ライトアップが好きだ。イルミネーションの華やかさよりも、ライトアップのぼんやりさに魅かれる。もっと身の回りにライトアップされた物があったらいいのにと思う。別に特別なものじゃなくたって、それだけで綺麗じゃないか。 そこにある普通のものを浮かび上がらせてみたい。
(櫻田 智也)
もっと光を
イルミネーションとなると手間がかかりそうだが、ライトアップであれば、とりあえず照らせばいい。こんなことを言うとライトアップ職人に怒られてしまいそうだが、どうせ職人さんは端っからぼくの町には来てくれないのだ。
方法は誰にでも簡単な「懐中電灯で光をあてる」というものだ。 まずはどんな感じになるか、室内でその効果を試してみた。
「お尻だって照らしてほしい」そんな往年の名コピー(ちがう)がよみがえってくる。浮かび上がるわが家の便器。す……ステキだ。 これはさぞ気分がいいにちがいないと、腰掛けてみたのだが。
君は、下からライトで照らされながら用を足したことがあるかい? ぼくはあるんだよ。あれはね、ものすごく落ちつかないものさ。 青は心が落ちつく色だときいていたのでトイレにはピッタリと思ったのだが、お腹でもこわしたような気分になってあまり心安らがない。 ちなみにライトの色は、ラップにマジックで色を塗ってかぶせただけだ。
青で色づけしたラップに上から赤を塗り、今度は暖かいピンク色のライトにしてみることに。 果たして。
「エロっ!!」 わが家にエロトイレ出現である。自分でやっといてなんだが、なんつー色だ。今にもトイレが回転をはじめそうではないか。
出るもんも出ない。 まあトイレはこのくらいでいいだろう。 だいたいの要領はつかんだので、おもてにでかけることにした。
とりあえず照らしてみよう
アパートをでてすぐのところにある、消化栓とホース格納庫。でかけるときに必ず目にする、まったく当たり前の風景を試しにライトアップしてみる。
闇に浮かび上がる格納庫。それ自身の姿もさることながら、背後に形づくられる影もまた、ライトアップの魅力のひとつだ。
浮かび上がる消火栓。光に照らされた姿は力強い。いざとなったら、上の格納庫の中にあるホースをこの消火栓につなげて使うのだろうか。 ただぼくは数年前、格納庫の中に巨大なスズメバチの巣がつくられていて業者が駆除に乗りだしたことを知っているので、近所の家が燃えていたとしてもあの格納庫を開けることはないだろう。
雪との相乗効果で
この季節だからこその風景、というものもある。 たとえば雪原の中の切り株。
なんでもない姿だが、この質感はよく映えると思う。 夜を待ち、再訪した。
樹の周りに雪の窪みができていて、いい感じに陰影をつくってくれる。なかなかうまくライトアップできたとは思うのだが、この場所、近くに人家もなく辺りは真っ暗である。自分で照らしている青白い光がものすごく怖い。
照らしているうちに、蹴っ飛ばしたりしたらぜったい悪いことが起こるような気がしてきた。 人のいる場所に戻ろう。