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東急メディアコミュニケーションズ


ひらめきの月曜日
 
今夜、すべてのバーカウンター内で


「あっ、ソーダ水、買ってくるの忘れた!」
「あれ、氷も必要だったんだ、また買いに行ってくる!」
「うわあ小銭が無い、くずさなきゃ」
「栓抜き…どこ!?」
「おたまが無い、スープすくえないよ!」
「……!」「……!!」

……開店まで、バタバタであった。

大塚 幸代



先月末、11月30日、都内某所。

記事「一日ハーブ居酒屋、メニュー開発中」で計画していた、一日店長のお店。
それを先日、都内某所で、決行したのだ。

人から預かった鍵でシャッターを開けて、店内に入って、ブレーカーを上げる。
7席ばかりのカウンター。不揃いの椅子。ちゃぶ台が2つ置いてある小上がり、障子は破けている。座布団も不揃い。
店、というよりは「部室」という感じの店内。

志のあるオーナーが、安くレンタルしている場所だ。
クチコミで貸していて、友人の紹介で、たまたま借りれた。
そういうキッカケがないと、多分、お店なんて、やらなかったと思う。

飲食業は、学生の時にバイトで一度、やったっきりだ。
川越のデパートの社員食堂で、疲れきったデパガに、コーヒーを売っていた。
今回はコーヒーじゃなくてお酒だ。出来るのか?

ミキサーにかけたり、茹でたり、焼いたり。
仕込みには4時間ほどかかった。
その間に、心の準備が出来るかと思っていたのに、「大丈夫、なんとかなるって!」という気持ちには、結局ならなかった。


100円均一ショップで、タッパーとか買って、イモむいて…。

仕込んだ材料を、肩掛けバッグに入れて、立ち上がってみたら、身体がゆがむほど重かった。試しに体重計に乗せたら、8.4キロあった。あと右手に、2キロのつまみを持って歩かなければいけない。合計10キロ以上。

証拠写真。8.4キロのシロップ。

会場が自宅から徒歩圏内だったとはいえ、移動はつらかった。
よたよたっ、よたよたっと歩いて、相方のMさんと合流。
「おつかれさまです〜」
お互い、平気な顔をしていたが、お互い、テンパっていたと思う。

2人で、持って来た紙と油性マジックで、メニュー表を書く。
こういうのをキュッキュと書くのは、得意だ。


見た目、かなり文化祭っぽいメニュー。

場所の借り賃が安いので、メニューも安く出来た。


ハーブシロップ入りチューハイ 300円
ハーブシロップ入りビール 400円
ビール 350円(瓶)

シロップは、新ショウガ、ゆず、生ゆず(クラッシュしたままの非加熱)、ローズ、しそ、青汁、など。8割は手作りだ。
生ゆずは匂いが鮮烈。加熱ゆずはいちばん甘く、 しょうが類はあったまる。


入れ物はペットボトルしか用意出来なかったんだけれど、ガムテに文字を書いて貼って、かわいく(?)してみた。

三つ葉と鶏肉のオイスターソース炒め 300円
パクチーソースのポテトサラダ 300円
アマランサスのスープ 200円
鱒のローズマリーくんせい 500円

つまみは手作り。
Mさん担当のアマランサスのスープは、開店時間に間に合わなかったので、接客しながら作ることにした。


一応、一押しメニューは、パクチーソースのポテトサラダ(改良版、写真左)だ。きざんだ生パクチーがたっぷりかかってます。

用意するのに時間がかかって、開店予定の19時には、見事に間に合わなかった。7時20分くらいの開店になってしまった。
でも幸いにも、誰も来なかった。ホッとする気持ちと、「ヤバイ…」という気持ちが交差していく。

前日に、友人数人にお誘いメールを出したけれど、「行く」と返信してくれた人は、一人だけだった。
年末の平日だもの、難しくて当たり前。
まあ、そもそも友達自体が少ないのだが…。
用意してきた、1キロのポテトサラダを、そのまま持って帰らなきゃいけなくなったら、せつないなあ…と思っていた。

