ガムテープ文字・佐藤修悦さん取材時、お世話になった古着店「シランプリ」が、商品全部無料という、ナゾの展開をはじめた。 「ユニクロとか安いじゃないですか、シマムラもクオリティ高いし」「中野にある、全品500円の服屋とか、すごいじゃないですか」「だからウチも、要らない服を無料で引き取って、無料で売ろうと思って」「エコっぽく言えば、捨てられる服を救うことになるし」「だって、普通の古着屋やってても、つまんないんスよ」 そんなことを言って、店主・山下陽光さんは、2月上旬から、本当に服をタダにしてしまった。 いやなんか、勢いは分かるけど、意味わからん。 そう思いながら、要らない服を持って、シランプリに伺った。
(大塚 幸代)
――キッカケって何なんですか。 「もともと、あんま商売が好きじゃないんですよ。古着屋やってて、友だちが無理して買ってくれたりするんですけど、それがイヤで。利害関係なしで人と仲良くなりたいじゃないですか、でも商売してると、どうしても、そうもいかなくて」 ――飲食店とかだったら、お金を落として帰るのラクですけど…服屋さんだと、そうですね。気に入らない服を買うのもナンだし。 「で、無料イベントに行きまくってる人と、知り合ったんすよ。俺がアップルストアでイベントをやった時、その人に『面白かったです』ってハガキもらって。その人、婚活イベントとか、野菜でスイーツを作ろうイベントとか、ジャンル滅茶苦茶な無料イベントのチラシを、何百枚と持ってたんです。『日本は豊かなのに、無料イベントがないなんておかしい』『マクドナルドのコーヒーも無料だし』って言うんですよ。 確かに、マックのコーヒーが無料って、意味わかんないじゃないですか。個人経営なら別ですけど、無料にしてもらったから、今度はハンバーガー買おう、とか考えないすよね」 ――基本はお客さんの呼び込みでしょうけど、コーヒーだけ飲んで帰っても、文句は言わないですね。 「いま、ファッション業界が弱ってて。安い服屋の悪口を言うんだけど、じゃあ高いものが何故高いのか、説明出来てないし、人を納得させられてないと思うんすよ。石を一個も投げられないっていうか。 そこに石を一個、投げたかったんですよね」
「『商店街が元気じゃない』『ふれあいで勝負』とか、そういう話にも、腹が立ってしょうがなかったんですよ。そういうのイヤだったんです。結局売りたいって話じゃないですか。 それで考えて、ゼロで回そうと思ったんです」 ――どこで儲かるんですか、それは。 「だって面白いじゃないですか」 ――すごく面白いですけど、メシ食っていかなきゃいけないし。 「メシとかは、くれるんですよね、このパンも、近所のおばちゃんにもらったやつで」 ――ああ、このレーズンパン…(私も一個頂きました)。
「ひと月に、千人分くらいの洋服を救えて、千人が喜んでるのに、俺が食えないわけがない、って思ったんですよね。こんなに楽しいことやってるのに。 千人喜ばせて生きていけないなら、この国はダメだなーと思って。 でも家賃は払わないとどうにもならないな、と思いはじめて、今はチップ制にしてるんですけどね」
――結構、みんなチップ置いていきますね。無料で持っていくより、いくらかでも値段があったほうが、持っていきやすいのかも。 「本当は、本当にゼロ円にしたいんですけどね。俺の生活と店の家賃の金さえあれば、何とかなるんですけどね。 普通の営業をやってた時のほうが儲かるんですけど、充実感が全然違うんですよ。『何でこんなことやってるんですか?』ってよく訊かれるんで、お客さんとやたら話すようになって」 ――普通、疑問に思いますよ。 「こっちのほうが面白くないすか? って言うと、『確かに』って言ってくれるんですよね。『今度服、持ってくるよ』とか」 ――なんか、貰っていくと、持ってこようと思っちゃいますね。 「僕自身も最近服を買わないんですけど、何も困らないんです。でもタダだったら服を見てやってもいいと思うかなあ、と」 ――音楽業界と、ちょっと、問題が似てるかもしれませんね。 「新譜が動画でネットで見れたら、CD買う気、なくしますもんね」 ――でも例えば、音楽をやってるコたちは、音楽は趣味にして、別に定職を持って…みたいに思ってるっぽくて、音楽そのものでシステムを何とかしようとか、考えてる人はいないですよ。
