うので当初の予定通り開通したら便利だなと思う一方で、この「永遠に開発中」な景色もニュータウンらしい気がして嫌いではないので、今のままでもいいかなとも思う。
くじら橋が架かっている稲城中央公園沿いの道を少し歩いていくと、いかにもニュータウンな歩道橋が架かっていた。
こちらは公園と住宅地を結んでいる歩道橋で「ぞうさん橋」という、いかにもくじら橋のフォロワー的な名前。上部についているアーチもほとんど装飾用で構造体としての役割はないと思う。
でも、橋の上に立ってその先に見えるきれいな街並の家々を見ていたら、毎日こんな橋を渡ってあんな家に帰る生活も悪くないなぁ、などと少し感傷に浸ってしまった。新卒でちゃんと就職してたらそろそろ買えてたかなー...とか。
いろいろネガティブになりながらさらに歩くと、このあたりでは割と大きな橋の上に出た。名前は「上谷戸大橋(かさやとおおはし)」。谷戸、つまり谷地をひとまたぎして、多摩丘陵の尾根と尾根の上を繋いでいるのだろう。
この橋は車で何度か通ったことがあるけど、歩いて渡るのは初めて。橋の上から見える景色はどんなだろう、と気になっていたのでさっそく覗くと、少し予想外の光景だった。
橋の下にも計画的に区分けされたされた住宅地が広がっているのかと思ったら、どうやら丘陵の下はニュータウンのエリア外で、川沿いに多摩の原生林を残す、のどかな光景だった。
反対側の歩道から眺めると、もともと開けていた川沿いの家々と、後から丘陵を切り開いて開発されたニュータウンの街並がくっきり分かれていて、なんだかすごい景色だった。ここはニュータウンの境界線なのだ。
なんだか意味ありげな景色に見えるけど、20年後には川沿いの家が全部立て替えられて、逆に新旧が交代してるかも知れない、などと思った。そういうところも含めてニュータウンの景色は僕の心に響く。
さて、ニュータウンの中を散歩していたら日が暮れてきた。夜景を見に、くじら橋へ戻ろう。
夜のくじら橋
どっぷり日が暮れてからくじら橋のたもとに戻ると、橋は幻想的にライトアップされていた。
昼間は犬の散歩やジョギングの人でそれなりに人通りのあった公園や橋の上も、今は誰もいない。
冷たい風に吹き付けられながら橋の真ん中まで行って、坂の下の方を向いてみた。
眼下には真っすぐ伸びる尾根幹、上下線に挟まれた空き地のベルト、両サイドに立ち並ぶオレンジ色の街灯、そしてはるか遠くに輝く街の灯り。これ、まるで旅客機が大都市の空港に着陸するときのカメラの映像みたい!やンだー、ワダスったら、ロマンヂッグー!
強風であまりの寒さに鼻水が垂れ、テンションがおかしくなった。でもこれは美しいと思う!
そして、昼間も巨大だったスカイツリーは、夜になってさらに巨大化して見えた。
ニュータウンに住みたい
くじら橋の記事のつもりが、途中からニュータウンぶらり散歩になってしまった。
ニュータウンというと「中流指向」「無個性」「人工的」なんてイメージを思い浮かべる人も少なくないと思うけど、いつも車で通り過ぎるだけの街並をぶらぶら歩きながら見てまわって、やっぱり僕はニュータウン好きなんだなと思った。
それとは関係なく、くじら橋は素敵だし夜景もきれいなので、ぜひ観に行ってみてください。
あとスカイツリーってめちゃくちゃでかいっスね(いまさら)。