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土曜ワイド工場
 
そういえば喫煙スペースに入ったことがない


 

今は吸わないが、タバコを吸ってた時期がある。
それは学生の頃、90年代、音楽サークルにいた時代。エレキギターを持った同級生たちが、男女問わず、吸いまくっていた。部室はいつも煙でモクモク。喫煙者率ほぼ100%。

女子校あがりのおぼこい私は、「私も吸ってみようかなあ…」と、手を出した。最初、火の付け方が分からなかった(息を吸いながらライターをかざさないと、火が付かないけれど、私はひたすら火だけかざしてた)。
日の暮れた学校のベンチで、一生懸命、吸う練習をした。
その時吸っていたタバコは、キャスターマイルド。当時、好きだった男子の吸っていた銘柄だ。なんかもう、思い出すだけでこっ恥ずかしい理由ではあるが、まあ若い乙女だったので仕方がない。そういう「銘柄チョイス」をする女子、多いような気がする。

そのうち吸えるようになって、私もモクモクやりはじめた。雨が降っていて、きったない部室に3人くらいいて、ビートルズの「レボルバー」あたりがかかってて……何の話題がなくても、時間がつぶせるのが良かった。あの時間も空間も、もうどこにもないけど、匂いやら雰囲気は、そっくり頭の中に残っている。

だから、私にはタバコにマイナスのイメージはない。人が吸ってても全然平気。
卒業後は、「よく考えたら、タバコ、そんなに好きでもないなあ」と、なんとなくやめてしまった。その後、就職した出版関係の仕事も、ストレスの高い職場だったので喫煙率90%くらいだったけれど、「灰皿を、資料山積みのデスクにひっくり返したら、イヤだなあ」と思って、自分で吸うことはなかった。
不便だったのは、ゴハンを食べた後に「スタバ行こうよ」と同僚を誘うと「喫煙出来ないからイヤ」とドトールに変更されることくらいだった。いや、ドトールでも悪くはないんですけど。

そして今、2010年。とんでもなく喫煙者には厳しい世界になってしまった。
タバコを吸う友人たちは皆、「禁煙しようかなあ…」とつぶやく。
うわあ、今って喫煙するとどんな感じなんだろ? そういえば「喫煙者ブース」って入ったことないや。
そう思って、都内数カ所をまわってみた。
もちろん、1日だけ、喫煙者に戻ってみた。

大塚 幸代



初・喫煙ブース入り



公共の場といえば、とりあえず駅だろう。
まずは、東京駅に向かってみた。
新宿は「吸っちゃダメ」なところで吸っている、いけない方が多いので、きちんとしたイメージのある東京駅なら、と考えたのだ。



JTのサイトに載っていた喫煙ブースを探して、八重洲の地下街をさまよう。
東京駅にはほとんど来ないので、迷いに迷った。広過ぎる。歩くこと20分…。


「オレンジ・ロード」とかいう道の先に、ブースがあった。
男性サラリーマンが、ぎっしりだ。
わあ……。
それを見て、思った。
「なんか怖くて、入れないー!!」
コワイ!? コワイなんて感情が沸くとは思わなかった。
いつもは「あー、喫煙ブースだなあ」と思って通り過ぎるだけなのに、いざ入ろうとするとコワイ。
何て例えればいいんだろう。
んー、タイガースファンじゃないのに、タイガースファンの集う居酒屋さんに行ってしまった感じ…? ひやかしで入ってはいけないような、雰囲気があるのだ。
あと「喫煙ブースのそばに、タバコ売ってるところ、あるよね、きっと」と思ってタバコを買っていなかったのだが、自販機しかなかった。タスポ、持ってない…。
仕方ないので、とりあえずここはスルーして、次の目的場所に向かうことにした。



途中、タバコとライター購入。
買う時もドキドキした。ドキドキする要因はないはずなのだが…。



さて、次は丸の内の某オフィスビルに向かう。
ここも、JTのサイトで紹介されていたところ。明るい色のソファーが置いてあったりして、写真で見る限りでは、都内でいちばんゴージャスそうな喫煙所で、ああワクワクドキドキ…だったのだが。
フロアに上がったら「関係者以外は、入場ご遠慮ください」のボードが。
そりゃそうですよね、すいませんね、何も考えずに来ちゃった私がバカでした、それにしても見たかったなあかっこいいソファー! と逆ギレしながら、駅に戻った。



