人の撮った写真を見て「自分もこんな写真を撮ってみたい」と思うことってあるだろう。
僕も先日、強烈に撮りたくなった写真に出会ってしまったのだ。
(安藤 昌教)
なんだかわかんないけど、すごい
ある日、なにげなく通り過ぎた駅貼りのポスターに呼び止められた。なんだかすごいパワーを放っているのが一枚あるのだ。
それがこれだ。
茅ヶ崎市で開催される大岡越前祭というイベントの告知ポスターだが、その写真がなにしろすごいインパクトなのだ。こういうのを「人の心を動かす写真」というんじゃないのか。おれもこんなの撮りたい。
正直この人が大岡越前なのかすらわからないのだが、イベントを見に行けば同じような写真を撮るチャンスがあるかもしれない。道具を磨いて当日を待つことにした。
由緒あるお祭りです
大岡越前祭は大正2年から始まった由緒あるお祭り。茅ヶ崎市にお墓のある大岡越前を奉ったものだ。イベントは二日間行われ、期間中は墓前法要、茶会、写真展などさまざまな催し物が開催される。
しかし今回僕が狙うのはあの写真が撮られたと思われる、「越前行列とビッグパレード(13時〜15時)」のみだ。このために1時間前の12時から現場でスタンバイしている。
パレードの通り道に陣取って「その人」の来るのを待つ。繰り返すようだが1時間以上待った。
野生の動物を専門に撮っている写真家は、平気で1ヶ月とか森に籠もったりするらしいのだが、それに比べれば今回は確実にここを通ることがわかっている被写体なので勝算は十分にあるといえる。
偉い人の乗った車がすごいことになっていた。
こっちはこっちでかっこいいおっさんの集団が。
満を持してやってきたのが。
来た(ハート)
パレードの最後尾付近、「その人」はやってきた。
かなり遠くからでも認識できるその顔は、あのポスターの写真と同じインパクトで僕の方へと近づいてくる。どうしよう胸の高鳴りが抑えられない。
やるのか、あのポーズ
どこだ、どこであのポーズを決めるつもりなんだ。ドキドキしながらピントを追尾モードにしてレンズ越しに彼を追った。
迫り来る白い顔。
来たぞ。来た、来た、きた…
ん?
普通に歩いて行っちゃったぞ
呆然とした。1時間以上待ったんだぞ、ここで。
なのに「その人」はてくてくと歩いて行ってしまった。ばーんといえーい、ってやってくんないのか。そんなのずるい。
あきらめきれずに追う
しばし呆然とした後、あきらめきれずにパレードについて移動することにした。考えてみたら僕の祭りじゃないんだ、そりゃ僕の前で都合良く「いえーい」ってやってくれるわけないだろう。盲目すぎるぞ、この恋。
パレードは駅の近くを通り、大通りにさしかかるにつれ沿道にも人が増えていく。同時にカメラと並んだレンズの種類もコンパクトから大型へと変ってきた。
沿道の興奮も最高潮に達したと思われたその時だった。
やおら「彼」が立ち止まったのだ。
そして遂に、その時はやってきた。
昇天
感動した。
後から見比べると僕の写真の中の彼は表情がかなり固いのだが、たぶん去年と別の人が中に入っているのだろう。
あのポスターの写真と比べるとかなり見劣りすることは認める。しかしなにより同じような構図で同じポーズで写真が撮れたことが気持ちよかった。世界遺産を見に行ってパンフレットと同じ位置から撮りたくなる気持ちと同じか。
なにより過去にあの写真を撮った人と時を越えてシンクロしたような気分になれた。
イベントの楽しみ方の一つだと思います
ただ見ているよりも「参加する」のがお祭りの楽しみ方だと思う。そういう意味でも、前準備のほとんどいらないこんな参加の仕方もアリだと思いますよ。みなさんもぜひ。