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フェティッシュの火曜日
 
ぼくをトリコにした、住んでる町の文化財


たとえ観光地であっても、そこに暮らしている人は地元の史跡や景勝地にわざわざ行ったりしないものだ。
観光地でもない土地に住んでいる場合はなおさらで、そもそも地元に見るべき物があるとは考えもしない。
だがぼくは、いま住んでいる岩手県の葛巻という町に大変興味がある。だいぶ大人になって住み始めたからだろうが、この山間の田舎町は、なかなか魅力にあふれているのだ。
そんな中、町の図書館、いや図書室、もとい読書スペースに置いてあった『葛巻町・文化財地図』という物を手に入れた。
「こ、この町に文化財が……」
そんな驚きを胸に、地図を片手に出かけました。

櫻田 智也



ぼくをトリコにした、ある文化財

さて、町の文化財、非常に興味がある。


 
 

とはいえ、物事を実行に移すのが極端に遅いぼく(ほしかった物を買ってきても開封するのが面倒で2日は置いておく)。いつもなら地図を眺めているうちに熱が冷めて、結局放っておくのがパターンだ。
しかしながらこの文化財地図の中には、そんなぼくを「さっそく見に行かなくては!」と突き動かした、ある物があった。

こいつだ。


変なのいた!

どうですお客さん? ぐっとくるでしょう?

こんなの(神)が町内にいると知ったいま、重い腰も上げざるを得ないだろう。


納得の「異形」

「てつぞう・いぎょう・しんぞう・かけぼとけ」と読むのだろうか。広辞苑によれば「かけぼとけ」とは、『銅などの円板上に神像・仏像の半肉彫りの鋳像をつけたり線刻したりして、内陣にかけて拝んだもの』とのこと。

それにしたって、こんな難しい名前のくせに、


当人はこのお気楽さ

かつてこんな親しみやすい神さまがいただろうか。

手の上で浮いている玉はなんなのか。
頭髪は「薄い」ということで片づけてよいのか。
なんでちょっと笑っているのか。
好きな食べ物とかあるのか。

いろいろ疑問は尽きないが、実物を目にすることで解ける謎もあるかもしれない。

 

さがしにいきます

さてこの地図、親切にも裏面に所有者の名前・住所が載っている。なので電話帳で調べて、予め見せていただけるか許可をもらうのが一番早いとおもったのだが、何度か電話をかけてみても不在で繋がらない。
まあ、車で数分の距離なので、とりあえず現地にいってみることにした。


地図によればこの辺りなのだが

もともと地元の人間ではなく、引っ越してきて5年目になるが土地勘も知り合いも少ない。

地図をみると神像のところに「雷電神社」と書いてある。その神社にあるということか。


畏敬の念皆無なイラスト

しかし、この辺に神社なんてあっただろうか。ウロウロするも見当たらない。
仕方なく、


犬に訊ねてみる

犬のご機嫌を伺っていたところ、飼い主さんがやってきた。


犬のご機嫌を伺っていたところ、飼い主さんがやってきた。

飼い主さんは、とても丁寧に神社の場所を教えてくれた。通り沿いの小高い丘の上に社があるという。今日まさに車を走らせてきた(というか、しょっちゅう走っている)通り沿いにである。
「鳥居がある」というが、あっただろうか。丸4年住んでいながら町には知らないことがいっぱいだ。

なんにせよここから近いので、飼い主さんにお礼をいい、車は空き地に置いて徒歩で向かってみた。


「がんばれよ」

 

