ダシうまし、日本橋「そばよし」

天ぷらそばに満足しつつ、次のお店を目指す。関さんに「立ち食いそばをなめてました」と話をする。「でしょ、本当にあそこのは美味しいんですよ」と言う。「僕に翼があったら飛んでいってしまいそうでした」と言うと会話が無くなった。確かに返答に困ることを言ってしまったな、と移動中の半蔵門線で反省した。

僕はもちろんそだけれど、関さんもこの「そばよし」には来たことが無いそうだ。しかし、立ち食いそば界では有名らしい（そんな界があるんだね）。その理由は「そばよし」は鰹節問屋直営なのだ。となるとダシが美味しくないはずがない。女性のお化粧、男性のシェービングクリームのようにそばにとってダシは重要だ。

店内は満席だった。やっぱりみんなここが美味しいことを知っているのだ。券売機の前で何にするか悩み、ダシが美味しいということなのでかけそばを頼むことにした。その安さにも驚いた。

僕が券売機で悩んでいる間に関さんが席を確保してくれていた。「ダジャレですね」と僕が言うとまた会話が無くなった。ダジャレは多くの人を幸せにしないのだということを再確認したが、そばを一口食べたとたんに幸せが訪れた。

雄山、美味しさにうなる

美味しい。僕の心の中の海原雄山がうなった。いきなり士郎と和解した。ダシも素晴らしく、麺も自家製で「これ290円でいいの？」と店員さんに聞き返してしまいそうになる美味しさに、幸せな気持ちになる。今度引っ越す時は「そばよし」の近くにしよう、そして毎日通おうと思うほどに美味しい。

美味しいものを食べると幸せな気分になる。そばよしなら290円で幸せになれるのだ。なんて安く幸せを手に入れることができるのだろう。ダシも麺もすべてに何も言うことがない。これ以上にない美味しさだ。あ〜幸せ。

お酒が飲める、茅場町「がんぎ」

「そばよし」を出るとさすがにお腹がふくれていたので、次のお店がある茅場町まで歩くことにした。関さんが「そばよし美味しかったですね」と興奮気味に話している。僕もそう思う。本当に美味しかった。

この後目的地である「がんぎ」まで道に迷い一時間を要するのだけれど、そんなことが気にならないくらいに僕らは幸せな気分だった。

3時過ぎに「がんぎ」に着いた。一般的なランチの時間は終わっていたので、店内はガラガラ。関さんは「ここはお酒が飲める。もはや立ち飲み屋ですよ」と言う。確かに店内に入るとお酒が置いてある。そば屋で酒を飲むのは僕の中では日本紳士な気がするので、僕もついに紳士の仲間入りなんだと胸が熱くなる。

しかし、店員さんにお酒の注文をすると「すみません、5時からです」と言われた。二人ともうなだれた。
僕の心の中の海原雄山、いつもみたいに怒れ、と思うのだけれど「そばよし」の美味しさにまだ満足している。だからお酒はあきらめて、素直にもりそばを頼んだ。

「がんぎ」は越後十日町そばのお店だ。「越後十日町そば」とは新潟のそばで、つなぎに布海苔が使われている。僕はこの日、初めて食べたのだけど、今まで僕が食べてきたそばとは食感が全く違ったので驚いた。

あの人は芯がある人なの

麺の表面はチュルチュルしている。滑らかなのだ。だから、すすると普通のそばの1.5倍（当社比）のスピードで口に入ってくる。それなのに十分すぎるくらいに腰がある。「あの人は芯がある人なの」と言うのを、そばで考えると「がんぎ」のそばのことだと思う。

もちろん美味しい。僕の心の海原雄山はまたうなっている。いつもの雄山の面影はあまりの美味しさにもはや無い。関さんが「ここは盛りそばがオススメ」と言っていたが、確かに一番そばの食感を楽しむことができる。関さんにカメラを渡して撮ってください、とお願いをする。

僕ら以外に誰もいない店内で男二人が写真を取り合うというのは端から見るとどう映るのだろうか？　でも美味しいから別にいっか！

立ち食いそばにもいろいろあるんだなぁと改めて感心する。奥が深い。早くて安いだけではない。座って食べるそば屋よりも魅力的な味で溢れているのではないかと思う。値段をはるかに超えた味がある。僕は立ち食いそばをなめていた。ごめんなさい。