また最初の喫煙ブースに戻ろう、そしてあそこに喫煙ブース処女をささげよう、と思いながらも、他のブースを通りがかると、「別にここで吸ってもいいかなあ…」と思ったりした。
しかし、しかし最初の予定を全うしよう! と、丸の内側から八重洲側まで歩く。遠い、超遠い。




到着したら、たまたま、誰一人いなかった。
ラッキー、こわくないぞ! 簡単に入れるぞ! と思いながら、写真もとってみる。
可愛い携帯灰皿のディスプレイ。でっかいテレビも設置されている。電源入ってなかったけど。
キャスマイを開ける。ああ、この感じ、久しぶり。ぎこちなく紙をひっぱがす。ぎっちり詰まったタバコを、指ではじいて、抜き出す。なかなか出て来なくて苦労した。
火を付ける。
……フー。
ん? タバコってこんな味だっけ?
もっと草々した味だったような気がするけど…。
ふかすだけじゃなくて、肺に入るように、肺の中を煙が一周しているのをイメージしてから、吐き出す。
落ち着くといえば、落ち着く。コーヒー飲んだ時くらい、テンションは変わる。
でも他人が「おいしそう」に吸ってるのを見た時に、想像してたほどの美味しさは、ない。私の舌が変わっちゃったんだろうか。
でも、この、火のついたものを持ってる、軽い興奮と緊張感というのは、得難いものがあるなあと思った。

 

露天はいい



次は渋谷に向かう。ハチ公横が、喫煙スポットだ。
老若男女が吸っている。ギャルも吸っている。私も2本目なので、慣れた手つき(?)で、しゅしゅっと火をつけた。
オープンエアーは気持ちいい。もう全然違う。吐いた煙が空にのぼってく。吸う合間合間に新鮮な空気が吸えるから、緩急もつけられるし、いい。
海とか山とかで吸ったら、もっと気持ちいいんじゃないか? イメージはネイティブ・アメリカンの人々がタバコ吸うような状態。健康にいいとか悪いとか副流煙とか考えず、誰にも迷惑をかけない、瞑想しながら楽しむような感じ。
でもそんな吸い方、東京では出来ないから、やっぱりこの狭いオープンエアスペースが限界なんだろう。



最後に、渋谷某所の、フリースモーキングスペースとやらに行ってみた。
(看板を撮ってたら「撮らないでください」と言われたので、外観のみ載せる。)
ここはIDチェックをしないと、中に入れてもらえない。中には最新CDの視聴機やドリンクコーナーなど、サービスも充実。サンプルのタバコももらえる。灰皿は一人一個用意され、汚れると、きれいなお姉さんが、すぐに替えてくれる。
快適、といえば快適なんだけど…。
正直、息苦しかった。
ほっといてくれ、吸いたいだけなんだ、と思った。
そうか、タバコ吸いの人たちは、最近はこんな思いばっかりしてんのか…大変だ。

だって嗜好品だもの

私が以前から言っている、しょうもない説なのだが、
「牛丼屋のサラリーマンと、デパ地下でジェラートを食ってる女性はノリが一緒」
というのがある。
一人で、一心不乱。味わうというより、摂取しないとダメ、というような雰囲気。目が一点を見つめてる、もしくは飛んでいる。食べ終わったら、何事もなかったかのように、さっさと出る。
ジャンクフードと糖分は、嗜好品…とは言わないのかもしれないけれど、やめられない止まらないモノだ。
「タバコ」を、牛丼とジェラートと、並べて考えてしまうのは、無理があるだろうけど、でもなんだか、似てる気がする。

一日喫煙者になってみて、あまりの厳しさにせつなくなっても、タバコが苦手な人はいっぱいいるし、健康のこともあるし…コメントがしにくい。
非喫煙者との共存はなかなか難しい。

とりあえず、私はタバコに良い思い出があるので、人が吸ってるのはキライじゃない。
だから、私と同席する喫煙者の方、気兼ねなく吸ってください。
(でも、私は吸い直してみたら、あんまり口に合わなかったので、吸いません…)。


 
 

 

 
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