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ロマンの木曜日
 
新座はいつも雨なのか


この1ドットを見に出かけました

先月「アメッシュでゲリラ豪雨を追う!」という記事を書いた。東京都下水道局が運営している降雨情報提供サイト「東京アメッシュ」を使って、ゲリラ豪雨を追いかけてみようという試みだった。

その頃から毎日のようにアメッシュを見ていて、どうしても気になる場所を見つけた。地図を拡大して、清瀬市が北に飛び出しているすぐ脇、埼玉県新座市のあたりに、いつ見ても雨が降っている場所がある。

どうしてあの場所はいつも雨表示なのか。本当にずっと雨が降っているのか。そんなわけないと思いつつ、何があるのか見に行ってみた。

萩原 雅紀



いつも雨表示の2地点

最初のキャプションで「1ドット」と書いたけど、実はよく雨の降っている(と表示される)場所は2ヶ所ある。


この2ヶ所がよく降っている場所

そのときどきによって両方降っていたり、どっちか片方だったり、たまにどっちも降っていないこともあるけど、でもこの2地点に降雨表示がついていることは非常に多い。これを読んでいる皆さんも、試しに今すぐアメッシュを見てみてほしい。どうだろうか。

ちなみに、この原稿を書いているいまも新座のあの地点は雨表示だ。


分かりにくいけど証拠画像(と思ったけど証拠にならないなこれ)

あまりに雨表示の時間が多いので、たとえばセンサーが異常をきたしているとか、レーダーがエラーを出すような何かがあるとか、実は高い噴水があってそれに反応しているとか、100億分の1の確率で本当にずっと雨が降っているとか、いろいろ考えたり調べたりしたけどよく分からないので、とりあえず実際に見に行ってみることにした。

アメッシュの地図はいまいち詳細が分からないのだけど、グーグルマップで線路や境界線の形をさんざん見比べてみた結果、武蔵野線の新座駅周辺の2ヶ所に目印を立てた。多少ずれたとしても、近くまで行けば何か手がかりくらいはつかめるだろう。



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だいたいこの2ヶ所で間違ってないと思う(上の画像と見比べてほしい)

新座駅下車徒歩20分

というわけで武蔵野線に乗って新座駅にやってきた。

しかし、このところずっと晴天で1滴の雨も降らない日が続いていた(それでも降雨表示はあった)のに、こんな日に限って空はどんよりとした曇り。これじゃ雨降っててもおかしくないじゃん!


雨の正体突き止めてやるぜ!
と思ったら雨降っててもおかしくない空模様

それでも気を持ち直し、携帯に表示される地図を見ながら現場付近へ。まず、上の地図では下にある「降雨ポイント1」へ向かった。

道すがらあたりを見回すと、どうやらこのへんの地名が新座市野火止(のびどめ)というらしく、各所で「のび」をフューチャーしていた。


それにしても野趣あふれる地名
野火止の子供だからのびっ子

野火止のロールケーキはのびのびロール
関係ないけど新規開店の携帯屋に社長から花が

しかし「のび」って「野火」、つまり草原が燃えることだと思うのだけど、子供とかケーキにそんな豪勢な名前をつけちゃって大丈夫なのだろうか。

そういえば僕が中学のときの生徒会長が、生徒会会報を多めに刷って、放課後にひとり焼却炉で余った会報を燃やしていたことを思い出した。彼は炉火っ子。

なんてぼんやり考えながら歩いていくと、おおよそ降雨表示地点と思われる場所に近づいてきた。地図で見るとこのあたり。



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いつもしとしと雨が降っている(と表示されていると思われる)場所

この先の木がたくさんのあたりだと思う
急に道路が濡れてきた!

目星をつけたあたりまで来たとき、急に道路が濡れてきた!と思ったら、これは近くの工事現場から水が流れてきただけだった。でも、目の前の森に近づくにつれて風が涼しくなってきた。明らかに気温が下がっている。

これは...!ひょってして、降っているのか!?


たぶんこのあたりと思うんだけど
空から雨粒は落ちていなかった

 

雨は降っていない

すぐ前に繁る広大な森から吹いてくる風は冷たかったけど、やっぱり雨は降っていなかった。

いちおう携帯でアメッシュを確認すると、やっぱり1ドット水色表示。ちょうどこのあたりで「弱い雨」が観測されている。

何かないかとあたりを見回すと、広大な森のほかに、目の前を横切る用水路があった。野火止用水だ。


平林寺という大きなお寺の森
森の淵を縫うように用水路が流れている

しかし、お寺の森と用水路以外に、このあたりで雨に繋がりそうなものは何もなかった。

たとえば、お寺の森の中はすごく湿度が高くて、そこから吹いた風が用水路の上を抜けたときに冷やされて雨粒が発生、なんてことはないだろうか、などと考えたけど、そんな場所は東京中いたるところにあるだろう。風向きだって変わるだろうし、ここだけ1ドット分雨が降っていることの説明にはならない。

