そこのご主人は、儒学の祖である孔子の子孫らしい。72代目とのことだ。
どんなお店か行ってみた。
(斎藤 充博)
商店街の中華屋さん
異味香(イウイーシャン)は西川口の駅の近くにある。20人も入ればいっぱいになってしまうような、小さな中華料理屋だ。
孔子はそれまでのシャーマニズムのような原始儒教(ただし「儒教」という呼称の成立は後世)を体系化し、一つの道徳・思想に昇華させた。その根本義は「仁」であり、仁が様々な場面において貫徹されることにより、道徳が保たれると説いた。しかし、その根底には中国伝統の祖先崇拝があるため、儒教は仁という人道の側面と礼という家父長制を軸とする身分制度の双方を持つにいたった
(ウィキペディアの孔子の項目より)
仁・道徳・家父長制…ああ、そうだ。儒教ってそういうものだった。しかし、こういう固そうな思想を中華料理に落とし込むと、どんな風になるのだろう。頑固ラーメン屋、みたいな形になるのかな。
などとフト思ったが、行ってみたらもちろん全然違いました。
孔子の末裔はピース大好き
こちらが孔子72代目のご主人。こちらで勝手に堅苦しいイメージを思い描いていたのだが、取材よろしくお願いします、と言ってカメラを向けたらピースサインが出た。
孔子にちなんだメニューはありますか?と聞いてみたが、特にそういうものはないらしい。論語ラーメンとか論語チャーハンとかそういうものがあるなら食べてみたかったのに。
こちらのお店の看板メニューはオリジナルの「煎人餃子」。これは中国で焼餃子を意味する「煎餃子」と、ご主人の仙人のような容貌を掛け合わせたネーミング、ということだ。
孔子→仙人… どうもキャラ付けの軸がずれているなー、などと思っていたら、ご主人はお店の奥に引っ込んで、なにやらゴソゴソやりだした。そして戻ってきたその手には、印籠。
たしかにこの真っ白いヒゲの感じと、柔和な表情が水戸黄門に似ている。
しかし、孔子→仙人→水戸黄門…
キャラ付けの軸がどうこうとかいう問題じゃなかった。この人、楽しければなんでもアリだ。面白い中華屋のおっちゃんだ。
餃子がうまい
ご主人は孔子の72代目(ただし孔子よりも水戸黄門に似ている)、そしてカメラを向ければピースの連発。そんな人の作るオリジナル料理とは一体どんなものなのか。万が一、この笑顔でヘンテコなものが出てきたとしても、断る自信がない。
正直、だんだん不安になって来た。満面の笑みでのピースは、時に人を不安にさせる力があるんだな、と今日の取材で初めて知った。
この煎人餃子、とてもうまい。一口食べると、一つの餃子の中にたくさん種類の具が入っているのがわかる。でも味付けはしつこくなくて、むしろさっぱりしている。皮から溢れ出るスープで、取り皿がぐちゃぐちゃになった。
取材に同行してもらった、当サイトライターの大坪さんも興奮を抑えられない様子だ。後でツイッターを見たら「至高過ぎた!」「ガチ」「埼玉最強」とつぶやいていた。微妙にプロレスっぽ言葉を使って表現するあたりが、本気の印だ。
オリジナルな炒め物がさらにうまい
異味香には息子さんも一緒に働いている。つまり73代目だ。孔子の子孫に二人も会える、おトクな店である。
息子さんいわく、季節の素材を使った「サンマのニンニクソースがけ」と「カキのチリソースがけ」がおすすめ料理らしい。
サンマもニンニクもカキもチリも全部大好きだけれど、そんな料理食べたことない!
単純においしい中華料理屋さん
今回のことをまとめるとこうなる。 ・ご主人は孔子の72代目 ・ご主人は孔子よりも水戸黄門っぽい ・食べ物がビックリするほどうまい
「孔子のスピリットは餃子に受け継がれていた!」くらいのことが言えるとカッコいいのだが、多分それとこれとはあんまり関係ない。単純に近所(僕のうちから徒歩5分くらいだ)にいい店を見つけられて良かったな、と思っている。