「CDプレーヤーがないので、iPod用意してきてください」と言われていたので、6時間分くらい、趣味の音楽をぶっこんできていた。
端子に刺す。普段、シャッフル機能を使ってないから、いろんな曲がランダムに流れてきて新鮮だな〜、と、しょうもないことを考えているうちに、一人目のお客様がご来店。
お友達の年下女子で、フードの仕事、経験者の方であった。
つまり「カウンターの中」経験者。
わわ、多分、気をつかわれてしまうな〜と思っていたら、案の定彼女は、後から来たお客様に声をかけたり、「あ、おかわりはこのコップでいいですよ」「こっちのお皿、下げますね」と、大活躍。
申し訳ないと思いながら、いいや甘えちゃおう、と開き直ってしまった。
だって新米ママなんですもの、最低限のことしか出来ないんですもの。

必至で、焼酎とシロップとソーダを割りまくる。
お酒の量をはかる器具が準備出来なかったので、思いっきり目測でやっていた。
とぽとぽ、とぽとぽ。
すべての酒の濃さが、違っていたと思う。みんな、ゴメン…。

でも、味はおおむね好評だった。
手作りのシロップだと、甘さがしつこくなくて、飲みやすいようだ。
シロップのビール割りも人気があった。さっぱりと飲める。
だーっと並べて、種類が選べるようにしたのも、良かったようだ。端から試してみたくなるそうだ。ノリは、かき氷のシロップと一緒だ。


ハーブシロップが、いろいろ選べるのがウリです。

アルコールを飲めない人にも、褒められた。
「手作りシロップだと、ソーダ割でも、がっつり飲んだ気分になれるね、普通のチューハイのシロップだったらこうはいかないね」、と。
「お湯で割って、駅前で売ったら売れるよ!」とも言われた。「ゆず&しょうがのお湯割りなんて、ワゴンで売れば、絶対に売れるって!」
いや、許されるなら、売ってみたいけども…、ヨーロッパで、道ばたで、ホットワインが売っているみたいに。
「ワゴンを持ってないから、スケボーに乗って売りたい」と言ったら、「そんなことしたら、TVが面白がって取材に来るよ!」と言われた。その前に、普通におまわりさんに怒られると思う。

22時くらいになって、「行けない」と返信くれた友達が来てくれた。嬉しかった。
平日だと、やっぱり、当日になってみないと、仕事の調子や体調なんかで、飲めるかどうかは分からない。
開店時にはゼロだったお客が、 お友達のお友達が芋づる式に来てくれて、23時ころには、
まさかまさかの満席に。
たまたま、別の場所でお酒を飲んでいた方が、2件目、3件目として、クチコミでご来店されたようだった。

かつて、張りつめた現場で、超マジメに名刺交換したことがある女性が、
「イエ〜イ☆ みんな、飲おんでるう〜☆」
とか何とか叫びながら入ってきた時は、大変にビックリした。
いや酒の席なので、何でもアリだとは思うのだが、新米ママとしては、そのテンションを受け止めきれなかった。

小上がりの座敷席は盛り上がり、1ダースほどの人が、わいわいやっていた。酔うほどに、高く、デカくなる声。
「ビールくださいーい! ビール! おビールをおおおおおおおお!」
酔っぱらうと、人間ってこんなふうになるんだっけか、そして飲食業の人は、カウンター内から、いつもこんな気持ちで、皆を見てるのか…と思った。
すごく飲んでる人も、全然おかわりしていない人も、意外と把握出来るものなんだな、ということも、知った。


