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ひらめきの月曜日
 
「こころ」の手紙を実際に書いてみる

何に入れればいいんだ

まずは便箋の表紙を剥がして全てを一つにまとめよう。そして主人公が、

「その郵便を受け取った私はすぐ不審を起した。それは普通の手紙に比べると余程目方の重いものであった」

と怪しんだほどの、その分量の多さを実感しようではないか。


書いたものをこうやって一遍に剥がしたのはもちろん初めてです。
それを3冊と4ページで、計154ページ分。

全てを重ねると、厚さ11ミリ・重さ320グラムに。
どう頑張っても2つに折れません。

丸めたところでこの始末。封筒が破れるわい。
じゃあ畳まないで、この手の封筒に入れれば解決だ。

封筒に入れるとしたら、折らずに入れるタイプの物でしか実現不可能である。

ちなみに2009年現在、重さが320グラムの郵便物は定形外で390円かかる(この文庫一冊分よりも高い)。本来なら原稿用紙に書かれていたのだから、もっと枚数があったことだろう。考えただけで恐ろしい話だ。

 

ここは原作に忠実に

この重量感のありすぎる手紙が主人公の元に届いた描写部分をよく読んでみると、こうあった。

「半紙で包んで、封じ目を丁寧に糊で貼り付けてあった」

更にしばらく後に、続けてこうある。

「封じる便宜のために、四つ折に畳まれてあった。私は癖のついた西洋紙を、逆に折り返して読み易いように平たくした」

そうか、より原作に近づけるには、封筒ではなく半紙で包めばいいのだな。そして書いた物は四つ折にすればいいのだな。


とは言うものの、四つ折どころか二つ折りさえ不可能。

さては漱石先生、まさか手紙部分の分量がここまで増えると想定せずに書き進めたのでは…と、訝りたくもなる量である。


仕方がないので2つに畳んで、ついでに半紙もないので、昆布が包まれていた包装紙を代用。
糊で貼るのも面倒なので、セロテープでペッタリと封を。

読者の皆様にも320グラムを実感していただこうと家の中の物をあれこれ計量した結果、大きめのバナナ2本分が、ジャスト320グラムであった。

そのようなズッシリとした重さの物を包装紙にくるんだ状態で手渡されたとしたら、最初はこれが手紙だとは到底思えないのではないだろうか。


「わぁ、何だろう、食べ物かな。ありがとうございます」と言って受け取りながら、
「え、これ手紙? なんでこんなに重いの?」と混乱して るの図。

と、このような小芝居のひとつでも打ちたくなるような、何とも得体の知れない包みなのだ。せっかくなので、このわざとらしい芝居を続けてみよう。

いざ封を切ってみると…。


抑え付けられていた紙がバサーッと弾けて「うわ! ビックリ箱じゃないんだから!」とビビらされ、
あまりの分量に「これを読めってか…」と気持ちが暗くなり、

パラパラ拾い読みをしているうちに、どうやらこれが遺書だと判明、
「うわー! とんでもねぇものを受け取っちまったー!」と頭を抱える。

いや、主人公の青年はこのように頭を抱えなかっただろう。なんたって尊敬する先生からの手紙だ。

しかし、こんなドス黒い告白をいきなりされて、立派なトラウマは抱えることになったのではないかと推察する。

先生も、ずいぶん罪なことをなさったもんだなぁ。

気が済みました

こんなことをされて、あの世の夏目漱石は「冗談じゃない、やめてくれ」と腹を立てているかもしれないが、今回こうして手紙の全てを書き起こすことが出来て、感慨もひとしおである。心の底から満足だ。

一度にこれだけの分量の文字を書いたのだから、てっきり指にタコでも出来るのでは…と心配していたが、万年筆のおかげかペンダコとも無縁であった。なるほど作家が愛用するわけだよなぁ。

最後に、全体を大きくまとめるとこういうことになる。

「こころの手紙を実際に投函しても相手方の郵便受けには入りきらず、不在票が入れられる可能性が高い」

やけに現実的なまとめになってしまったが、漱石先生、平成の世は、だいたいこんな感じですよ。

捨てたら罰が当たりそうで処理に困ってます。

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