――ところでこのゼロ円、いつまで続けるんですか。 「2月いっぱいの予定だったんですけど、楽しいので、ホワイトデーあたりまではやろうかなと。本当はずっとやっていたいけど、家賃が…」 ――前に構想をちょっと伺った時、「ほぼ全部ゼロ円で、自分が価値があると思うものだけ、値段をつける」というコンセプトだった気がするんですが。そうしたほうがいいのでは? 「そのうち、このラックだけ有料コーナー、という形になると思います。 95%のものを無料にして、5%を有料にするのって、ネットの方法で、それでやっていけるらしいんですよ。 あと、マネしてくれる人がいたら面白いかなって思ってますね。例えば埼玉のほうにゼロ円の古着屋がある! って聞いたら、行きたくなるじゃないですか。 ……こうなったら、ゼロ円めし屋もやりたいですね。絶対、俺の悪口、誰も言わなくなると思うんすよね。服はそうでもないけど、メシもらったら、あいつイイやつだよ!って言われそうじゃないすか」 ――たしかに。 「服もそうだけど、食い物も、実家が農家で大量に送ってくるとか、余ってるやつがいっぱいあると思うんですよね。そういうの集めれば、なんとかならないかなあと」 ――炊き出しかあ…。ここ店頭でですか? 「そうですね。メシ食ってる時って楽しいから、人の悪口いわないし、仲良くなると思うんですよ。 もうイヤなんですよ、店やってる人とか、働いてる人、みんな、暗くて。『景気が悪くて、金がない』って、スーパー常套句しか言わないんですよ。 最近、景気の悪さって、俺のせいじゃないか? って思うようになったんですよ」 ――え? 「例えば自分が総理大臣になったとしたら、今、何も出来ないじゃないですか。 絶対、世の中の全員が悪いんですけど、みんな自分じゃなくて誰かが悪いって言ってるんですよ。俺、それに気づいちゃったんですよ。で、何やろうかと思って、こうなったんです。『ここだけは楽しそう』っていうふうにしたかったんです」 ――正しいですね。 「楽しくないとイヤなんですよ。楽しそうにしてたいですよ、実際、楽しいですからね。 あと、食べるものと住むところが0円になってければ、人間はやっていけますよね」 ――住むところが、いちばんハードル高そうですね。 「それは坂口恭平さんの『0円ハウス』の発想で。坂口さんとトークショーで話したことがあるんすけど、世の中に2割くらい、そういう(住所不定の)人がいてもいいんじゃないか、って言ってましたね。2割は多いかなと思うけど、2%くらいは、いてもいいのかなと思いますね」 ――2%かー。 「とにかく、自分のことだけ考えて、地味に古着屋やってたらなんとか食えてくと思いますけど、ぜんぜん面白くないんですよ。 商店街が大手スーパーに勝てる唯一のアイデアって、ゼロ円だと思いません? だって、激安じゃなくて、タダなんすよ?」 ――むむー。 「よく人の家の前に、『良かったら持って行ってください』って茶椀とか置いてあるじゃないですか。あれをいっぱい増やして、ゼロ円ストリートがあったらいいなと」 ――ゲリラ茶碗で町おこし(笑)。 「茶碗に文句言う人、いないと思うんですよね。そういうの、やってみたいですね。 ……世の中が面白くなくなっても、『ノー!』って(拳振り上げて)言うのは苦手なので、『過激な善意』でやっていこうかと思ってるんですよね」 ――言ってることは正しいしスゴイと思うんですけど…なかなか、実行するのは難しいですね。そうでもないのかな。うむむむむ。
正直、アイタタタと思った。 私も、不況で仕事が減って、凹みっぱなしで、愚痴ばっかりで、楽しいことを考えていなかったので。 そうそう。こんな時こそ「まつり」だ。というか、楽しい「まつり」を起こさないと、ジャスト暴動になってしまう。 山下さんとお知り合いになって、3年くらいたつ。 最初は、山下さんによる佐藤修悦さん展示会準備の時、スタッフの皆さんが深夜作業してる店頭に、泥酔して通りがかった私が、「このガムテープ文字、知ってますー!」と乱入、缶ビールをタダで貰ったのが最初だ。 うーん、よく考えたら、しょっぱなから、タダで食べ物を頂いている。 山下さんの「竹やりでUFOを落とそう」的な、無謀な前衛芸術活動は、とてもスゴイと思う。しかも、本当にUFOが落ちる感じがするからコワイ。
あなたも、要らん服があったら、持って行ってみてください。そして、服を貰って帰ってみてください。 「これでいいのか? これでいいのか!」っていう、不思議な気持ちになりますから。
…ちなみに、この店に感激したお客さんが、『スゲー!』って、服を脱いで置いていったことがあるそうですが、嬉しいけど、それは控えてください、とのことです…。
シランプリ
■住所: 東京都杉並区高円寺北3-12-1 ■電話: 090-6044-0140 ■営業時間: 昼3時から10時ごろまで ■休み: 不定休 https://keita.trio4.nobody.jp/shop/10.html (2/27は都合によりお休みです)
場所っプ(山下陽光ブログ) https://blog.goo.ne.jp/bashop/