無料の「かじっていいパクチー」。最初、誰も食べてくれなかったのだが、酔っぱらうにつれ、ばりばりと食われていった。最終的には全部ハケた。

シラフでじっと立っていると、いろんな音がする。
高い声、低い声、BGM、
隣のスナックから、ものすごい低音が聴こえてきた。
どこぞのおじさまが、カラオケを熱唱しているっぽかった。
何の曲か解析しようとしたが、全然分からなかった。

時間によっても音が変わる。深い時間になるほど、空気がしんとして、シャッフルがよく聴こえた。

終了時間は24時を予定していたのだが、席が盛り上がりっぱなしだったので、延長することにした。
お店のブッキングマネージャーが遊びに来てくれて、「疲れちゃうから、代わりばんこに座ったりして、休んだほうがいいよ」とアドバイスしてくれた。
しかし何故か意地で「平気ッス!」と立ち続ける私たち。
やっぱりカウンターの内と外は、別世界だ。
当たり前だが、カウンター以外の場所は、陽気だ。友達来てくれてるのに、一緒に騒ぎに加われない。
中島らも著の「今夜、すべてのバーで」っていう酒飲みの本があるけれども、
「今夜、すべてのシンクの前で」同じような気持ちで立ってる飲食業の人が、私たちと同じようにたくさんいるんだよねえ、と、Mさんと話した。

別に困ったことは何もなかったんだが…、
かなり酔った男性に「これかけて」ってiPod出されて、 別にいいっすよと、ジャックを貸したのが、実はほんのちょっとイヤだった。
1日店長とはいえ、私のお城。BGMも自分たちで選びたい。
今後、人のお店に行った時、どんなに仲良い店長さんでも、「これかけて」は慎重に言おう、と思った。

あと反省点は、ビール瓶やコップを下げるタイミングが分からず、コップが足りなくなってしまったこと。
コップの底に、どうしても、自家製シロップが溜まるので、お酒部分を飲みきっても、氷とサムシングが残ってしまうのだった。あれは下げにくい。あの見極めは難しい。

……結局、人が少なくなったのは4時頃。閉店したのは5時であった。

1キロ作ったポテトサラダと、スープは、すっかりはけた。
鶏肉だけちょっと残ったので、人にタッパーごとあげた。
ビールは53本売れた(結構売れた!)。

シロップは、しょうがゆず、生しょうが、生ゆず、ゆず、ローズが人気があった。
青汁割は、不人気で、たくさん余ってしまった。

荷物をまとめると、随分と軽くなっていた。あんなに用意したシロップを、皆で飲んじゃったんだなあ、と思うと不思議な感じがした。
店を閉めて、徒歩で帰る。空は少し白っぽくなっていた。
ぽやーっと歩いていると、知人カップルがチャリで追ってきた。ジグザク走りで、私のペースに合わせてくれる。
「またやってくださいよ」とニヤリと笑う。
「そうですねえ、ハハ」と誤摩化す。
全然、青春っていう年齢じゃないんだけど、きっとハタから見たら青春っぽい光景なんじゃないかなあ、と思った。
曲がり角でカップルとわかれたら、足からガクッと力が抜けた。どうも、緊張していて、気合いで頑張っていたらしい。

総合的には楽しかったのだけれど、翌日、過労と腰痛で、1日寝込んだ。

フードの仕事の人、すごいなあ! と、ただ感心してしまう。こういうのを毎日こなして、より良くしていくなんて。好きじゃなきゃ、絶対に出来ない。

でも、自分が「いいな」と思う食べ物を出して、好きな音楽をかけて、皆が笑って盛り上がってくれる仕事なんて、ハマったら止められないだろうな、と想像は出来た。

さて、次はいつやろうか。とりあえず体力をつけないと…。


しかしまあ、体力も愛想もあまりないので、代わりに誰かやりませんか、ハーブ・バー。手作りハーブシロップと、市販のハーブリキュールがたくさん揃ってるようなテーマ・バーがあったら、結構イケると思うんだけどなあ。客として行きたいッス。

 
 

 

 
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