神社発見

丘ときいたので、注意深く上を見ながら歩く。そのおかげもあって、


屋根の上におっさん発見

そしてつづけざまに、


鳥居発見

ほんとだ、あった。確かに小高い丘の登り口に鳥居が立っていた。みつけづらすぎる。


なかなかの雰囲気

この先にあの神さまがいるのだろうか。ドキドキしてきた。


けっこう登らされてます

すぐそこでウグイスがものすごく鳴いている。しかし道はそれほど呑気ではない。


家の裏手にみえる茶色い丘に登ってます

そして登りはじめて数分、ぼくの目にあるものが映った。


屋根の上のおっさん

いや、おっさんはどうでもいいのだ。

黙々とさらに歩くこと数分。いよいよ頂上がみえてきた。そこには、


岩が

荒々しい

岩から突き出る樹木たち。この樹が桜だったら春の名所にできるのにと町の残念を感じつつ、岩の向こうにまわってみると、そこに社があった。


どうやらこれが

雷電社!(みにくいですが)

犬と飼い主さんの応援もあり、無事に目的地に着いた。ここにアレ(神)がいるのか!?
正直、かなり興奮している。


どれどれ……

いないな…… 

なにやらひょうきんな顔した彫像が数体あったものの、目的の神像が見当たらない。
奥に箱のようなものがある。その中にしまわれているのだろうか。

なんにせよ、許可なくこれ以上の確認は無理なようだ。
夕方近いということもあり、この日はここまでにして、


綺麗な風景をみて帰宅した

丘を下りてもおじさんは屋根の上にいた。知らない人だったが声をかけてみると、満面の笑顔で応じてくれた。おじさんは屋根が大好きなのだろう。

 

数日後、所有者に会いにでかける

数日して、ここはやはり地図の裏面に載っていた所有者の方にお願いしてみようと、再度電話をかけてみる。しかしこの日もつながらない。
犬の飼い主さんに家の場所をうかがっていたので、いきなりではあるが訪ねてみることにした。


服装がまったく同じですが数日後です

よくみたら靴だけちがいました。


近所の人に改めて場所を確認(ものすごく警戒されている)

おばあさん方に場所を訊ねると、「いま帰ってきたみたいよ」と、一軒の家を教えてくれた。見ればちょうど車が駐車場に入り、人が降りてきたところ。
あわててご主人に駆け寄り、持ってきた文化財地図をひろげる。

「突然すみません。これに載っている、この像をみたいのですが」

そうお願いすると、ご主人から衝撃の回答が。

「盗まれてしまって、もう無いんです」

「えー!?」

なんということだろう。ぼくが写真で一目惚れしたあの愛らしい神像は、しばらくまえに盗難にあい行方不明に。そ、そんな……。身体から力が抜けるのを感じた。

きけば、文化財に指定されたこともあり家の中で保管していた時期もあったのだが、やはりお社に置いておくのが良いだろうと戻したところ、盗まれてしまったのだという。


カメラ目線ですが撮られた記憶がないほど落ち込んでます

悲しかった。久しぶりにしょんぼりした。
たとえ見せてほしいというお願いを断られたとしても、あのお茶目な神さまがこの町にいるというだけで、この先もちょっと愉快な気分になれただろう。
しかしながら、もうあの像は、町には(たぶん)無いのだ。

「変なのいた!」とか、はしゃいでいた頃が懐かしい。

 

捜索願い


 

<特徴>
・二頭身半
・小太りだが手足は華奢
・両手に玉を所持(玉は浮いている場合があります)
・頭髪やや少なめ(現在はもう少し薄くなっている可能性があります)
・いつも笑っている
・キュウリが好きそう(実際に好きかは不明)


どこかで見たという方、冗談抜きで(冗談みたいにしてるのはぼくですが)是非ご一報ください。


なんとも悲しい事実にぶちあたってしまったが、このあと地図に載っていたほかの文化財を訪ね、素敵な出会いもあった。

土地の人も名前を知らないような神社をさがして

やっとみつけてウロウロしていたら

代々ここの別当(神宮寺の僧職)をしているという家の方が偶然やってきて

目的の菩薩像をみせていただき

お話を伺いながら楽しい時間を過ごした

わざわざ遠くへ出かけなくても、住んでる町の文化財巡りで、まだまだ楽しく意外な発見がありそうです。


 
 

 

 
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