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土曜ワイド工場
 
コカコーラの看板を探して


こういうやつ。

人が「なつかしい」と思う風景ってなんだろう。
夕日、田んぼ、作りかけの東京タワー、いろんな原風景があるのだろうけど、昭和と平成の狭間で生まれ育った私が提案する「なつかしい」、それは、コカコーラの看板がある風景である。

田村 美葉



京都が異様になつかしかった

あるとき観光で訪れた京都で、バスから見える街並みが異様になつかしすぎて、神社仏閣どころではなくなったことがある。


京都の街では、こんな感じや
こんな感じで

背の高いビルにはさまれて、小さな日本家屋の商店が大通り沿いにもけっこう残っていることが多いのだけど、この小さな建物がぽつんと取り残されたかんじ、これが、地元金沢のバス通りの風景にすごく似ているのだ。そうそう、APAホテルとかに、はさまれちゃってるんだ。昔ながらの商店が。


そしてその商店の5軒に1軒くらいに掲げられているのが、コカコーラの看板。

寄り添って残る和の情緒の中に、あざやかな看板。

コカコーラの看板自体がなつかしいのではなくて、たぶん、こういった小さな商店が賑わいをみせコカコーラの看板がつけられまくった昭和の一時期が、つぎつぎに建てかえられていく街並みの中のある一角に、取り残されちゃってるんじゃないだろうか。

 

松本大洋が認めたなつかしさ

って、ほんとうかよ。
と、秋の京都で次々と紅葉ではなく赤い看板の写真ばかり撮りながら、自分自身、なんだろうかこの気持ち。と不思議に思っていたのだけど、そういえば…と実家からひっぱりだしてきたのは、松本大洋の漫画。



あった、あったよ。『ピンポン』の卓球道場タムラの隣の店に。
(松本大洋『ピンポン (1)』86頁(BIG SPIRITS COMICS SPECIAL第1刷 1996年)より引用 )
『花男』に出てくる重要な駄菓子屋にも。やっぱり。
(松本大洋『花男2』100頁(BIG SPIRITS COMICS SPECIAL第5刷 2001年)より引用)

いまではなかなかみない駄菓子屋の看板に、きちんとコカコーラを描きこむとは、さすがのプロの風景記憶力である。そんなのとっくに評価しつくされていることではあるが、じつにおそれいった。
さて松本大洋といえば、舞台はいまからちょっと前の湘南だ。よし、湘南、行ってみよう。


1軒だけ、残っていた。今はもうやっていないっぽい、角の菓子屋さん。

東京にコカコーラの看板は残っているか

湘南は、高級別荘地としてなにやら独自の進化を遂げていて、松本大洋が描いたような世界は、というかコカコーラ看板商店は、1軒しか残っていなかった。東京近郊からはもう、あの看板は姿を消してしまったのだろうか。


そんなことはない。こちらは萩原さんがレポートしていた鶴見線の浜川崎駅前。いかにもな風情で完璧なコカコーラ看板ぶり。

かと思えば、駅前からちょっとはずれてはいるが、都心も都心の恵比寿に、ひょっこり残っていたりする。SHOPがアルファベットなところが恵比寿。

どうもコカコーラ看板商店は、ねらった場所にまとめて残っているわけではなく、思わぬところにいきなり現れるようなのだ。ううむこれは、集めるのはなかなか難儀である。なぜ、集めなければならぬのかという話もあるが。

 

両さんの街、亀有でコカコーラ看板を探す

と探索をつづけていた頃、あの有名な『こち亀』にもコカコーラ看板が風景の一部としてよく出てくるという情報を頂戴した。葛飾区亀有、さっそく行ってみよう。


人生初亀有だったが、駅を出て5秒で両さんの銅像(とそれを撮るひと)を発見。
というか、1分に1回くらいは発見。両さん、愛されてる。

亀有駅前はものすごく整備されているものの
放射状にいくつもの商店街がのび、そのどれもが活気づいている。

これは期待できそうだ。しかし…


「角のたばこ屋」だったとおぼしき場所は、増改築でマンションに変貌をとげていた。

こちらはヤマザキショップに変貌。それも、たぶんけっこう前に。

これ、ぜったい、コカコーラ看板だったろ、という場所にも、新しいマンションの告知の看板が出ている。

コカコーラ看板、亀有での収穫は、まさかの0軒であった。

 

東京一なつかしい街、それは大田区

と、がっかりしたようにみせかけて、じつは、私は知っている。見つけたのだ。コカコーラの看板が東京一残りまくっている地域を。
それは大田区。幹線道路の第一京浜沿いを中心に、裏手の路地まで、神出鬼没的確率でもって残ってるのだ。あのなつかしい赤い看板の商店が。
せっかくなので、全部一気にご覧いただこうか。


タバコ・パンの田口商店。

きそばの浅野屋。徐々に気づくことには

コカコーラ看板のついている店って、タバコ&駄菓子屋か

「御食事処」かどっちかに分類される。
そういえば松本大洋に出てきた2軒もまさにそれだった。慧眼おそるべし。

いまもなお営業している店舗は、看板も新しい。

集めた中でいちばんかっこいい名前のお店。そして3桁ではじまる電話番号。

まとめというほどのものではありませんが

コカコーラ看板のついている商店は、駄菓子屋兼たばこ屋、そして居酒屋ではなくて「お食事処」という、コンビニファミレス時代の現代には生き残りづらい形態の店だ。昔ながらの商店街、と呼ばれるところも、既にこういったタイプの店はべつの姿に進化して、いつのまにか21世紀になっている。

都心の高層ビル VS 田舎の田園風景みたいな、注目されがちな変化や守られがちな変化しないものがあるなかで、こうやって、いつのまにか変わっていたり、変わらずひっそり残っていたりするものがあるって、なんだかおもしろいよなぁ、と、街角コレクターごころをくすぐられるのです。


 
 

 

 
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