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ちしきの金曜日
 
おれ奥の細道


おれ奥の細道。

有名な鎌倉大仏の裏には、山を越えるための古くて細い道があるという。それ、「奥の細道」ではないか。

ではないか、と言っておきながら完全に違うこともわかっているのだが、せっかくなので今回はこの古い道を辿ってみることにしました、道々俳句を詠みながら。

新しい趣味へ挑戦した記録でもあります。

安藤昌教



「枯れ」リスペクト

鎌倉は南を海に、残る三方を山に囲まれているため、古くから天然の要塞として重宝されてきたのだという。この地に幕府が置かれ、文化が栄えた理由の一つもここにある。しかし完全に囲まれてしまっては交易も途絶える。そこで昔の人は要塞の岩山を切り開いて細い道を整備した。

今回はそんな古き時代に作られた道を歩き、途中で「歴史が宿る道とは本当によいものですな」とか言いたい。完全に当サイトのライター木村さんの「枯れ」をリスペクトした企画である(参考記事)。


「山間に ちらりと見える 海青し」


しかし僕には全編を通してテンションを保ちきる自信がない。なにか足かせがないと、どこかで服脱いじゃうとか逆立ちしちゃうとか、安易で派手な展開に逃げてしまいそうだ。

というわけで今回は自分を律すべく、道々で俳句を詠むことを義務づけました。取材メモはいっさい取りません。


本当は短冊にしたためたいところですが、機動性を重視して今回はボイスレコーダーを使用。これに俳句を録音していきます。

舞台は前述した通り古都鎌倉。今では海沿いを走る江ノ電に乗ればすぐだ。かつて大変な思いをして山を越えてきた兵(つわもの)どもにはもうしわけなくなるほどの手軽さ。

はずかしかったので言い忘れたふりをしていたが、今回、写真のキャプションは僕が道々詠んだ俳句となっておる。

俳句と言っても厳密には季語がなかったりと、おおよそ完成されたものではないので、五七五の取材メモ程度に受け止めてもらえるとこれ幸い。最後に俳人の方に論評をお願いしてあるのでこちらも合わせてご覧下さい。


「江ノ電が 岩肌かすめ がたんごとん」

まずは江ノ電に乗って鎌倉の大仏さまを詣でた。いやはや、でかいというのはありがたいものですな。

この企画の話を会議でしていたところ、ライター木村さんから連絡をもらった。

「鎌倉七口ですね。実家(神奈川県)にいた頃、七つ制覇しました。極楽寺坂切通しと巨福呂坂切通しは道路拡張で昔の面影がありませんが、それ以外は割と良い感じに残ってますよ。ご案内できないのが残念です。(原文まま)」

さすが巨匠、すでに制覇済みだった。この時点で後追い企画決定なわけだが、それもまた歴史である。


「寒空に 青い大仏 背を丸め」

裏大仏切り通し

この大仏さまのいる高徳院の裏山に「裏大仏切り通し」と呼ばれる古道が通っている。

鎌倉には木村さんも言っているように「七口」と呼ばれる7つの古道が残されており、この裏大仏もその一つだ。僕は単に裏原宿みたいで名前がかっこいい、という理由で選んだ。


「大仏を 残してひとり 山に入る」

裏大仏切り通しへと通ずる道はいくつかあるのだが、どれも国道から脇へ入る細い階段を見つけたらそれを辿っていくとなんとなく行きあたる感じだった。

ここから先は山道になるはずなので、最後のコンビニで非常食としてチョコレートを買っておいた。


「コンビニで チョコを買い込み いざ行かん」

「毛虫だと 飛び退き見れば 毛の生えた草」


チョコレートを買った時の気持ちと、いきなり草を毛虫と間違えた時の驚きを句にしたためている。はっきりいって今後の展開になにも影響しないどうでもいい句だが、今回は詠んだ句は極力全部ここにあげることにする。

俳句を詠みながら、という課題に沿って生活してみると、思いついたことを一度分解して五七五に再構築する作業を行うことになる。

これは今までにない感覚で、普段見落としがちな小さなことでも、俳句に直すことで鮮度を保ったまま、というか新しい鮮度基準を持たせて記憶に残しておくことができるのだ。この技、記憶術として受験とかにも使えるんじゃないかと思う。


「あちこちで 崩れる岩肌 冬の風」

「いざいかん 昨日までおれ 寝込んでたけど」

切り通しは適度に整備されているので本格的な登山の装備は不要だ。とはいえ、ほとんど人が入らない静かな場所なので、最低限の覚悟と用心はしていった方がいいと思う。

僕はこの日の朝まで子供にもらった腸炎に苦しんでいた。そういう人は本来別の日に来るべきだろう。


「どんどんと 細くなる道 いいのかな」

裏大仏切り通しは途中、なんとなく道があるかな?程度の曖昧さになる。注意していれば迷うことはないと思うのだが(夏とかで下草が茂るともしかするかも)うっかり踏み外すと意外と横が崖だったりもするので油断してはいけない。

不安の情は句にもあからさまに見えてきているのがわかる。さあさ、先を急ごうぞ。



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