ほかっても壊れない箱寿司
おばあちゃんによると、箱寿司は近所のお祭りなんかで持ち回りで作るらしい。
「こないだの祭りのときは誰が作ってきたんだっけな。ご飯詰めすぎて、石みたいになった箱寿司が出たよ。あんなに固かったら、ほかっても壊れんだろ」
おばあちゃんの喋る言葉は、愛知の言葉なのか岐阜の言葉なのか、そのミックスなのか、私には分からないのだが独特の言葉まわしだ。
「ありがとう」のイントネーションが小津安二郎の「東京物語」に出てくるおばあちゃんのそれと全く同じでおお、と思う(映画の方のおばあちゃんは尾道の人なのだけど)。
これぞ郷土料理というアバウト
箱寿司作りは寿司飯と具を用意して詰め、半日から1日押して寝せて作る。この日は晩ご飯に食べる箱寿司を朝に仕込んだ。
「具はね、タケノコとー、あとはいろどりがよければ何でもいいよ」
何でもいい、というのは本気のことらしく、おばあちゃんは思いつくままに冷蔵庫からあれこれと具を取り出していく。
あらかじめ煮ておいたタケノコ、貝の剥き身(結局これは「なんとなく」のおばあちゃん判断で使わなかった)、でんぶ、紅しょうが、シーチキン、にんじん、野沢菜の漬物、しいたけ……。見ると本当に適当だ。シーチキンて。
さらにそれぞれ、刻んだり煮たりして味をつけるのだが、味は「砂糖と醤油を使って濃い目」というルールしか存在しないようだった。おばあちゃんの目分量が炸裂する。
「塩ひとにぎり」という郷土料理の世界
そういえば、郷土料理の資料を読むと「聞き書き」というのがほとんどだ。土地の食べ物の歴史に詳しいおばあさんに、記者が話を聞いたり、実際に作っているところを見て書き起こしている。
勢い、レシピの分量も「片手で2ふり」とか「塩ひとにぎり」とか「茶碗一杯」とかおおよそ数字らしい数字は出てこないのだ。
おばあちゃんの作る箱寿司もまさにそんな具合。これぞ土地の料理という感じがひしひしして、実際は巻いていないはずのねじりはちまきの下が熱い。
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