残念だけど、この場所で降雨が観測される理由はよく分からなかった。


たとえばこの木がすっごい水を吸ってるとか

 

降雨ポイント2へ

最初の場所は諦めて、武蔵野線の北側にある「降雨ポイント2」へ移動することにした。国道を越える歩道橋から目星をつけた場所付近の空を何となく見てみたけど、案の定雨が降っていそうな雲はなかった。


たぶんこの方角だけど雨は降ってなさそう

でも、目的地に近づくにつれ、僕の心臓は強く脈打つようになってきた。歩き疲れて息が上がったからだ。

...じゃなくて、遠くの空になんだか期待できそうな物が見えたからだ。


何あれ!
付近には「いかにも公共物」という地味な建物が


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なんとプロットした場所が浄水場前!

 

ひょっとしてこれか

「降雨ポイント2」としてプロットした場所のすぐ近くには野火止浄水場があった。敷地はそれほど大きくなく、窓のないベージュの地味な建物が建っているだけ。門の脇に「浄水場」と書かれたプレートがはめ込まれていて、それでようやく浄水場と分かるような建物。


だいたい目的地の交差点に到着
これ書かれてなかったら何だか分からなかった

そして、浄水場から交差点を挟んだ反対側には、ひょっとしてこれが降雨データの正体か、と推察できるものがあった。

いや、正確にはそびえ立っていた。


これか!という思いと、いやまさかこれが、という思いが交錯する

この、ぬっとそびえ建つ物体は、野火止浄水場の高架水槽(給水塔)。説明が見当たらなかったので正確なことは分からないけど、上部の太くなった場所が水タンクになっていて、浄水場で浄化された水をポンプで汲み上げて溜め、周辺の各家庭に水道水として送るための施設だ(たぶん)。蛇口をひねったときの水に勢いをつけるため、こうして水タンクは高い場所に置かれている。

つまり、ここは上空数十メートルの場所にかなりの量の水が溜まっているわけで、もしかして、ひょっとして、アメッシュのレーダーがそのタンクの中の水に反応してしまって、それを受け取ったコンピューターが「ここに雨が降っています!」という答えを弾き出している、という可能性はないだろうか。


だってこんなに大きいのだ、可能性はあったっていいだろう

だけど、これもその可能性を証明するためには大きな問題が残ってしまう。

なぜなら、高架水槽や給水塔はここだけでなく、アメッシュの観測範囲内にも各所に点在しているのだ。でも、常に降雨データが表示されているのはここだけ。大きさとか高さとかレーダーの角度とか、偶然が重なってここだけ反応している、という可能性も、なくはないけど低いだろう。

というわけで、数時間新座市を歩き回ってみたけど、もちろん雨は降っていなかったし、どうして降雨データが表示されているのかも分からずじまいだった。でも、個人的にこの1、2ヶ月ずっと気になっていた場所だったので、問題は解決していないけど実際に行ってみてなんだかスッキリした。


このとき、やっぱりデータ上で雨が降っていたけど
実際の空からは雨粒は1滴も落ちていなかった

疑問解決...したのか

ちょっと調べたところ、ネット上でも同じ疑問を持っている方が何人かいたので、勝手に期待に答えるべく張り切ったのだけど、何も分からないままだった。

だけどその後、ダメもとでアメッシュを運営している東京都下水道局に問い合わせをしたところ、なんと返答をいただくことができた。

アメッシュで使われているレーダー雨量計は、発射した電波の反射を観測した中で、雨粒によるもの、とコンピュータが判断したものを降雨データに換算している。しかし、中には高層建築物や地形による反射を雨粒と誤認識してしまうことがある。

この現象は「グラウンドクラッタ」と呼ばれていて、新座に居座っている降雨表示もこれが原因らしい。グラウンドクラッタは高層建築の増加で発生するらしいのだけど、その除去作業(データの最適化、ということかな)が追いついていない、とのことだった。

新座のグラウンドクラッタがあの高架水槽によるものかは分からないけど、僕みたいな物好きが勝手に歩き回って推察するのも楽しいので、あれはあのままでもいいんじゃないか、という気もする。

そして、新座では今日も雨が降っている(データ上では)。

それはそうと高架水槽の魅力に少し目覚めた

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また本文とは関係ない告知ですみません。

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17:30開場/18:30開演/21:30終演(予定)
会場/東京カルチャーカルチャー

 
 

 

 
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